学内格差と超能力

小鳥頼人

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2巻 2科分裂編

第7話 ①

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 社会見学を終えた貴津学園の面々はお台場公園で昼食タイムとなった。
 公園は海と七色ブリッジを背景に開放的な空気に包まれている。浜風も心地良い。普段の学園生活を忘れて穏やかな気分でいられる。非日常を味わっている感覚。
 うん、それはいいんだけど……。
「……みんなどこ行っちゃったんだろう」
 いつもの面々でお昼をとろうと思ってたのにはぐれてしまった。
 周囲を見渡してみるも、太一たちの姿は見えない。
 チャットで連絡――するほどのことでもないか。
「仕方ない。ぼっち飯と洒落込むとしよう」
 遠足の場で一人飯というのも逆に風流……かもしれない。思い出に残る一ページとなるね。
 まぁ俺は一人でも全然ご飯が食べられるから大して問題ではないけどね。

「――――あれ? 高坂さん、お一人ですか?」

 弁当箱を包むふろしきを広げていると、ふいに綺麗な声に鼓膜を刺激された。
 見上げると、そこには爽やかな浜風に柔らかそうな髪が揺られている遠藤さんと星川さんが立っていた。
「遠藤さん。星川さんも」
「佐藤さんたちはご一緒じゃないんですね」
「はぐれちゃってね」
「そうでしたかー」
 すると遠藤さんは両手をぎゅっと握りしめて、意を決したように口を開いた。
「あのっ、よろしければご一緒しませんか?」
 遠藤さんたちと一緒に、お昼を……? ここなら学園関係者がいないので女子と一緒にいても弊害はなさそうだ。
「俺はいいけど……」
 だけど遠藤さん一人ならともかく、今は星川さんもいる。この前の星川さんのよそよそしい態度を思い出すと少々気まずいんだよね……。
 ちらりと星川さんを見ると、
「私も、大丈夫だよ。一緒に食べよ?」
 薄い微笑みを俺に向けてくれた。拒絶されなくてひとまず安心だ。
「じゃあ三人で食べようか」
「わぁ、ありがとうございますー!」
 遠藤さんは満面の笑みで喜びを表現した。可愛いなぁ。
 星川さんは以前のよそよそしさがなくなってて一安心だけど、あれはなんだったんだろう?
 それはそれとして――二人はなんで俺を囲む形で座ったんだろうか? 両手に花とはまさにこの状況にぴったりな言葉だ。
 周囲からの視線が痛いけど役得ということでどうか許してほしい。
「高坂君はお弁当なんだね」
 左側から星川さんが俺の弁当に視線を送ってきた。
「うん。俺が作ったわけじゃないけどね」
 残念ながらラノベ主人公にままある料理ができる男ではないんだよね。掃除洗濯はできるけど、料理だけはできない。というか面倒でやる気が起きない。
「へぇ、そうなんですねー」
 右側から曖昧に頷く遠藤さんも俺の弁当に熱い視線を送り、
「こ、高坂さん。その唐揚げいただけないでしょうか?」
 うわずった声音こわねで唐揚げをおねだりしてきた。まさかいいとこのお嬢様が母さん直伝の若鶏わかどりの唐揚げを欲するとは。
「えっ?」
「お、美味しそうだと思いまして……」
 予想外の展開に口を半開きにさせる俺に遠藤さんはもじもじしながら上目遣いでおねだりしてくるものだから、ついつい視線を海へと投げてしまう。
 確かに美味しいけど――庶民の味がお嬢様の上品なお口と舌に合うかは知らない。
 遠藤さんは依然いぜんとしてキラキラした瞳で俺と唐揚げに熱視線を送り続けている。
「――いいよ。はい」
 俺は苦笑しつつも遠藤さんのお弁当箱、白米の上に唐揚げを置いた。お前も役得だな。遠藤さんに優しく咀嚼そしゃくされてけよ。
「えへへ、ありがとうございますー!」
 俺が脳内でしょうもないことを考えてると知る由もなく、唐揚げを見つめて喜びをあらわにする遠藤さん。
 しかし、謎のイベントはこれで終わりではなかった。
「で、では代わりにウィンナーをどうぞ」
 遠藤さんのお弁当はいつかと同じく自作で白米、野菜、お肉とオーソドックスながらも栄養バランスのよい内容だ。いろどりも綺麗だ。
「はは、ありがとう」
 俺は自分の弁当箱を差し出すも、遠藤さんは弁当箱にウィンナーを乗せずに俺の顔を見つめて、
「はい、あーん、です」
「あぁーんっ!?」
 タコさんウィンナーを持つ箸を俺の口元まで持ってきた!
 まさかの、あーん――!?
 …………なぜ?
 付き合ってもいない女の子からのあーんとか、誰も予想できないよ!? ノリが軽いオープンな性格の子ならまだしも、箱入り娘で引っ込み思案の遠藤さんだぞ?
「え、遠藤さん!? どうしたの!?」
「んー、なんだかやってみたくなっちゃいまして」
 遠藤さんはペロリと桃色の舌先を出した。お嬢様らしからぬ行動だけど不覚にも可愛らしいと感じてしまった。
 意外と大胆だなと驚いていると――
「ね、ねぇ高坂君。そのブロッコリー美味しそうだね。私のだし巻き卵と交換しない?」
 今度は反対側からおねだりされた。星川さんだ。
「あっ、えっ、いいよ……?」
 俺は星川さんのお弁当箱にブロッコリーを乗せた。
「ありがとう。お礼にジャガイモあげるね」
 星川さんのお弁当はりょく黄色おうしょく野菜多めで赤、緑、黄色とコントラストの効いた塩梅あんばいだ。
「あ、ありがとう」
 一瞬にして野菜同士のトレードが成立したなぁ――
「はい、あーん」
「星川さんも!?」
 なんだなんだ!? 遠藤さんに対抗するかのように星川さんも俺の口元までジャガイモを運んできた。
 ちょっと待って! 同時に食べ物を差し出さないで!
(――――ん……?)
 気のせいか? なにやら視線を感じる……。
 ちらりと周囲を流し目すると、確かに殺気のこもった視線を送る男の人は何人もいたけれど、そのどれとも異なる――もっと黒い感情が込められた視線な気がしたけど……勘違いかな?
「さぁさぁ、ほら食べて~」
「遠慮しないでくださいー」
 ――からの視線を戻した途端にこれである。
 二人の美少女が食べ物を食べさせようと俺に密着してくる。いやいや、普通に遠慮するって。萎縮いしゅくするって!
 俺の人生に一体何が起こっているんだ――!?
 これ、どっちを先に選ぶかによって火種が生まれたりしないよね?
「じゃ、じゃあ……」
 拒否し続けるのも悪いし、二人に対してどちらの方が好きなどないので先にあーんしてくれた遠藤さんのウィンナーからいただくとしよう。
 遠藤さんへと顔を向けようとした――――その瞬間。

