妖精の支配者

shishamo346

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情報を操作する力

中央都市の貧民街の支配者

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 伯爵オクトの屋敷の帰り道は、護衛もいっぱいいて、安心できる感じだった。俺は相変わらず、機動性重視とばかりに、あの気難しい馬に乗って、馬車の横を並走している。
 しばらくすれば、人通りのまばらな道に出る。いくつかの道を通り過ぎて、曲がってと、俺は馬車の行先に従っているのだが、どんどんと、道が怪しくなってきた。
 太陽の位置とかを見て、俺もさすがに気づいた。王都から離れてきている。
 振り返れば、護衛の騎士たちはいなくなっていた。身なりの悪い奴らが馬に乗って、並走している。俺がやっと、人が入れ替わったということに気づいたので、後ろの奴ら、汚い笑いを向けてくれる。
 俺が気づかないのだ。馬車に乗っている侯爵とサリーも気づいていないだろう。いや、侯爵は気づいているかなー、と期待した。
 どっかの荒れ果てた家屋の前で馬車が止められる。御者は身なりはいいんだが、その顔は悪者であった。いつの間にか、そこも擦り替わっていたんだな。
 これは仕方がない。俺は侯爵家の使用人とか、家臣とか、騎士とか、知らないから。たった一日二日で、その全てを把握できるはずがない。
 皆さん、武器を抜き放って、俺を囲んでくれる。仕方なく、俺は馬から降りた。
 俺は大人しくしてるんだ。だけど、馬は大人しくないんだなー。武器なんか怖くないよ、みたいに突進していくんだよな。
 いくつかの武器で体を傷つけられながらも、あの気難しい馬はいくつかの馬を体当たりして、悪漢を落馬させて、そのまま、どっかに去っていってしまった。えー、俺、見捨てられちゃったよ。
「お前、何をやらせてるんだ!?」
「馬が勝手にやったんだよ!! 俺は無実だ」
「嘘をいうな!?」
「あの馬はな、手に負えないやつなんだ。大人しい顔して、俺だって噛むんだぞ」
 俺はいくつかの噛み痕が残る肩を見せてやる。あの馬、本当に気に入らないと、俺の肩を噛むんだよな。容赦ないんだよ。
 噛み痕見たって、それが馬のものかなんて、悪漢どもはわからない。だけど、俺が武器も手放して、両手をあげて降伏しているから、それ以上、何もしない。
 その間に、馬車のドアを開けて、やっと外の現状を知った侯爵はサリーを抱きしめて、その体でどうにか守ろうとしていた。
「さっさと出ろ!!」
「こんなことをしても、何もならないぞ!!」
「別に、お前とあの男は死んでたっていいんだ。そのほうが、楽だからな」
「っ!?」
 悪漢たちにとって、俺と侯爵は価値がないのだ。
 価値があるのはサリーだけだ。そりゃそうだ。サリーは子どもだ。人質としては、簡単に扱える。俺と侯爵は立派な体格をしているから、人質としては向かない。むしろ、今すぐ殺して、人質を減らしたいだろう。
「侯爵、大人しく従え。無駄死にすることになるぞ」
「どうして、こんなことに」
「そりゃ、まあ」
 この場で、その理由は口にしたくない。俺は言葉を濁した。
 俺がお手上げだから、侯爵も諦めて、サリーを連れて、馬車を出た。サリーは馬車から降りるなり、危険なんて無視して、俺に抱きついた。
「動くな!!」
「一緒に殺せばいい!!」
 サリーは叫んだ。その迫力に、悪漢たちは飲まれた。
 俺はちょっと、サリーという小娘の見方が変わった。ただの世間知らずな、頭の足りない小娘だと見ていた。
 何度も誘拐にあいながら無事だったのは、サリーが持つ悪運だけではない。サリーは見えない刃を隠し持っている。
 悪漢と侯爵の会話だけで、サリーは自身の価値を見出した。サリーだけは、どうしても、殺すわけにはいかないのだ。
「お嬢さん、大人しくしてろよ。俺だけを殺すのは、簡単なんだからな」
「そんなぁ」
 だけど、やっぱりガキだな。大人にかかれば、サリーを傷つけず、俺だけを殺すことなんて簡単なんだ。
「でしたら、ロイド様を傷つけないでください。でなければ、何も話しません」
 そしてすぐ、手段を変えるサリー。こうして、悪漢たちは、俺にも手が出せなくなった。
 残るは侯爵である。侯爵、サリーを守るために、その身を盾にしようとまでしたのに、サリーの命乞いがなかった。それに侯爵は肩を落とす。それを見て、悪漢たちは、侯爵に同情した。いやいや、姉とか妹って、こんなものだよ。お前ら、夢見過ぎだ。
 俺たちは両手を縄で縛られ、今にも崩れそうな家屋に閉じ込められた。
