学内格差と超能力

小鳥頼人

文字の大きさ
52 / 63
2巻 2科分裂編

第5話 ①

しおりを挟む
    ☆

「――なのでここはこの公式を当てはめて……」
 今日は中間試験が近いにも関わらず、なぜか授業参観の日だ。
 おまけに6時間目の授業が参観対象なので、授業とHR後にそのまま親と一緒に家まで帰れるおまけつき。粋なんだか無粋なんだかよく分からないね。
 6組の参観科目は数学Ⅱ。
 粛々しゅくしゅくと授業時間が消化されていたんだけど――
「よし、じゃあこの問題を――高坂、前に出て解いてみろ」
「え、はい」
 こんな日に限って俺が当てられるのかよ。持ってないなぁ。
 おまけに今日一番難しい問題なんですけど。
(ええい、持てる学力を出し切れ、俺!)
 本番は気合いで乗り切る! これぞ、谷田誠司論!
 えーっと、ここでこの公式を使って、計算を――
 計算を終えた俺がチョークを置くと、
「惜しいなぁ高坂! 最後の計算を間違えてるぞ」
「あれっ?」
「はははっ、ケアレスミスだ。解答の導き方は完璧だったのにもったいないな。試験本番では気をつけてくれよ」
「はい……」
 数学教師は爽やかな笑顔で俺のミスを指摘してきた。
 ううっ、保護者たちが見守る中での失態は恥ずかしいぞ。自分の親が見に来なかったのがせめてもの救いだ。
 あと太一、貴様密かに笑ってんじゃないよ。後日覚えておけよな。
 思わずはずかしめを受けたものの、それ以外は平穏に授業は進んでいき――終了した。
 ちなみに豊原の両親も欠席で太一と誠司の両親は参観した。二人は授業後そのまま家族で帰宅していった。
 豊原は図書室で用事があるとのことだったので、俺は一人で下駄箱まで向かうことにした。
 廊下を歩いていると、前方から人のさそうな中年男性が歩いてきた。
 会釈えしゃくをすると、
「こんにちは。もうすぐ試験だね」
「こ、こんにちは。そうですね……」
 目が合った男性から声をかけられた。
 まさか話しかけられるとは思ってもみなかったので少し挙動不審になってしまった。
 とても優しそうな人だ。裏表など一切なく、ただ人柄の良さ、聖人オーラだけが強烈ににじみ出ている。
「勉強、頑張ってね」
「ありがとうございます」
 再度会釈えしゃくした俺に興味を持ったのか、
「君、名前は?」
「高坂です」
 名前を聞かれたので素直に答えた。
「高坂君か。よろしく――」
 と、ここで男性は俺の後方に視線を移すと、
「おう、帰ろうか」
 男性は俺ではなく俺の背後に視線を移して手を挙げた。
「……チッ」
 男性から温和な声をかけられた男子生徒はしかめっ面で心底鬱陶うっとうしそうに舌打ちした。
 すぐ側のトイレから出てきたその男子生徒こそ、2科の宿敵辻堂だった。
 辻堂は男性に声をかけられたことに対して露骨に嫌がっている。
 俺は二人を交互に見比べる。
「えっと……お二人は親子なんですか?」
 似てない。
 あまりにも似てない。
 顔も雰囲気も、性格もなにもかも、全部。
 辻堂の父親のことだからてっきり金髪のヤンキー上がりみたいな出で立ちを勝手に想像していた。
 けれど眼前にいるのはナイスミドルで。
「……あぁそうよ、コイツは俺の親父」
 驚きからつい素で質問してしまったけど、辻堂は不服そうに認めた。
 息子からコイツ呼ばわりされてもなお、お父さんは微笑を崩さない。
「高坂君、晴生と仲良くしてくれると助かるよ」
「え、あ、はい」
「俺はこんな奴と仲良くねぇよ。むしろ敵だ敵」
 俺が曖昧に頷くや否や、即座に否定してくる辻堂。それは俺も同感だわ。
「そう言いなさんな。高坂君は晴生に好意的なんだからさ」
「あ、あはは……」
 仲良くどころか犬猿の仲なんだけど、辻堂の家族を前に平然とのたまえる度胸などなかった俺は戸惑いを隠せずにおどついてしまった。
「連休明けは学園や2科の子たちに晴生が多大な迷惑をかけてしまったようで申し訳なかったね。でもね、こう見えても優しい良い子なんだよ」
「は、はぁ……」
 見た目通りの畜生だとしか思えないけど父親に向かってそれを伝えるのははばかられた。

 一方で俺たちの会話が大変面白くないのだろう、辻堂は足を揺らして貧乏揺すりをしながら、
「チッ、誰彼構わず愛想振りまいてんじゃねぇよ偽善者が」
 父親に向かって好意の欠片すらない言葉を吐き捨てた。外だったら唾をも吐き散らかしてたかも。
「お父さんにそんなこと言うなよ」
 ちょっと言い過ぎだろと思ってつい辻堂に物申してしまうと、キッと睨まれた。
「なんも知らねぇ他人のテメェが偉そうに口出すんじゃねぇよ……!」
「まぁ、それもそうだな……」
 事実なのでそれ以上口を挟めなかった。
 普段の苛烈かれつな感情はそこにはなく、静かな怒りのオーラが奴の周りを覆っている。
「親父もいい加減性善説なんざねぇって分かれよ。無力な善意は悪意で塗りつぶされちまうだろ。赤の他人に親切にしたって見返りねぇんだよ」
「ははは」
 辻堂の説得を受けても父親はのほほんとした態度を崩さない。なんか温度差がすごいぞ。
「それで一番損すんのはどこのどいつだっつー話だよ」
 不思議とその言葉には妙な重みを感じた。確かな経験から発せられているかのような説得力。
「いい人ぶるのも大概にしとけや。んなことしたってよ、いいように利用されるだけだろ」
 それはまるで事実に基づいた指摘のようで。
「少しは自分の心配をしろよ」
「まぁまぁ。ほら、帰ろう。高坂君、またね」
「あ、はい。お気をつけて」
 父親は俺に手を振ると気だるげな息子とともに歩きはじめた。
「ったく、誰が来いっつったよ」
「たまにはいいじゃないか」
「授業参観自体がたまにしかねぇんだよ。それを毎回来られたらたまにじゃねぇだろ」
 辻堂親子はあれこれと話しながら廊下の向こう側へと消えていったのだった。
 肩を並べて歩いているものの、二人の間隔は開いていた。物理的な距離だけじゃない、心の距離にも隔たりがありそうだ。
 彼らは顔や性格が全く似てないばかりか、親子仲さえ相当険悪なようだった。
 ――というよりも辻堂が一方的に父親を邪険に扱っている印象だった。
 以前母親や祖母の話をしていた時は良好な感じだったのに、父親のことは嫌いなのか。
「あんなに優しくていいお父さんなのになぁ」
 けれども誰もが人生のドラマがある。俺の知らない世界で二人は色々あるのだろう。事情は計り知れない。きっと一筋縄ではいかない過去が、そして今があるんだろうな。
 どうして、なんで辻堂は優しそうな両親からあんな風になってしまったのか? と考えたけど、赤の他人の俺が偉そうに講釈こうしゃくを垂れる資格などない。俺が真相を知ることはないのだから。
 衝撃的な出来事だったけど、俺は頭を試験勉強モードに切り替えて真っ直ぐ帰路に着いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...