学内格差と超能力

小鳥頼人

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1巻 学内格差編

エピローグ

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 翌朝。
 学園の最寄り駅に到着。
 土曜日だけど昨日の騒動で滅茶苦茶になった空き教室を元に戻さなければならない。
 勝負の結果自体は白紙になったものの、こればかりは敗れた2科の参加者が行うこととなったのだ。
 けど歩夢は例外で、騒動の元凶ということで自発的に後始末に参加すると言ってくれた。
 歩夢はあの場で自身が騒動の元凶であることをみんなに告白、謝罪し、個別で星川さんと辻堂にも謝罪した。見た限りではみんなからもご容赦いただけたようだ。
 超能力については引き続き使用を自重することにしている。
「しかし結局のところ、1科と2科の格差は変わってないんだよなぁ……」
 昨日で得たものは歩夢との真の友情と、辻堂らの制裁処分のみ。
 結局、今回の戦いは2科の勝利とはならなかった。学園の根幹部分はなんら変わっちゃいない。
 でも――――

「高坂さん、おはようございます~」

 郊外に入ったところ――俺の視線の先に立っているのは遠藤さんだった。
「遠藤さん!? 今日は土曜日なのにどうしたの?」
「昨日の後始末をするために来ました」
 さも当然とばかりに笑顔でのたまう遠藤さん。
「それは2科の役割だよ?」
「私が勝手にお手伝いをしに来ただけなので気にしないでくださいー」
 遠藤さんの隣に到着するなり、制服の袖口を掴まれた――――って、え!?
「遠藤さん!? こいつは一体全体どういうことでありますかでござる!?」
 土曜日の早朝なので周りには人の姿がほとんどないのが幸いだけど、突然の行為にビックリだ。
「えへへー、貴津学園の生徒は誰もいないんですからいいじゃないですか~」
 遠藤さん! あなた一体いつからそこまで積極的になったんすか!
 で、でも、こ、これはこれで役得――いやいや、女性慣れしていない俺にとっては刺激が強い。残念ながら俺の鼻の粘膜はさほど頑丈な作りではないのだ。鼻血は免れない。

「あれ~? 高坂君と佳菜じゃん」

 美しい声に振り向くと、星川さんが驚いた表情でこちらに向かって歩いてきていた。
「ちょっと佳菜ー、付き合ってるわけでもないのに、誰もいないからってそれはずるいんじゃない?」
 星川さんはいたずらっぽい笑みで俺と遠藤さんを交互に見る。
 そして綺麗な肌色の手が、
「なら、私もこうしちゃおうっと」
 遠藤さんが掴んでる腕と反対の袖口を掴んできた。
 えっ、何これ? 両腕が見事に塞がってしまったんだけど。
「私も多分佳菜と同じ気持ちなんだと思う。だから今、ここにいるんだ」
「真夏ちゃん……はいっ、そうですよね」
 そうか。星川さんもわざわざ片付けの手伝いに来てくれたんだ。
 なんて優しくて良い子たちなんだろう。
 なんか背後から走ってくる音がするけど、感激のあまり反応すらできない。

