11 / 12
エピローグ
しおりを挟む
その客を見た瞬間に、こいつぁ録でもねぇ事に巻き込まれたと思った。
瞼は重く閉じかかっているようなのに、中の目玉はギラギラとぎらついている。まるで焦点はあっていないのに、ちゃんとこちらに近づいてくる。
俺は前にも似たような奴を見た。
ちょうど目の前にいるような、如何にも人が良さそうでお行儀の良い兄ちゃん。ほら、今も俺が目の前で煙草を吸ってダラダラしてるのに、品良く一例して座るんだ。なのに、どこか猟奇的に見えるのは…… そうだ、失う事に何の執着もねぇんだ……こいつ等は。
「いつまでなら待てる?」
「いくらでも」
俺は容赦なく3日でけりがついた依頼を、1ヶ月かかったと吹っ掛けた。30万だ。普通抗議するだろ、たったこれだけの事にそんなに時間をかけて何て低能なんだと蔑まれてもおかしくない。けども奴は、奴等は何の執着も無く金を渡して、探し人の訃報に笑みを浮かべて去っていく。
なんて薄気味悪いんだ。
俺は依頼が「終わった」という感覚がしなかった。燕下したものが、また喉にねっとりと張り付いているような…… 自分のせいで何かが始まってしまったような気がしてならなかった。
俺は嫌な予感がして後をつけた。
情報を得る為に女性と深い仲になり、得られるものがないと分かればゴミのように捨てる奴。
今回の依頼人のように、意図的に会社が苦しくなるようなネタを掴んで陥れようとする奴。
ここからの流れは人それぞれだったが―― どちらに転んでも、一貫して言えることは、どちらも彼女の報復へと繋がるところで寒気がした。
加藤美咲。
会社で除け者にされ唯一の心の拠り所にしていた男に金を貸したまま失踪。数多の愛の言葉を囁かれていた彼女は人が信じられなくなり鬱病に罹り自殺した。
彼女はふるいにかける。この自殺橋で、最終列車を降りてまで追いかけてくる優しく不安定な人間を。そして、吊り橋効果で急速に距離を縮めた後、突き放す。
声をかけたほとんどがそのままうやむやで終わるが、まれに、こういうしつこいのがひっかかる。
こんな胡散臭い人探しを大手に頼むことの出来ないアイツ等は、こぞって俺のところにやってくる。
それなら俺が依頼人たちに何も教えなきゃ良かった話なのだけれど、一回仕入れた情報でもう一儲けできるなんて上手い話はないだろう。今回依頼を受けた時ももう証拠は揃っていたが、働かずして5万円を頂いた。
……けれど、奴らを尾行し始めてから、胸糞悪くて仕方がねぇんだ。
他人の不幸でおまんま食うのはもう沢山だ。
こっちまで病気になっちまう。いつもならここでもう一度「元カレを探してほしい」と頼まれ、ほぼ情報材料がないからと10万を超える額を請求するところだが…… もういい。
これ以上奴を野放しにしていたら、また不幸な人間が増えちまう。
「お前さん」
だから今回のは、俺のケジメだ。
後日、アイツからまた連絡があった。
教えて欲しいことがあると言う。
「……この後に及んでまだ知りたいことがあるのか」
「はい」
「私の他の加藤さんとお知り合いになった方々って、今どうしてますか?」
「どうしてって…… 目が覚めて普通に暮らしているが」
相手は、そうですか、とも何とも言わない。
訝しげに思って受話器の向こうに聞き耳を立てると、何か、カタカタカタと変な音がする。それが人の声だと気づくのに、そう時間はかからなかった。
「アハハハハハハハハハッ!! ああ、良かった。ではまだ、誰もそこへはいって居ないのですね! 」
俺は一方的に受話器を切った。
鳥肌が止まらない。煙草を同時に2個咥える。味がしなかった。
後日。
1人の男が、自殺橋で飛び降り自殺した。
それ以来、俺のところに依頼人が来たことは無い。
