魔法使いの悪友

shishamo346

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交友関係

友人問題

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 いつもだったら、ハガルに顔を合わせたら、皇帝の儀式を命じていた。だが、その日はたまたま、そういう、よくわからない面倒をすっ飛ばして、ハガルの元に行った。
 ハガルは隠された筆頭魔法使いである。城に行くとしたら、大魔法使いアラリーラの側仕えとしてである。筆頭魔法使いとして城に来ることは、滅多にない。来たとしても、隠し通路を通って、秘密裡である。だから、ハガルと会いたい時は、筆頭魔法使いの屋敷に行く。
 表向き、筆頭魔法使いの屋敷は、賢者テラスの持ち物となっている。しかし、ハガルが筆頭魔法使いとなってからは、ハガルに所有者を変えられていた。筆頭魔法使いの仕事もハガルが行っているが、場所は、筆頭魔法使いの屋敷である。かなり面倒なことだが、仕方ない。ハガルはまだ、筆頭魔法使いとして表に立てないのだ。
 時間帯から、ハガルが筆頭魔法使いの仕事をしていることはわかっている。ハガルの一日の予定はだいたい決まっている。だから、ハガルに会いに行くのは簡単なのだ。
 私はわざわざ足を運んで行ってみれば、ハガルがいた。ただ、いつもとは違った。平民服に着替えていたのだ。
 ハガルは筆頭魔法使いとしての仕事をする時は、わざわざ、筆頭魔法使いの服を着て作業している。その服を着ていないということは、作業が終わったということである。はやいよ、仕事。
「ちょうどいい。ハガル、今日は皇帝の儀式を行おう」
 いつもの通り、私は軽く言った。こういうと、ハガルは心底、イヤそうな顔をするんだよな。そして、不承不承と頷くわけである。これ、絶対に拒否出来ないからな。拒否したら、皇帝に逆らうこととなる。ハガルは、絶対に皇帝である私に逆らえないのだ。そう教育し、筆頭魔法使いとなってからは、契約紋によって、皇族に縛られているのだ。
「あー、その、友人と、約束がありましてー」
 思いっきり視線を宙に泳がせて、そんなことをいうハガル。
「友人だったら、断りなさい。ほら、妖精を使って」
 友人というと、同じ見習い魔法使いだろう。よくあることだから、私は約束を反故にするように命じた。
「それが、平民なので」
「………平民? 友人が?」
「そうです。だから、妖精使ってというのは、ちょっと」
「ハガル、座りなさい」
「はあ」
 ハガルは肩を落として、椅子に座る。私は立ったままだから、居心地悪そうだが、私は座るわけにはいかない。
「友人は、男か? それとも、女か?」
「え、性別、重要ですか?」
「答えろ」
「男です」
「年頃は?」
「それ、必要ですか?」
「答えろ」
「私より二つ程上ですね」
「どういう知り合いだ?」
「言わないといけないですか!?」
「答えろ!!」
「女遊びの店で知り合ってから、仲良くなりました」
「そんな友人はダメだー----!!!」
 よりによって、女遊びの店の知り合いを友人にするなど、私は許さん。
 もう、完全に命令だ。だから、ハガル、苦痛に顔を歪ませる。そんなにイヤがることか!!
「そんな、私の交友関係にまで、あなたの許可が必要だなんて、おかしいではないですか!?」
「お前は、表向きはともかく、実際は筆頭魔法使いなんだぞ。もっと、節度ある行動をしなさい」
「そういうラインハルト様は、過去、節度ある行動していましたか? 呪いを受けるような女遊びまでしていおいて」
「まだ、一皇族だった時の話だよ!!」
「だったら、私だって、見習い魔法使いですよ。節度、なくていいでしょう」
「女遊びだって許可したくないってのに」
「だ・か・ら!! 実際は、暗部の誘き出しだって、言ってるではないですか」
 立とうとするハガルを無理矢理、椅子に押し込めて、私は後ろからハガルを抱きしめる。
「わかっている。しかし、腹が立つ」
「私だって、ラインハルト様の過去の女性遍歴には腹が立ちますよ」
「………」
 痛い痛い痛い!! もう、過去をこれでもかとハガルが抉ってくる。妖精憑きだから、執念深いんだよ。
 私はハガルに弱い。ハガルはわかっていないんだ。ハガルのことを随分と見逃してやっているんだ。ハガルのあのダメな血の繋がらない父親だって、暗殺してやりたい。それを我慢してやってるんだ。ほら、暗殺したら、ハガル、私に対して、とんでもない仕返しをしてくるから。きっと、しばらくは触らせてもくれないし、嫌い、なんて言われちゃうよ。
 ハガルは無駄に私の腕から逃れようと暴れる。
「もう、いいではないですか!! 私の交友関係です。約束があるので、行きます」
「アラリーラの側仕えの仕事はどうするんだ!?」
「アラリーラ様はお優しいから、行っていい、と許可をくれました。どっかの誰かさんとは大違いだ」
 蔑むように私を見るハガル。痛い痛い痛い!! そんなこと言われると、心臓が抉られたみたいに痛いよ!!!
「ともかく、もう、行きます。今日の皇帝の儀式はなしです、なし。だいたい、昨日、したばったかりでしょうが」
「今日もしたい」
「離れろ!!」
 顔を真っ赤にして、あの男女を狂わす美貌で言われても、離せないな。むしろ、このまま力づくで、儀式したっていいんだ。
「何をしてるんですか、皇帝陛下」