「なんで、入れ替わったんだ!?」
「気づかないあんたも悪い」
「なんで!?」
「使用人、家臣の顔全部、覚えているもんだ。まず、迎えが来た時に、あんたが気づくべきだったんだ」
「っ!?」
 覚えてないんだろうな。だから、侯爵は男爵マイツナイトの跡継ぎになれなかったわけだ。頭がそこまで良くなかったんだな。
「私は、侯爵になんかなりたくなったんだ!! 本来は、文官を目指していたというのに」
「腕っぷしもないのか」
「ない。まず、侯爵は本来、騎士団の試験に合格するほどの腕前を持つことが絶対条件だ。なのに、侯爵になるなんて思ってもいなかったから、誰も、腕前を鍛えていなかった。父上だって、考えてもいなかったんだよ!! それなのに、なりてがいないから、私が侯爵になったんだ」
「………」
 気の毒でならない。侯爵、生真面目だから、仕方なく、爵位を受け継いだだけだ。こんな人は、むしろ、一文官が相応しいだろう。
「と、泣き言を言ったところで、どうしようもない。君の力で、どうにかならないのか?」
 頼るのは、やっぱり俺である。ほら、俺には妖精の目という魔道具がある。今は休止させているが、起動すれば、野良の妖精たちが味方してくれる。
「マイツナイトに叱られたからな。どこの誰が裏切者なのかわからないって」
「私と貴様の命がどうなるか、わかったもんじゃないんだぞ!?」
「だいたい、俺とお嬢さんが馬で移動した時は、何も起こらなかったんだ。なのに、馬車での移動で、起こった。つまり、そういうことだ」
「どういうことだ?」
「察しが悪いな。あんたんとこ、侯爵家に、裏切者がいるんだよ!!」
「そんな、まさかっ」
 信じられない、と大きな声をあげる侯爵。
「父上がきちんと見極めた者たちだけが集められたんだぞ。裏切りなんてない」
 男爵マイツナイトは、男爵家でしっかりと教育をして、そこで合格した者だけを侯爵家に送っているのだ。侯爵は信じられない。
「命令には忠実な奴らな。もっと自立心持っていたほうがいい場合もある。御者と護衛の騎士を取り換えられる命令権を持った奴の仕業だ」
「そんな、父上に昔から従っている家臣たちだぞ!?」
「何か、あったんだろう」
 サリーの身柄が狙われたのは、ここ一年である。男爵マイツナイトの話では、サリーを人質に、マイツナイトが持つ情報を操作する力を手に入れようとしている。まだ、サリー自身の価値を相手方は知らない。
 男爵家の家臣から使用人まで、お試しだ。悪い者だって入りたい放題である。だから、ここ一年は情報がだだ漏れとなっていた。それもまた、マイツナイト自身が囮となるためである。
 だけど、あの十年に一度の帝国主催の舞踏会の後から、流れが変わった。帰路の道順が漏れていたのだ。
 王都へと向かう道順は順調だった。男爵家の不穏な存在を俺とマイツナイトが消したから、漏れなかったのだ。だが、帰り道は漏れた。
 もう、男爵家には、情報を洩らす奴らはいない。男爵が俺を利用して、口を閉ざさせたのだ。万が一、裏切った場合、命がないと知らしめた。
 残るは、侯爵家にいる家臣、使用人、騎士たちである。男爵家の帰路を洩らしたのは、そちらだろう。
 だけど、確信がなかったので、もう一度、試した。
 さすがに伯爵オクトの茶会に向かう途中での襲撃はされなかった。伯爵オクトは、裏の世界では、妖精殺しの伯爵として恐れられている。万が一、逆鱗に触れようものなら、命がない。場合によっては、組織ごと、潰されるのだ。
 だから、帰りを狙ったのだ。もう、伯爵オクトとは関係なくなるだろう、と侯爵家にいる裏切者は考えただろう。
 いやいや、それは、俺がただの一招待客であれば、の話だよ。裏切者、逃げられないよ。俺を捕縛した悪漢だって、無事ではあるまい。
 俺が侯爵家に滞在したのは、たった二日である。この二日で、俺の背景なんてわかるはずがない。大した情報を集めず、たかが貧民と、俺を甘く見たんだな。
 ちょっと先の未来よりも、現在である。俺と侯爵は縛られて身動きもとれないというのに、サリーは俺の膝で幸せそうな顔で寝ている。
「ううう、昔は、私のことが一番だ、と言ってくれたのにぃ」
「同じこと、マイツナイトにも言ってたらしいな」
「お前みたいな男に盗られるなんて!!」
「盗ってないよ!! むしろ、俺が憑りつかれたんだよ!!!」
 そこは強く否定しておく。俺はサリーにはこれっぽっちも好意を持っていない。あれだ、仕方なくだよ。
 この世の罪悪なんてありません、みたいな顔で眠っているサリーの姿は可愛らしい。黙っていれば、サリーは美人なんだ。いいところをマイツナイトと母アッシャーから受け継いだな。サリーの兄姉たちを見て、そう思った。
 だから、舞踏会に出ては、一目惚れされたんだ。サリーは将来、男を手玉にとれるほどの美貌となる。
 俺はただ、サリーの気まぐれに縛られているだけだ。いつかは飽きられるとわかっているので、俺は待っているだけだ。本気にしない。
 そんな情熱、とっくの昔に燃やし尽くした。
 そうやって、ちょっと騒がしくしていると、別のお迎えが来た。足だけは自由だから、歩かされる。
 サリーは眠っている所を起こされたから、不満そうにに頬を膨らませる。
 放り込まれたのは荷馬車だ。真っ暗な中、運ぶんだな。馬もなんか、荒々しそうだなー。
 覚悟してみれば、そうだった。侯爵、育ちがいいから、あっちこっちにぶつけて、大変なこととなっていた。
 俺はというと、馴れているから、座って、膝にサリーを座らせた。サリーだけは俺の膝の上で無事だ。
 そうして、無茶苦茶な速度で運ばれた先を見てみれば、ある意味、懐かしいと感じる場所だ。
「まさか、中央都市の貧民街に招待だとはな」
 やっぱり、狙いはマイツナイトが持つ、後ろ暗い力である。
 侯爵は残念ながら、ボロボロである。歩くことも出来ないから、そのまま荷馬車に放置だ。可哀想に。
 俺とサリーは無事なので、荷馬車から下ろされ、そのまま悪漢たちの後をついていく。どこに連れて行かれるのかなー? なんて大人しくしていれば、やっぱり、あの支配者の建物だ。
 頑強なその建物は、大昔、小国の王族の持ち物だったという。小国が帝国の軍門に下った時に、放棄されたのだ。だが、小国とはいえ、王族の持ち物だ。ただの建物ではない。
 それは、邸宅型魔法具である。どういう仕掛けなのか、貧民街の支配者となると、もれなく、この邸宅型魔法具の主人になれるのだ。お陰で、邸宅型魔法具にいる支配者は無敵である。
 俺の親父も、兄貴も、王都の貧民街の支配者だ。だが、親父は、この邸宅型魔法具を放棄していた。俺がこの邸宅型魔法具に入ったのは、兄ライホーンが支配者となってからだ。
 だいたい、作りは同じだ。王都の貧民街にある邸宅型魔法具の構造を思い出しながら、位置を覚えていく。いざとなったら、逃げることとなるからなー。
 そうして、支配者の間に連れてこられた。そこの奥には、支配者だけが座ることが許される玉座あある。そこに、神経質そうな男が座っていた。
「やっと手に入れた。小娘、全て、情報を吐き出せ!!」
「何を?」
 首を傾げるサリー。
 サリー、自覚がないんだな。ただ、与えられた情報を覚えただけにすぎない。それが何なのか、わかっていないんだ。
 神経質な男、あまり気が長くない。立ち上がるなり、サリーにつかみかかった。
 俺は慌てて、体当たりして、サリーを助けた。
「こいつ、俺が誰だかわかっているのか!?」
「やめろ!! この女に傷がついたら、俺の立場が悪くなる!!!」
「なんだ、金で雇われた護衛か」
「そういうのじゃない」
 まだ、サリーの傷が残ったら俺が責任をとる、という話は有効なんだ。もう、どうしてこうなったんだ、俺!!
 俺の事情なんて知らない男は、腹立ちまぎれに、俺を蹴とばした。
「おい、こいつを押さえつけろ!!」
「大人しくしてられるか!?」
 せっかく、貧民街の支配者らしい男が目の前にいるのだ。俺は妖精の目を発動する。
 ところが、俺は平衡感覚が崩れて、がくんと態勢を崩した。何か、おかしな匂いまでする。
「貴様が妖精憑きだという情報は知っている。何もしないわけがないだろう」
 俺は足蹴にされているが、まるでわからない。平衡感覚がなくなっただけではない。目の前がぐるぐると回っている感じだ。
 妖精を狂わせる香だ。ただの人には無味無臭だが、妖精憑きにとっては、前後深くとなる代物だという。匂いも味も妖精憑きは感じられるという話だ。
 俺はただの人だ。しかし、妖精の目を発動させると、妖精憑きの力が使える。妖精の目のせいで、俺は妖精を狂わせる香の影響をもろに受けてしまったのだろう。
 前後不覚になる俺を屈強な男がさらに抑え込んできた。
「ロイド様に酷いことしないで!!」
「だったら、洗いざらい話せ!!」
「何を話せばいいのですか!?」
 遠くで、サリーが半狂乱になって叫んでいる。顔を上げて、見ても、視界がぐにゃりと歪んでいる。ここまでのものを妖精憑きに与えるとは、妖精を狂わせる香、とんでもないな。
 ちょっと甘く考えていた。俺はその場をどうやって潜り抜けようか、と悩んだ。妖精の目を使ったのが悪手だった。
 サリーは俺のために、質問に答えているようだ。サリー、情報全てを吐き出したら、お前の価値はなくなるんだぞ!!