瞼は重く閉じかかっているようなのに、中の目玉はギラギラとぎらついている。まるで焦点はあっていないのに、ちゃんとこちらに近づいてくる。
俺は前にも似たような奴を見た。
ちょうど目の前にいるような、如何にも人が良さそうでお行儀の良い兄ちゃん。ほら、今も俺が目の前で煙草を吸ってダラダラしてるのに、品良く一例して座るんだ。なのに、どこか猟奇的に見えるのは…… そうだ、失う事に何の執着もねぇんだ……こいつ等は。
「いつまでなら待てる?」
「いくらでも」
俺は容赦なく3日でけりがついた依頼を、1ヶ月かかったと吹っ掛けた。30万だ。普通抗議するだろ、たったこれだけの事にそんなに時間をかけて何て低能なんだと蔑まれてもおかしくない。けども奴は、奴等は何の執着も無く金を渡して、探し人の訃報に笑みを浮かべて去っていく。
なんて薄気味悪いんだ。
俺は依頼が「終わった」という感覚がしなかった。燕下したものが、また喉にねっとりと張り付いているような…… 自分のせいで何かが始まってしまったような気がしてならなかった。
俺は嫌な予感がして後をつけた。
情報を得る為に女性と深い仲になり、得られるものがないと分かればゴミのように捨てる奴。
今回の依頼人のように、意図的に会社が苦しくなるようなネタを掴んで陥れようとする奴。
ここからの流れは人それぞれだったが―― どちらに転んでも、一貫して言えることは、どちらも彼女の報復へと繋がるところで寒気がした。
加藤美咲。
会社で除け者にされ唯一の心の拠り所にしていた男に金を貸したまま失踪。数多の愛の言葉を囁かれていた彼女は人が信じられなくなり鬱病に罹り自殺した。
彼女はふるいにかける。この自殺橋で、最終列車を降りてまで追いかけてくる優しく不安定な人間を。そして、吊り橋効果で急速に距離を縮めた後、突き放す。
声をかけたほとんどがそのままうやむやで終わるが、まれに、こういうしつこいのがひっかかる。
こんな胡散臭い人探しを大手に頼むことの出来ないアイツ等は、こぞって俺のところにやってくる。
それなら俺が依頼人たちに何も教えなきゃ良かった話なのだけれど、一回仕入れた情報でもう一儲けできるなんて上手い話はないだろう。今回依頼を受けた時ももう証拠は揃っていたが、働かずして5万円を頂いた。
……けれど、奴らを尾行し始めてから、胸糞悪くて仕方がねぇんだ。
他人の不幸でおまんま食うのはもう沢山だ。
こっちまで病気になっちまう。いつもならここでもう一度「元カレを探してほしい」と頼まれ、ほぼ情報材料がないからと10万を超える額を請求するところだが…… もういい。
これ以上奴を野放しにしていたら、また不幸な人間が増えちまう。
「お前さん」
だから今回のは、俺のケジメだ。
後日、アイツからまた連絡があった。
教えて欲しいことがあると言う。
「……この後に及んでまだ知りたいことがあるのか」
「はい」
「私の他の加藤さんとお知り合いになった方々って、今どうしてますか?」
「どうしてって…… 目が覚めて普通に暮らしているが」
相手は、そうですか、とも何とも言わない。
訝しげに思って受話器の向こうに聞き耳を立てると、何か、カタカタカタと変な音がする。それが人の声だと気づくのに、そう時間はかからなかった。
「アハハハハハハハハハッ!! ああ、良かった。ではまだ、誰もそこへはいって居ないのですね! 」
俺は一方的に受話器を切った。
鳥肌が止まらない。煙草を同時に2個咥える。味がしなかった。
後日。
1人の男が、自殺橋で飛び降り自殺した。
それ以来、俺のところに依頼人が来たことは無い。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる