男装の皇族姫

shishamo346

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外伝 アーサーの円卓

心機一転

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 俺は、改めて、アーシャに謝った。妖精憑きキロンは、俺をアーシャに会わせたくなかったようだが、母が口添えしてくれて、俺は特別にあの部屋に入ることが出来た。
「お前だけじゃダメだ」
 ただし、兄たちも一緒である。兄たちは、恨みがましい、みたいに俺を見てきたが、何も言わなかった。
 アーシャは、初めて見た頃よりは、少しだけ、ふっくらしたように見える。ただし、兄たちは初めて見るアーシャに驚いて、声もなかった。
「アーシャ、ごめんなさい!! 俺、何も知らなくて」
 アーシャは、妖精憑きキロンの胸に顔を埋めて、ちらっと俺たちを見た。小刻みに体を震わせて、怯えていた。
「まだ、この人数は多すぎたわね」
「同じガキだから、大丈夫だと思ったんだけどな」
「男だからでしょうね」
「そうかも」
 アーシャは、俺たちを見て、恐怖を抱いていた。アーシャが叫んだりしないのは、キロンに守られるように抱きかかえられているからだろう。
「あ、あの、俺、痛いこと、絶対にしないから!!」
「座れ」
「?」
「アーサーを上から見るな」
 意味がわからないが、俺は妖精憑きキロンに言われるままに、座って、アーシャを見上げた。
 途端、アーシャはキロンの胸から顔をあげて、不思議そうに俺を見下ろした。
「ほら、アーサー、怖くない」
「うん、こわく、ない」
 妖精憑きキロンに言われて、アーシャは、笑顔を見せた。
 決して、綺麗なわけではない。やせ細っていて、みすぼらしい。だけど、アーシャの目には、力があった。

