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主人の為に嘘をつく

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「リーシュ様、シャズさんが!」

お昼休みにロジーから電話があった。
早退して屋敷に帰り、使用人用の離れにある医務室のドアを開けると、シャズさんが眠っていた。
「トラックの荷台から落ちたようです。幸い一緒に落ちたシーツに包まれたせいか、大きな怪我はありません。落ちた場所も柔らかい雪の上だったようです。医者は打ちどころが悪ければ骨を折っていただろうと」
「そうですか」
「申し訳ありません・・・」
「いいえ。シャズさんは守ろうとしてくれたんですね」
「そうですね。まだシーツを掴んでいらっしゃいます」
リーシュはベッドの側にある椅子に腰掛けて、すり傷を負っている頬に手を伸ばしかけて止まり、シャズの掴んでいるシーツの裾に触れて、そのまま顔色だけを伺う。
「ロジー、最近シャズさんはいつも無茶をしてます」
「そうですね」
「私、心配でたまらないです」
「そうでしょうね」
「体調が悪いのに、私の思い出を庇ってくれました」
「はい。私も助けを求められましたが拒んでしまいました。お恥ずかしいです」
「シャズさんに大きな怪我が無かったのは、お母様が助けてくれたんじゃないかと思うんです」
「そうかもしれません・・・」
「でも、私はヒドイです。ヒドイ奴です!最低です!」
「リーシュ様?」
「・・・シャズさんがこんな大変なおもいまでして、怪我どころじゃ済まないかもしれなかったのに、嬉しいんです。シャズさんに凄く大切にされてる気がして・・・!!全て私の所為なのに!」
「リーシュ様、それは尊敬や友情ですよね?」
「わかりません。実は、私の初恋は学校の入学式で助けてくれた人なんです。シャズさんによく似ているから惹かれるんだと思います。でも、私の理想をシャズさんに押し付けているだけかもしれません。あの時、コンタクトを落としてしまいましたから」
「リーシュ様・・・!」
「でも、いつまでもこうしていられないのはわかっています。私は、ユージュアルを裏切るような真似は出来ません」
「・・・・・・」
「さ、いつまでも此処にいたらシャズさんが安心して眠れません。行きますよロジー」
「はい・・・」

ロジーは助けてもらった事だけを聞いていて、それがリーシュの初恋相手だとは知らなかった。リーシュも調べるなと言ったが、ロジーは主人の為に嘘をつく。

その人物は今年の夏の連休にようやくシャズだと判明した。
それは、ロジーが釘を刺した前日の事だった。
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