「――――ダァーーーーーーッ!! リィーーーーーーーーン!!」

 この声――――…………田中さんや。嵐がやってきたぞ。
 突然の大声に女子二人は俺から箸を引っ込めた。
「ダーリンのシルエットが見えたと思い近づいてみれば! 誠にダーリンではありやせんかーーっ!」
「あ、うん。田中さん」
 ハイ、俺はまごうことなき高坂宏彰です。ちなみにダーリンではありません。
 田中さんは砂を蹴る音とともに砂塵さじんを巻き上げながら全速力で駆けてきた。
 甘酸っぱい雰囲気が一瞬にしてコメディちっくになった。田中さん効果だ。
「ぬぬぅ!? そこにいるのは佳菜!? 真夏もおる!」
 俺たちの側まで来てようやく女子二人が俺を囲んでいると気づいたようだ。何が田中さんを盲目もうもくにさせてるというんだ……。
「絵梨奈ちゃん。こんにちはー」
「こんにちは。相変わらずパワフルだね」
「うむ。貴様らも日々精進しているようだな!」
 イマイチ会話が噛み合ってないけど、三人とも知り合いっぽい。
「三人とも面識があるんだね」
「私は絵梨奈ちゃんとクラスが一緒なんですよー」
「えぇ、アッシは佳菜と同じく4組なのですぞ!」
 俺の前に立つ田中さんとその両隣に座っている二人の絵。まるで美少女に囲まれた野獣だ。
「私はかねてから絵梨奈のボクシングの腕前を聞いててね。興味があったからつい最近話しかけて友達になったんだ」
「そうだぞ。我々は一蓮托生いちれんたくしょう、一心同体なんじゃよダーリン!」
 そうだったんだ。一心同体のくだりはよく分からないけど、仲良きことは美しきかな。
「ごめんごめん。正直意外な組み合わせだから驚いてさ」
 失礼な偏見が脳裏に湧いたことを詫びた。
「まぁよかろう。ワシは体型と同じくらい大きくて広い器の持ち主だからな!」
 自分の体型をイジリの材料にできるところは確かに懐が広いかもしれない。
「佳菜ぁ。まさかとは思うがワシのダーリンを狙ってないだろうなぁ?」
「……ええっ!? えっと……」
 田中さんはワイルドな笑みを浮かべながら遠藤さんの肩に手を回して牽制している。クラスメイトだけあって結構仲は良いらしい。
「コブをつけるのはよせや?」
「コ、コブ……ですか……?」
 遠藤さんはたいそう反応に困っていた。
「えっ……と……ダーリン?」
 星川さんは「ダーリン」の単語に戸惑っている。登場時の叫びは「ダァー」と「リーン」で区切っていたのでダーリンと叫んでいたことに気がついてなかったようだ。
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