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親友の変化

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中庭は学校の敷地内に芝生が敷かれているスペースで、今日みたいに天気の良い日は何人かの生徒が昼食をとっている。雨が降るとベンチがいくつかあっても屋根は無いので使用ができない。
シャズは隅を好むので、中庭でも比較的人が少なく、日当たりがあまりよくない体育館近くの階段がいつもの場所だ。雨だと階段の裏に移動することもできる。
「さて、たっぷり聞かせてもらうぞ!」
「あ、ハイ!何でも聞いてください。改めましてリーシュグリスです。リーシュって呼んでください」
リーシュは嬉しそうに姿勢を正し、綺麗にお辞儀した。
「あ、どうも、シャズの友人でビトリーです・・・」
ビトリーはペコっと返した。ビトリーのこんな焦った姿は珍しくて手が少し止まった。
「一体何があったんだ?」
「・・・えっと?あっ!シャズさんがコックさんになりました!見て下さい!お弁当とっても美味しそうです!」
「あ、うんそうだね~。で?」
天然のリーシュにはビトリーもお手上げらしく、俺に聞いてきた。
「ウサギに餌付けしたら懐かれた」
「は?」
「シャズさん!私ウサギじゃありません!」
「え?俺は屋敷の近くにいる野ウサギに野菜のくずやったんだけど?やっぱりウサギの自覚あるんだな」
「んもう!シャズさんは隙あらば私をからかうんですから!」
「拗ねるなって」
「拗ねてないです!」
「素直になれよ~」
「もう!怒ってるんです!バカバカバカバカ!」
リーシュは俺をポカポカと叩く。
「リーシュん家の屋敷で住み込みのコックとして雇われたんだよ」
俺はリーシュに叩かれながら説明する。
「・・・何で?」
「スカウト?された」
「だから何で!」
「弁当やったらおかわり要求されたんだよ」
「おかわりって!違います!私大食いみたいじゃないですか!」
「いや、男の子昼飯ペロっと平らげといてよく言うよ。最初は信じられなかったよ」
俺は食べながら呆れた。リーシュはお弁当をそっと置いてお箸を握りながら力説しだした。
「そうですけど、・・・違います!お弁当が美味しくて、ロジーに話したら次の日ににんじん農家さんが来てくれて、ロールケーキもグラッセも美味しくて、それをおかわりしたらにんじん農家さんはシャズさんだったんです!」
「結局おかわり要求してるじゃねーか!ってかにんじん農家さんはヤメロ!お前がウサギなだけだろ!」
「にんじんが好物ってだけじゃないですか!馬だって象だってにんじん好きですよ!?それはにんじんに対する偏見です!」
弁当箱を置いて悩むフリをする。
「じゃあお前は馬や象って呼ばれたいのか?意外だなぁ、でもリクエストには応えなきゃいけないよなぁ。お馬ちゃんとかか?小僧?
「なんでそうなるんですか!しかも小象じゃ無くていま小僧でしたよね!?」
「お、お前ら仲良くなるの早すぎじゃね?」
「仲良くねーよ!・ないです!」
2人でビトリーを見た。ハモったし。
「シャズさんは私をからかってばかりなんです!バカにしてるんですよ!?親戚の弟達みたいです!」
「あぁ、遊んであげてるんじゃなくて遊ばれてるってヤツな」
「違います~!シャズさんのバカバカバカバカバカ!!」
「ハイハイ痛い痛いー」
「バカぁ!」
リーシュはポカポカとまた俺を叩く。
「あ~もういいわ。ごゆっくり~」

ったくイチャつくなよ
ビトリーは内心で悪態をついた。聞かれたらまたさっきと同じ事になるのは目に見えている。しかし、シャズがこんな顔で女子と話せるとは思っていなかった。人間嫌いで心を許せる相手は片手の指で軽く収まってしまうからだ。まさか冗談で言ったお屋敷の仕事につくとは思わなかった。

リーシュがいい子でホッとしたが、ビトリーはリア充爆発しろ!とばかりに放置してあったシャズの弁当にいくつか手を伸ばしたが、中身の同じそれはリーシュのお弁当で、気づいたリーシュは見るからに落ち込み、シャズがいくつか分けるのはもう少し後。
ビトリーは余計に後悔する事になる。
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