霊媒体質 九条遙加の厄難 ー学生時代編ー

柿村 呼波

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第1章 高校編

モデルの仕事

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 九条遙加がある日を境に生き霊による被害を受けなくなったのには、実はこんな訳があった。



 春の装いにはまだまだ早い2月上旬。季節を先取りするファッション誌の撮影を終えた速水玲那は挨拶をして帰ろうとしたところで、カメラマンに呼び止められた。

「速水さん突然で悪いんだけど、辛い食べ物って大丈夫な方?」

「えぇ、大丈夫ですけど……」

速水玲那は突然脈絡もない質問に怪訝な顔をした。

「そう、その顔! いいねー」

「なんですか? いきなり」

「いやーごめんごめん。今度出す写真集のモデルになって欲しいんだけど、どうだろうか」

「写真集って藤村さんのですか?」

「そうだよ。他の誰かの写真集だと思ったの? つれないなー」

「本当に! 私でいいんですか?」

「うん、頼まれてくれると嬉しいんだけど」

「もちろんお受けしたいので、事務所に連絡してもいいですか?」

「あー、それ電話したら僕に代わってくれる」

「はい、分かりました。今電話しますね」

速水玲那は初めてカメラマンから直接声をかけられた。そのことだけが嬉しくて相手がどんな人間なのか全く気にしていなかったのだ。彼女は藤村というカメラマンは今日は代役で来ただけのその辺の普通のカメラマンだと思っていたのだ。

速水玲那は直ぐその場で担当マネージャーに電話を入れた。仕事終わりには連絡することになっている為、すぐに電話は繋がった。

「お疲れ様です、今撮影が終わりました。すみませんカメラマンの藤村さんが話したいことがあると言うので代わります」

マネージャーと言っても専属ではない。数名のモデルを担当しているマネージャーは藤村の名前を聞いて不思議に思い電話の向こうで何を言うのか半信半疑で待っていた。

「カメラマンの藤村大翔ふじむらひろとですが突然申し訳ありません。実は速水玲那さんに僕の写真集のモデルをお願いしたいんです。スケジュールとかは大丈夫でしょうか?」

「あの、本当にカメラマンの藤村大翔さんですか?」

「はい、藤村大翔本人です」

「ありがとうございます、もちろん大丈夫です。失礼ですがいいんでしょうか?」

「いえ、いいんです。彼女の嫌悪感丸出しの表情は魔女のように美しい。あなたもご存知でしょ? それにこんなモデル、見つけようと思って見つけられるものではないですからね。ですので是非お願いします」

「そう言うことでしたか……分かりました。では、契約条件などについて一度お会いしてお話ししたいのでご足労をおかけしますが事務所にお越しいただけないでしょうか」

「いきなりで悪いんだけど、今からでも大丈夫かな」

「はい、もちろん大丈夫です。心よりお待ちしております。道案内も兼ねてそこに居る速水と一緒にお越し下さい。では後ほど」

「素早い対応ありがとう。じゃ、後ほど」

藤村は通話が終わると、速水玲那を連れて彼女の事務所へと向かった。都合の良いことに事務所は今日の撮影現場からは歩いて15分程の所にある。

「あの藤村さん、これから事務所に行くんですか?」

「そうだよ、事務所にも話を通したし、これからよろしくね。速水さん学校は休み?」

「次に行くのは卒業式とその準備くらいです。これから? 」

「ところで君、今何歳なの?」

「18歳、高校3年生です。4月からは大学生です」

「そうなんだ……。大人びてるからもう大学生かと思ってたよ……」

「高校生では何か不都合なことでもありますか?」

「いや、それは全然問題ないよ。逆にこれからが楽しみだよ」

そんな話をしているとあっと言う間に事務所に着いてしまった。
2人が通されたのは速水玲那が入ったこともない広い応接室だった。そしてそこにはマネージャの他に社長まで待ち構えていたのだった。



 速水玲那が社長の姿に驚いている間に大人たちの話は始まっていた。

「社長、お久し振りです」

「本当にお久し振りです。今回はうちの速水を使っていただけると伺いました。ありがとうございます」

「いえ、突然の申し出を快く受けて下さりありがとうございます」

「何を仰いますか。藤村さんと一緒にお仕事できるだなんて夢の様です」

「そんな大袈裟な……。今回は私個人の写真集を出すのでそのモデルとして彼女にお願いしたいんです。2月3月で国内の絶景地に行って樹氷や菜の花畑をバックに写真を撮りたいんだけど良いかな」

「事務所的には全く問題ありません。速水さんも大丈夫だよね」

ここで速水玲那が嫌だと言ってその意見が通るような雰囲気ではなかった。

「大丈夫です……」

「そう、よかった」

あんなに飄々としていた藤村の表情が和らいだのが、流石の速水玲那にも分かった。

「今日は撮影で疲れただろうから速水さんはもう家に帰りなさい。マネージャーに送らせるから心配しないで。それと日程や詳細内容が決まったらマネージャーに連絡させるからよろしくね」

「ありがとうございます」

速水玲那は社長にそう言われてしまって、帰らざるを得なくなってしまった。




 マネージャーに車で家まで送ってもらうことになった速水玲那はカメラマンの藤村大翔のことを聞かされていた。

「藤村さんはとても有名なカメラマンなんだけど、聞いたことない? 彼と良い仕事ができれば速水さんもこれからもっと忙しくなるかもね」

「藤村さんてそんなにすごい人なんですか?」

「知らなかったんだ……。彼の撮る風景写真なんかは今にも動き出しそうなそんな不思議な写真だよ。今度見た方がいいね、勉強になるよ。それに今日の撮影だって本当は彼が来てくれるはずじゃなかったのに、たまたま代役として来てくれたんだ。彼にだったらノーギャラでも撮ってもらいたいってモデルまでいるくらいなんだよ。どれだけ今日がレアだったか分かるでしょ? それにこれまで彼の写真集に出て有名にならなかったモデルなんていないんだ。チャンスを掴み取るんだ、速水玲那」

「分かりました。でも藤村さんは私の嫌そうにした顔を見て『いいね』って言ったんですよ。どう頑張れば良いんだか……」

「自然体でいけば良いんだよ。君の人を見下す表情は他の誰にも真似できないから自信を持っていいよ」

「それ、褒めてるのか貶してるのか分からないんですが……」

「まあ、とにかく大物カメラマンと知り合いになれたんだから自分でチャンスを潰すことだけはしない様にね。それに藤村さんから君を使いたいって言ってきたんだ、それってすごいことなんだよ。その点は自信を持って良いと思うよ」

「………………」

「さあ着いたよ。仕事の詳細が決まり次第連絡するから予定入れないでおいてね、お疲れ様」

「ありがとうございます、お疲れ様でした」

車を降りた彼女はなんとも言えない気持ちのまま自宅の玄関の扉を開けた。
この瞬間から、速水玲那は藤村大翔と写真集のことで頭がいっぱいになってしまった。あんなに恨んでいた九条遙加のことなど綺麗さっぱり忘れてしまうくらいには。



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