 一目で、俺は、アーシャに恋した。

 それからは、アーシャに日参だ。俺の存在は、アーシャの人慣れの練習になるから、許された。
「アーサーから、目を離すなよ。俺は、ちょっと出るから」
 そして、俺はキロンの信頼を得た。キロンがどうしても部屋から出ないといけない時は、俺がアーシャを見ていた。
 アーシャは、子どもだったり、赤ん坊だったり、時間時間で変わった。子どもだった場合は、本を読んだり、玩具で一緒に遊んだりした。赤ん坊だった場合は、危ない物を遠ざけて、俺は見ているしかなかった。
 その日は、アーシャは子どもだった。俺の隣りで絵本を眺めていた。
「好きー」
 アーシャは絵本の中の絵を指して、そういう。アーシャはいい言葉だけを口ずさんだ。
「そうか、これが好きなんだ」
「うん、好きー」
「………俺は、アーシャが好きだ」
 俺は告白した。
 アーシャは俺に笑顔を向けて頷いた。
「好きー!!」
 俺が好き、と言われたような気がした。
「きろん、好きー!!!」
 だけど、それは妖精憑きキロンだ。俺じゃない。
 いつか、俺のことを好きだ、と言ってもらえるんじゃないか、と期待した。だけど、アーシャが好きな人は妖精憑きキロンだ。それ以外の人の名をアーシャは口にしない。
 その日は、たまたま、妖精憑きキロンに、俺の告白聞かれていた。キロンが、気まずい、みたいな顔で立っていた。
「俺も、キロンのことは好きだ」
「俺も、アーシャとアーレイのこと、好きだぞ」
 俺がアーシャに合わせて言えば、キロンも合わせてくれた。
 こういうやり取りをしていれば、自然と、母の耳にも入る。母は俺たち兄弟を集めて言った。
「もう、わかっていると思うけど、妖精憑きキロンは、アーシャの全てを望んでいます。アーシャもあの通り、キロンだけを信じています。我が家としては、あの二人を結婚させて、ずっと、見守っていくつもりよ。だから、わたくしがあなたたちに言った戯言は、忘れてちょうだい」
「いや、さすがに本気にしてないよ」
「見たこともない人と結婚しろと言われてもなぁ」
「いくら母上が言ったって、お祖父様が決めた婚約者だっているし」
「婚約者がいるのか!?」
 また、俺の知らない話が出てきた。俺一人だけ知らないことに、母と兄たちは頭を抱えた。
「アーシャには、あのクソジジイが決めた婚約者がいるのよ。ほら、代々、騎士の家系の貴族である子爵家の次男ヘリオスよ」
「次男?」
 代々、騎士の家系の貴族に嫁いだ叔母がいることは知っている。だけど、そこにいる子は、男児と女児である。
「女装させているのよ。あなたにはヘラと名乗っているわね」
「え? ヘラが、男!?」
 驚いた。どう見ても、ヘラは女だ。
「あの見た目だから、アーシャの婚約者なのよ。アーシャは爵位を受け継ぐために、男として届けられて、男装しているの。だったら、婚約者は男だけど、女装させて、なんて話よ。ヘリオスが、一番、女装があっていたのよ」
「そんな理由で、女装させるって」
 祖父も酷いな。
「ヘリオスの家族は婚約解消を言い出しているから、アーシャが落ち着いて、手続きすることとなっているわ。辺境も、まだ、解決していないのよ」
「じゃあ、キロンが婚約者になるわけだ」
「そうね」
「それは良かった」
 一番いい形になる。それを聞いて、俺はそう思った。
 母は、俺がすんなりと受け入れて、納得するのを驚いていた。
「アーレイ、あなた、アーシャの婚約者になりたくないの?」
「アーシャはキロンが好きなんだ。じゃあ、仕方がない」
「そう簡単にはいかないでしょうけどね。あのクソジジイは、今更、アーシャのことを可愛い孫娘、みたいに可愛がろうとしているのよ。あんな酷いことをしておいて、アーシャとキロンの婚約は認めない、と言ってるの」
「それじゃあ、ヘラの婚約もすぐ解消だな」
「そこが、クソジジイなのよ。ヘリオスとの婚約解消を渋っているの。見るからに、アーシャとキロンは相思相愛だわ。それを邪魔するために、ヘリオスとの婚約を引き延ばしているのよ」
「そんな、可哀想だ!!」
 俺だって、アーシャの幸せのために、キロンとの仲を応援しよう、と考えた。
 しかし、祖父ウラーノは、今更ながら、アーシャを可愛がろうとしているのだ。そのために、アーシャを泣かせながらも、諦めず、ウラーノはアーシャの元を日参しているのだ。
「あのクソジジイ、言ったのよ。そんなに婚約したいのなら、武道大会で優勝しろ、なんて。妖精憑きのキロンは、武道大会には出場出来ないというのに」
「キロンに言ったんだ」
「わたくしに言ったのよ。アーシャの婚約者は、武道大会に優勝するほどの実力者でないといけない、なんていったの。キロンは知らないわ。教えたら、どうにかして、武道大会に出場しようとするかもしれない」
「もし、俺が武道大会に優勝したら、ヘラとアーシャの婚約はなくなるわけだ」
「アーレイ、あなた………」
「母上が考えているようなことはしない。俺は、アーシャが幸せであればいい」
 日々、アーシャと接することで、俺は、あの荒れ狂ったような気持ちは落ち着いた。
 ずっと、感情に振り回され、不満ばかりだった。それも、アーシャと接するようになってから、色々と、見えるようになってきた。
 俺は、これまで、話を聞いていなかっただけだ。アーサーがアーシャという女の子だということも、ヘラがヘリオスという男の子だということも、アーサーとヘラは婚約者だということも、家族みんなは俺に話していたけど、俺は聞いていなかった。知らないんじゃない、聞いていなかっただけだ。
 アーシャを相手にするように、耳を傾ければ、家族はきちんと、俺に向かって、色々と話ていた。





 アーシャが我が家に来て半月で、いなくなった。突然のことに、大騒ぎとなった。妖精憑きキロンもいなくなったから、二人でどこかへ行ってしまったのだろう、なんて話していた。
 ところが、辺境の子爵家にいる使用人から、アーシャが戻っている報告が届いた。

