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後輩の章

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「ま、マオ様!?」
「様ってようあ!らうのあか!」
「泣きすぎて何言ってるかわかんないッスよ」
「うっさい!らうのバカ」
「無事だったからもういいでしょう。マオ様」

「さあって・・・」
「え?」
「さあってようあ!」
「だから何言ってるかわかんないッスよ」

「でも、オレ本当にマオ様の事尊敬してるんすよ。こんなオレの事でこんなに泣いてくれて、感激しかないっすよー」

「でも、正直なところ、恐れ多いっていうか、身分不相お 
「・・・・・・!」
「ぐはっ!っ痛ー、なんすかぁ!いきなり腹パンって」
「らうが、さびしいこと、いうかあ!」
「なんで殴った本人のが痛そうな顔してるんすか」
「らうが、ばかあかあ~!」
ラルはこうやって傷だらけになる事が普通になってしまっている。
スリや泥棒を強いられ、見つかって傷を負う。目立たないところには仲間から、目立つところには相手から。
逃げ足の速いラルが、傷を負うような失敗をそんなにたくさんするわけが無い。成果を求められて、無茶ばかりするのが普通になってしまったからだ。
学校でだってそう。ラルはペイストと同じぐらいに実技は凄い。短剣の扱いは見事なものだ。でも、本当は出来るのに勉強しない。
テストでは迷う事が多く、困ったラルはカンニングをした。学校でのカンニングはまず無理だと言われてるのに、卒業まで何度も何度も繰り返した。

「たしかに痛かったけど、頼ってくれた信頼に応えられてオレは満足ッス」
「ばかあ~!!」
「あー、もう子供っすか?」
「ばかばかばか!!らうのばか~!」
「オレなんかの為に泣かないで下さいよ」
「やっぱいばか!ぼくは、らうのへんぱいなんらから!おこあなきゃいけああの!」
「あーもう、何言ってるかわかんないっすよ!」
「へんぱいあ、こうはいをおこうの!」
「あー先輩は、後輩を起こす?」
「・・・!」
「でっ!二回も殴りますかぁ!?同じとこ」
「怒うよ!殴うよ!心配ばっかかけて、ら、らうのばか~!!」
「あーもう。泣いてて優しくするのは女の子だけなんすけど、マオ様は特別っすよ?」
「様ってよぶあ!」
「じゃ、マオ先輩」
「うん」

「オレ、世界一の幸せ者です。
あなたを先輩と呼ぶなんて身に余る幸せなんス。
オレあなたの後輩である事が誇りッス」

「おいら、仲間だなんて思ったことないっすよ
え?ずっとそう思ってたんすか!?おめでたいっすねー。人類みな兄弟ってか?」

ゲームでは裏切っていたあの時のセリフだ。
「やっぱりわかってない!」
「貴方を守りたいんスよ」
「じゃあ一個約束」
「はい!」
「先輩として接する!命はかけない!崇拝しない!様呼び禁止!無茶もダメ!!」
「一個じゃないッスよ?」
「いいの!1人で抱えないで、僕の事も頼ってよ・・・!」
「・・・はいッス。にふぇーでーびるマオ先輩」
「え、何?」
「・・・何でもないっす」

涙が落ち着いたマオにリシンが声をかけた。
「マオ、もう大丈夫か?」
「うん。みんなに伝えてきて、リシン」
「わかった」
「俺らもここを出ますか」
「うん、怪我治すからちょっと待ってペルフュジオン」
治癒術を使ってラルの怪我を治した。
「マオ先輩治癒術も出来るんスね」
「攻撃専門だと思ってた?ま、広範囲のは使えないけど」
「あぁ、俺も簡単なのしか使えないッスね」
「ん?」
「え?」
マオは確認する。
「ラル、治癒術使えるの?」
「え、はいまぁ。あ、今のなら俺も使えるっす」
「じゃあ何でそんなに怪我してたの?」
「いや、拷問されてるのに治癒術使いまくってたら集中力すぐ切れますし、あ、他にも大げさに痛がって気を失ったフリすると最小限で済みます。ああいうのは反応見たいだけなんで。強がって挑発したりはカッコいいけど効率悪いっすよ!今回は宰相が時計持っててすぐ側にいたんで長引かすためにちまちま回復術使って、ほとんど黙ってたっす!」
「・・・」
つまり、いつでも治せたという事・・・!?心配して泣きまくった私の涙を返してほしい!!
「いやーでもあの宰相気持ち悪かったッス。全身蛇に巻かれてた気分すよ」
「やっぱりラルは・・・」
「あ、他にも縄抜けにコツがあって
「ラルはバカー!!!」
「ん?マオ先輩にも今度教えるっすよ?
「知らないバカ!」




翌日
やはり国民は日の出と共に革命を起こそうとして城の前でスタンバイしていたが、騎士団に宰相が捕まって城から出てくるところを見て拍子抜けしてしまったようだ。
あんな状態の宰相は無害でしかないもんね。
今は騎士団の牢で大人しくしている。

ラルの見つけた証拠から宰相の国王殺害が明確になり、ラルはお手柄だけど、必要ないと、名乗りあげたりはしなかった。


父さんやおじさんと話し合った結果
国民の希望で父さんが国王になり、前の国はシリウスがなる事に落ち着いた。
父さんは迷っていたけど、父さんが箱を開いてそっと指輪に触れるとスルリと抜けて父さんの手に落ちた。
おじいちゃんは、父さんに国王になってほしいと、最期に願ったようだった。
この時、私は父さんの涙をはじめて見た。
国民に相談したらこれがいいと落ち着いたんだ。
私も母さんも引っ越してここで暮らしてる
ここは海が近くて魚が美味しい。私の好物にあおさを使った出汁巻き玉子が入るようになったのは少し先の未来。


証拠の指輪
王家に代々伝わり、冠と同じ意味を持つ
嵌めている持ち主が、渡すと認めないと外れない。
自害や継承の時に渡すと外してきた。
王の指の骨にまだあり、宰相の髪が絡まっていた。
宰相は指輪を手にしようと探していたが、直系の王家しか開けられない玉座の椅子に隠されていた
ケインとマオしか開けられない


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