「女子二人を侍らせてデレデレと鼻の下を伸ばしてるんじゃない!! あと鼻息も荒い!!」

 唐突に響き渡る、目が覚めるような怒鳴り声にはっと我に返る。
「す、すみません! 別に両手に花とか二股とかそういうつもりではなくてですね!」
「松本君? そんなに怒ってどうしたの?」
 松本?
 声の主をよく見ると俺がよく知る幼馴染だった。
「交際するなら一対一が筋でしょ。二対一とは君たちは何を考えているんだ!」
「ご、ごめん! 決して歩夢から星川さんを奪ったわけじゃなくて!」
 ようやく幼馴染同士でお互いを本当の意味で理解し合ったのに、こんな誤解であっさりまた微妙な関係に逆戻りするのは絶対に嫌だ。
「俺から奪う? ……どうやら壮大な勘違いをしているね。星川さんと俺は同じテニス部かつクラスメイト、ただそれだけの関係だよ」
 俺の弁解を聞いた歩夢は困惑の表情を浮かべている。
「い、いや、でも歩夢と星川さんはお似合いだってみんなが常々」
 同じクラス、同じ部活で学園の仕事もお互い協力し合ってる親密な間柄だと聞いたけど。
「それは初耳だなあ。星川さん、もし俺と付き合ってくれって言われたらどうする?」
 ライトな口調でたいそうヘビーなことをさらっと言ってないか?
 歩夢の問いに星川さんは少し困ったような表情で逡巡しゅんじゅんした末に口を開いた。
「うーん、ごめんなさい。松本君はとても魅力的な人だけど、そういう目では見れないかな」
「ははっ、俺も全く同じ考え。どうやら誰かさんは思い違いをしていたようだけどね」
 そうだったのか。俺は、盛大な勘違いをしていたのか。
 二人はよき同士であり、戦友ではあるけれどそれ以上の進展は何もなくて。
「それはそうと、いつまで袖を掴んでいるつもりだ? こんな光景を見せられて、生徒会役員としてはさすがに黙っているわけにはいかないんだが」
「えー。こんな機会滅多にないじゃん♪」
「そうです。すみませんが今日だけはどうか見逃してくださいっ」
 二人の手は離れるどころか、より強く俺の袖口を握る。
「なんてこった! 今日はヒロと久々に色々と語り合いながら登校するつもりだったのに! しかしここで邪魔をしたら馬に蹴られそうだ」
 歩夢は苦悶くもんと戦っているようで、俺たちの背後でうなりを上げはじめた。
「両腕には先客がいるから俺は背中を――いや、さすがにそれでは変質者だな。むむむ――ヒロ、やっぱり君の人柄は侮れない」
 いや、腕だとしても俺は全力で抵抗するからね? ってか何を目論もくろんでるんだよ。
 悔しげに下唇を噛む歩夢だったが、ふと頬を緩ませた。
「ま、そんな君だから好きなんだ。幼馴染として、そして親友としても」
「……それは光栄だね」
 照れくさいけど、幼馴染からそんな言葉が聞けてとても嬉しく思うし、同じ気持ちだ。
 ただ忘れないでほしい。今こうして歩いてるのは、地獄絵図と化した空き教室の後始末をするためだということを。

「宏彰ィ! 貴っ様ぁー!」
「うおわっと!?」

 突如何者かに首根っこを掴まれて引っ張られた。
 そのせいで女子二人は強制的に俺の袖口から手を離す事態となった。
「一体全体どういうことだ!? いつの間に二人を口説き落としたんだ?」
 正体は目に大粒の涙を溜めた誠司だった。
 背後には呆れた表情の豊原もいた。
「それ誤解! むしろ俺が口説かれたようなもので」
 いやこの弁解も思いっきり明後日の方向に軌道が逸れてるぞ。
「逆バージョンだと!? 女の子から言い寄られるとか……生かしちゃおけねえな」
 あれ? なんだか急に昨日の後始末を前向きにこなしたくなってきたなあ。早く学園に行って掃除をしないと。
 というわけで全速力で走るとしよう。
 一分、いや一秒でも早く教室を元に戻さなければ! それが俺に課せられた使命なんだ!
「あっ! テメー逃げる気だな!!」
「待ってくれよヒロ! 青空のもと、かつての関係を取り戻した者同士で語り合おうぞ!」
「ま、まったく。さ、三次元のメスに、な、何を、ひ、必死になってるんだか」
 俺が学園に向かって走ると、誠司や歩夢、運動が苦手な豊原も遅れて追いかけてくる。
「二人ともっ! またあとでっ!」
 茫然ぼうぜんと立ち尽くす星川さんと遠藤さんに手を振って、全エネルギーを消費して学園へと走る。
 そう、あの向こうには――たくさんの仲間がいるんだ……!

「あんな松本君、初めて見たなぁ。あはは、みんななんだか楽しそう」
「ですねー。あんな無邪気な光景を見ると、1科も2科もないなーって思っちゃいます」

 おっ、あれは――――

「仕方がないからあたしも後始末を手伝ってあげるわ。感謝しなさい!」
「誰も頼んでないんだけど……あともう少し離れて歩いてくれないかな」

 学園に向かって走ること少々。
 前方に見知った後ろ姿を二つ発見。
 前を歩く二人は、はたから見たらおアツかった。
 迂回するか。蓮見さんに見つかったらまたドヤされそうだし。
 それに良い雰囲気っぽいし、二人きりにしてあげたい。
 そんなわけで迂回して学園へと向かう。

 でも――――
 今回は失敗に終わったけど、2科の地位向上を目指す俺たちの挑戦はまだまだ続く。
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