 それから、アーシャはアーサーとなって、前の生活に戻った。

「魔法って、怖いわね」
 アーシャを迎えに行った母はそう呟いた。
 アーシャは魔法によって、精神だけ、アーサーに戻されたのだ。そのため、アーシャであった頃に出会った俺の両親のことが見えていなかった。話しかけても、聞こえていない。祖父ウラーノが説得しても、過去、ウラーノが口にした言葉を返したという。
 一見、まともに見えるアーシャだが、気狂いはそのままだ。
 結局、アーサーの好きにさせることとなった。アーサーは、辺境の子爵家と領地をどうにかしたいのだろう。
 そりゃそうだ。アーサーは、家族だけでなく、領地民にも、散々なことをされていたという。記憶はそのまま残っているというのなら、復讐したいだろう。俺だったら、そうする。
 だけど、敵ばかりの場所で、アーサーの味方は妖精憑きキロンと、男爵家から再度、派遣された使用人たちだけだ。いっそのこと、力づくでしたいなら、男爵家の力を使うべきなのに、アーサーはそれを拒んだという話だ。
 俺では、どういう事をするのか、想像出来ない。まず、俺は復讐したい、と思っても、方法が思いつかなくて、出来ないだろう。
 アーサーは、思いついているのだろう。妖精憑きキロンを側に置いて、アーサーは、裏切った家族と領地民たちに復讐するのだ。
 俺は、毎日のようにアーシャの側にいた。アーサーに戻ったから、俺の存在は忘れ去られていた。何も、出来ることはないように思えた。
「母上、俺、もっと強くなりたい。あと、勉強も頑張りたい」
「それは、まあ、あなたのやる気次第よ」
「じゃあ、教師、代えて」
「今の教師で頑張りなさい。成績を見てから決めます」
「わかった」
 兄たちと同じ教師で頑張ってみることにした。母のいうことは、だいたい、正しい。