 ちょっと賢ければわかる事だ。だけど、経験のない小娘であるサリーは、どんどんと情報を出していく。
 このままでは、俺だけでなく、サリーも危ない。俺はどうにか、野良の妖精たちを動かそうとした。だけど、香の影響を嫌って、妖精の声すら聞こえない。この場にいないんだ。
 膨大な情報だ。一日二日では終わらないだろう。時間がかかることだ。その間に、誰か助けが来るかも、なんて期待した。妖精を狂わせる香の影響で、俺は時間の感覚すら狂っていた。
 突然、何かが俺の横に降り立った。そして、ぶわっと風が起こり、あのなんともいえない匂いが霧散する。
「なんだ、貴様!?」
「俺の弟に何してくれてんだ、お前ら」
「っ!?」
 世界がぐるぐるに回っていたって、この声だけはわかる。俺は必死になって顔をあげた。
 俺のそばに、目隠しをした派手な恰好をした細身の男が立っていた。男は、口元に笑みを浮かべて、サリーを囲む悪漢たちを見ていた。
「おい、その男を痛めつけろ!!」
 見た限り、この細身の男には大した力はない。ちょっと殴れば折れてしまいそうなほど華奢だ。
 悪漢たちはげひた笑いを浮かべtえ、華奢な男に手を伸ばした。
 それは一瞬のことだった。向かってきた悪漢は華奢な男に投げ飛ばされていた。続いてやってきた男は軽く足を払われ、転ばされた。
 そうやって、綺麗な身のこなしで、向かってくる悪漢を地面に叩きのめした。それでも、大した痛みじゃないから、と悪漢たちは武器を抜き放って華奢な男を囲む。華奢な男はというと、短剣一本を抜き放つだけである。
 立派な長剣と、大したことがなさそうな短剣では、どう見たって、華奢な男が不利だ。それでも、華奢な男は向かってくる悪漢の攻撃を避けて、素早く懐に入っては、短剣を深く刺して、すぐに離れてとして、見る間に、悪漢たちを地面に沈めていった。
「なんだ、大した腕じゃないな。ロイド、いつまで寝てる。さっさと起きろ」
「あ、ああ」
 俺を拘束している縄が散り散りになった。俺は力づくで抑え込んでいる男を投げ飛ばして、華奢な男の隣りに立った。
「ルキエル兄、また、その、綺麗になったな」
「言わないでぇ!!」
 目隠ししたって、その綺麗さはわかる。
 そこにいる華奢な男は、俺のもう一人の兄ルキエルだ。その華奢な見た目で、だいたいの奴らは甘く見るんだ。
 次兄ルキエルは、腕っぷしは大したことがない。ただ、その技術が化け物だ。力がなくても、その技術で、敵の骨を折ってしまえるのだ。
 自由になった俺は背伸びして、残った支配者の男を見る。
「さて、形勢逆転だな」
「俺が一声呼べば、いくらだって手下は来るんだ!! おい、小娘、大人しくしてろ!!」
「ロイド様!!」
 大人しくしていないサリーを人質にする支配者の男。いくら武器つけたって、サリーは大人しくしてくれないんだよな。人質としては、一番、ダメなやつだ。
 仕方なく、野良の妖精さんにお願いして、俺は支配者の男を吹き飛ばしてやる。
「こ、このぉ」
「手勢、こればいいけどな」
 俺は支配者の男の横を通り抜けて、支配者の椅子に座った。うーん、座り心地はイマイチだな、これ。
「そこは、俺の場所だ!!」
「俺も欲しくはないけどな。けど、俺の邪魔するんだから、貰ってやるよ。リリーベル、もういいぞ」
 俺が投げ飛ばした男に声をかける。
 屈強で、とんでもないいかつい男は俺に呼ばれて立ち上がる。
「もう、ロイド様ったら、アタシを投げるなんて、聞いていないわよ!!」
 しかし、その口から出るのは、とんでもない女言葉であった。
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