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第1章 高校編
仏眼相
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2月の声を聞いても寒さは本番真っ只中だ。暦の上では春でもその春の足音はまだまだ聞こえない。春一番が吹く前にスギ花粉はさっさとやってくると言うのに。そんなわけで高校生たちもあともう少しの間、手袋やマフラーと仲良くする予定である。
海岡高校は駅から徒歩で15分ほど歩いた場所にある。駅からバスも出ているのだが、待っているよりも歩いた方が早いので天気の良い日は歩いて登校する者も多い。クリスマスライブの後から遙加は過保護な九条に車で送り迎えをされていた。校門の前だと流石に目立ってしまうと言ったらどこに手を回したのか職員用の駐車場を一つ確保していた。
如月が知ったら細部まで調べ上げそうだが、その点遙加は全く無頓着だった。薫と一緒に居られればそれで良いのだから。
今朝も迎えに来た薫に対して母はいつものように上機嫌だった。
「おはよう薫さん。今日も素敵ね!」
「おはようございます、お義母様もいつも素敵ですよ」
「あらー、嬉しい!」
そして母はくるりと振り返って娘を急かす。
「ほら遙加、早くしなさい。薫さんを待たせちゃ悪いでしょ」
「はーい」
そして母には聞こえないようにボソッと呟く。
「全く誰が学校に行くんだか分かんないじゃない」
「何か言った? まあいいわ、行ってらっしゃい。2人とも気をつけてね」
「はい、行ってきます」
「はいはい、行ってきますー」
大きく手を振る母に見送られ、2人は学校へと向かった。寒いのにご苦労なことである。遙加の家から学校までは車で30分程。その間2人は他愛もない話をしていた。
なぜかその日は手相の話になった。
「遙加は仏眼相って知ってる?」
「何それ?」
「珍しいと言われている手相の1つなんだ。親指の第1関節の部分の線が1本じゃなくて2本あってまるで目のように見えるからそう言われているんだよ」
「そうなんだ」
「左手にあるとご先祖さまに守られていると言われているんだ。右手にあると霊感が強いと言われているんだよ。あと記憶力もいいらしいね。遙加にもあるんじゃないかな、手を見てごらん」
「えー、まさか」
そう言って自分の手を見た遙加は絶句した。
「どうした?」
丁度学校へ到着したので海岡高校職員用駐車場に車を停めると、薫は遙加の手を取った。
「なんだ、やっぱり両方にあるんじゃないか。それどころか第2関節にもあるね。流石遙加だ」
「何が流石なの?」
「両手に仏眼相があるだけじゃなく第2関節にまであるってことは、相当霊感とか霊能力が強いってことだよ。その力、大切にしないとね」
「薫は何だかよく分からない霊感とか、霊媒体質とか気持ち悪くないの?」
「全くそんなことはないよ。嫌だったら許嫁になんかなるはずないだろ」
「ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。これでも遙加のことは誰よりも大切に思っているんだよ」
「私も、薫のこと大好きだよ」
ポット顔を赤らめる遙加だが、ここが学校の職員用駐車場だと言うことをすっかり忘れている。
「遙加、そろそろ行かないと遅刻してしまうよ」
薫は涼しい顔をして遙加を促した。
「うん、行ってきます」
「いってらっしゃい、気をつけてね」
そそくさと用意をして車を降りた遙加だが、頭の中は薫の言葉がぐるぐるとエンドレスで巡っていた。
『遙加のことは誰よりも大切に思っているんだよ』
その日の遙加はその言葉を思い出しては1人で悶えていた。
「きゃー!」
時々発する奇声に、またいつものことだと驚くことなく周りは見て見ぬ振りをしてくれていた。
クラスメイトの遙加に対する認識はこうだった。
『なんでこんな感じなのに、歌がめちゃくちゃ上手かったり成績が良かったりするんだ?』と。
このことは後に軽音楽部の七不思議の1つと言われるようになるのだった。もちろん遙加の知らないところで。
海岡高校は駅から徒歩で15分ほど歩いた場所にある。駅からバスも出ているのだが、待っているよりも歩いた方が早いので天気の良い日は歩いて登校する者も多い。クリスマスライブの後から遙加は過保護な九条に車で送り迎えをされていた。校門の前だと流石に目立ってしまうと言ったらどこに手を回したのか職員用の駐車場を一つ確保していた。
如月が知ったら細部まで調べ上げそうだが、その点遙加は全く無頓着だった。薫と一緒に居られればそれで良いのだから。
今朝も迎えに来た薫に対して母はいつものように上機嫌だった。
「おはよう薫さん。今日も素敵ね!」
「おはようございます、お義母様もいつも素敵ですよ」
「あらー、嬉しい!」
そして母はくるりと振り返って娘を急かす。
「ほら遙加、早くしなさい。薫さんを待たせちゃ悪いでしょ」
「はーい」
そして母には聞こえないようにボソッと呟く。
「全く誰が学校に行くんだか分かんないじゃない」
「何か言った? まあいいわ、行ってらっしゃい。2人とも気をつけてね」
「はい、行ってきます」
「はいはい、行ってきますー」
大きく手を振る母に見送られ、2人は学校へと向かった。寒いのにご苦労なことである。遙加の家から学校までは車で30分程。その間2人は他愛もない話をしていた。
なぜかその日は手相の話になった。
「遙加は仏眼相って知ってる?」
「何それ?」
「珍しいと言われている手相の1つなんだ。親指の第1関節の部分の線が1本じゃなくて2本あってまるで目のように見えるからそう言われているんだよ」
「そうなんだ」
「左手にあるとご先祖さまに守られていると言われているんだ。右手にあると霊感が強いと言われているんだよ。あと記憶力もいいらしいね。遙加にもあるんじゃないかな、手を見てごらん」
「えー、まさか」
そう言って自分の手を見た遙加は絶句した。
「どうした?」
丁度学校へ到着したので海岡高校職員用駐車場に車を停めると、薫は遙加の手を取った。
「なんだ、やっぱり両方にあるんじゃないか。それどころか第2関節にもあるね。流石遙加だ」
「何が流石なの?」
「両手に仏眼相があるだけじゃなく第2関節にまであるってことは、相当霊感とか霊能力が強いってことだよ。その力、大切にしないとね」
「薫は何だかよく分からない霊感とか、霊媒体質とか気持ち悪くないの?」
「全くそんなことはないよ。嫌だったら許嫁になんかなるはずないだろ」
「ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。これでも遙加のことは誰よりも大切に思っているんだよ」
「私も、薫のこと大好きだよ」
ポット顔を赤らめる遙加だが、ここが学校の職員用駐車場だと言うことをすっかり忘れている。
「遙加、そろそろ行かないと遅刻してしまうよ」
薫は涼しい顔をして遙加を促した。
「うん、行ってきます」
「いってらっしゃい、気をつけてね」
そそくさと用意をして車を降りた遙加だが、頭の中は薫の言葉がぐるぐるとエンドレスで巡っていた。
『遙加のことは誰よりも大切に思っているんだよ』
その日の遙加はその言葉を思い出しては1人で悶えていた。
「きゃー!」
時々発する奇声に、またいつものことだと驚くことなく周りは見て見ぬ振りをしてくれていた。
クラスメイトの遙加に対する認識はこうだった。
『なんでこんな感じなのに、歌がめちゃくちゃ上手かったり成績が良かったりするんだ?』と。
このことは後に軽音楽部の七不思議の1つと言われるようになるのだった。もちろん遙加の知らないところで。
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