 俺が貴族の学校に入学するということは、アーサーも貴族の学校に入学するということである。同い年だから。
 しかし、アーサーは、父ネロによって、願書を盗まれ、貴族の学校の入学試験を受けらなかった。なのに、アーサーの同い年の腹違いの義妹エリザはちゃっかり貴族の学校に入学するという。
 それを聞いて、俺は呆れた。
「片親が平民の子を優遇するなんて」
 それなりに学び、社交に参加すれば、俺だって、それなりのことを学ぶ。片親が平民の子は、いくら貴族の子息令嬢と扱われても、成人すれば、平民扱いだ。貴族の学校を卒業したって、片親が平民だと、誰も見向きもしない。せいぜい、愛人止まりである。貴族扱いはされない。
 アーサーの父ネロは、平民が産んだ子二人を可愛がった。
「真実の愛ですって」
 俺がぼやくのを聞いた母は、頭の悪いことを口にした。
「そんな、大衆小説みたいなこと、現実には受け入れられないだろう」
「辺境だからでしょう。ここ、王都では、笑い者にされるわね」
「………」
 辺境でも、母がアーサーの義母と義兄、義妹を社交場で大恥をかかせ、二度と、立てないようにしたのだ。きっと、真実の愛とやらを笑い者にしたんだな。
「あなたは、随分と頑張ったわね。まさか、首席入学をするなんて」
「次は、武道大会だ」
 俺は、アーシャのために努力した。
 大嫌いな勉強を頑張って、貴族の学校を首席入学するほどの成績を叩き出した。教師は代えていない。俺が変わっただけだ。教師も、俺がどんどんと成績を上げていくから、貴族の学校を卒業できるまで、勉強を進めてくれた。
 そして、俺は毎年、帝国中の武道大会に一般出場して、色々と、苦い経験を積んだ。一般出場は、どこも実力がないと、まず、出場も出来ない。出場する前に、潰されるのだ。最初は、それで痛い目にあった。
 だけど、今はそうではない。帝国中の武道大会に出場して、経験を積めば、それなりにわかるようになる。俺は、出場出来るようにまでは、世の中を理解した。
「また、今年も出場するの!? そんなことしたって、アーシャが見ているのは」
「俺が、そうしたいだけだ。俺は、ヘリオスみたいに、甘っちょろいことしたくない」
 俺は、アーサーの婚約者ヘリオスのことをよく見て、よく調べた。そして、思った。
 あんな、甘えたやつに、アーサーの婚約者を名乗る資格なんかない。
 アーサーの婚約者ヘリオス、貴族の学校に入学する前までは、定期的に辺境に行っていたというのに、アーサーが一年、家族から虐待を受けている間、辺境には行かず、学校の友達と遊び呆けていた。文通をしていたというが、返事を書いていたのは、アーサーの義兄リブロだ。その偽物の手紙を信じて、甘えて、ヘリオスは、一年間、辺境に行かなかった。
 それは、まあ、仕方がないのかもしれない。俺はまだ、貴族の学校に通っていないからわからないが、楽しかったのだろう。だけど、アーサーが救い出されてから後、ヘリオスは、特に変わっていない。ただ、アーサーへは真摯になっただけである。また、定期的に辺境へと足を運び、婚約者としての役割を果たしていた。
 ただ、それだけだった。
 アーサーの優しさに甘えているだけに見えた。だから、俺は、貴族の学校で女装しているヘリオスに会った時、言ってやった。
「ヘラ、まだ、中級クラスなんだ。俺は、首席入学したぞ」
「? それがどうした」
「アーサーは、貴族の学校を入学前から、子爵代理なんてすごいことしてるのに、婚約者のお前は、この程度なんだな」
「お前には、関係ないことだろう!!」
「お祖父様が言ってた。婚約者になりたかったら、武道大会で優勝しろ、と。お前は、武道大会に優勝すらしていないのに、女装出来るから婚約者なんだよな」
「っ!?」
「せいぜい、女に磨きをかけて、アーサーの隣りに立ってろ。俺が、その隣りを奪ってやる」
 俺はわざわざヘリオスを嘲笑ってやった。ヘリオスは、綺麗な顔を歪め、恐ろしい形相となった。
「お前も悔しかったら、女装してみろ」
「俺は、男として、アーサーの隣りに立つ」
「アーサーに必要なのは、お前じゃない。わたくしよ」
「本当にそうか? アーサーの幸せって、爵位を受け継ぐことじゃないだろう」
「アーサーがそう望んでいる」
「俺が知ってるアーサーはそうでないけどな」
 ヘリオスは、気が触れたアーサーのことを知らない。見たが、それ以上、アーサーに関わらなかったのだ。だから、気が触れる前に戻ったアーサーの言いなりだった。
 騎士の家系だからだろう。いくら女装して、女として振舞っていても、ヘリオスは男だ。女心というか、アーサーの内面をわかっていなかった。
「覚えておけ。俺は武道大会で優勝する。俺が優勝したら、お前はお払い箱だ」
「そう簡単なことじゃないわ」
「知ってる。だから、俺は、帝国中の武道大会に出場する。回数こなせばいいわけではないことはわかった。卑怯な手段にも負けないように、準備をして、実力もつけるだけだ。今、俺は、お祖父様が持つ私設騎士団に相手をしてもらっている。皆、武道大会をよく知っているから、教えてくれるよ」
 体術剣術の教師はやめて、容赦のない私設騎士団で鍛えてもらっている。皆、武道大会の経験持ちだ。武道大会で優勝して、帝国の騎士となることを目指していたが、結局、予選通過出来ても、その先は運悪く出来なかったのだ。そういう人たちを祖父ウラーノは拾い上げて、私設騎士団にいれたのだ。
 彼らは、教えるなんて優しくない。体のぶつかりあいである。体験するのだ。そうして、俺は体で、武道大会のことを学んだ。
 だけど、ヘリオスは理解していない。むしろ、甘っちょろいお遊戯をしているのだろう、と想像したのだ。
「大怪我しないように、気をつけなさい」
 代々、騎士を排出する家系である。ヘリオスは上から目線で、そう言って、離れて行った。
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