 そこに、とんでもない冷たい声で私に語りかける賢者テラスの登場である。夢中になりすぎて、テラスが部屋に入ってきたのに、気づかなかった。
 私の腕の力が緩んだから、ハガルは椅子から離れて、テラスの後ろに逃げ込んだ。
「テラス、助けてください!! ラインハルト様ったら、友人との約束があるというのに、皇帝の儀式をやれと言ってくるんですよ」
「皇帝陛下」
 氷点下のように冷たい視線を向けてくるテラス。私は帝国で一番偉い皇帝だが、最強なのはテラスだな。こいつは、皇帝相手でも手をあげるんだ。
「テラスは知っているのか? 友人って、平民だぞ」
「聞いています。女遊びの店で知り合ったとか。確か、名前はルキエルですね」
「そうです」
「問題ありません。許可します。行ってきなさい」
「ダメだ!!! 女遊びで知り合ったような奴を友人にするなんて、私が許さん!!!」
 途端、ハガルだけでなく、テラスまで、私を蔑むように見てkちあ。
「どの口がいいますか。散々、女遊びをしておいて」
「だからいうんだ!! ハガル、友人はもっと選びなさい」
「選んだ結果です。だいたい、親兄弟でもないんだから、あなたに指図される事ではありません」
「もう、ハガルも女を抱く年頃です。大人ですよ、大人。責任は全て、ハガルがしっかりととります。もういいでしょう」
「私は許さない。ハガル、行くな」
 強制的に命令を発動させる。かなりきついのだ。
 ところが、ハガル、平然としている。それどころか、余裕で笑っているのだ。
「この約束、皇族の方々も含まれています。いくらラインハルト様のご命令といえども、皇族の約束で打ち消されます」
「なんだと!? まさか、お前に女遊びを教えて皇族か!!」
「そうです。ただの食事会ですよ。食べたら解散です」
「そんなわけあるか!? どうせ、その後は、女遊びの店に行くんだろう」
「そうなるかもしれませんね。いいではないですか。ラインハルト様だって女好きですよね」
「今は、ハガルだけだ。女なんかいらなん」
「っ!?」
 真正面から正直に言ってやれば、ハガルは途端、顔を真っ赤にする。本当に、ハガル、弱いな。
 私に言われて、ハガルは気恥ずかしいみたいに頬を染める。私はハガルが幼い頃から、散々なことをした。だから、ハガルはどうしても、私を拒絶できないのだ。そう、私が教育した。
 このまま、私の元にハガルが戻ってくるかに見えた。
「目を覚ましなさい!!」
 それを邪魔するのが賢者テラスである。げんこつで、ハガルの顔を殴りやがったよ。
「テラス、顔はやめてぇ!!!」
 ハガルの、あの綺麗な顔を傷つけられるのだけは、私は耐えられない。悲鳴あげちゃうよ。
 痛い目にあったので、ハガルも正気に戻った。
「助かりました、テラス。もう、私は行きますから。そうだ、皇帝の儀式をどうしてもしたいなら、テラスにやってもらってください」
 ハガルは顔の傷を瞬間で治して、さっさと部屋を出て行った。
 私は追いかけようとするも、それをテラスに邪魔される。
「私と皇帝の儀式をやりますか?」
「やらないよ!! 二度とやらないって、約束だろう」
「そういうのなら、ハガルにも、程々にしてあげてください。私から見ても、やりすぎですよ」
「………」
 実際、そうなのだ。ハガルとの皇帝の儀式の回数は異常なのだ。
 皇帝の儀式は、筆頭魔法使いに閨事を強要である。筆頭魔法使い、というよりも、男であれば、男相手の閨事なんて絶対に拒絶したい。それを強要出来るほどの血筋の証明のために、皇帝は筆頭魔法使いに閨事を強要するのだ。
 ハガルは隠された筆頭魔法使いとなってからずっと、皇帝の儀式を強要されている。その回数はおかしいのだ。
「仕方ない。ハガルは、理由がないと、私と閨事をしてくれない」
 私はハガルの身も心も欲しいのだ。それほど、私はハガルに魅了されている。だが、ハガルは理由がないと、その身を私に差し出してくれない。
 ハガルが閨事の知識がない幼い頃から、私は随分なことをしてきた。悪戯だ。それでも、ハガルは受け入れ、全身で私を求めてくれた。
 閨事の知識を取り入れてから、反抗期のように、ハガルは私を拒絶した。それも、皇帝の儀式であれば、ハガルは私を受け入れてくれるのだ。
 これでもか、と深いため息をつくテラス。
「皇帝としての仕事、しっかりとこなしてくださいよ。それだけは絶対です」
「わかってるわかっている」
「軽い!!」
「実際、やってるだろう!! 私はずっと、立派な皇帝をしている」
「………そうですね」
 皇帝となってからずっと、私は立派な皇帝である。仕事に手抜きなんかしていない。それをテラスは長年、見ているのだ。
 ただ、ちょっと、いや、かなり、女遊びがひど過ぎたけどね。
 それも、ハガルと出会ってから、私は女遊びをやめた。もう、ハガル一筋だ。
「あまり、ハガルの交友関係には口出ししないでください」
「相手が問題なければ、もうしない」
「………」
 テラスはもの言いたげに見てくるが、それ以上、何も言わなかった。止められないので、私はハガルを追いかけた。





 いつものお忍びの恰好で市井に降りて、適当にハガルを探した。まあ、だいたい、行く所は決まっているのだ。
 少し歩けば、待ち合わせ場所らしき所で立っているハガルを見つけた。丁度、相手も来たようで、ハガルは年頃らしい笑顔を見せた。
 ハガルはやってきた平民ルキエルの肩を叩いては、笑顔で談笑である。見ていて、微笑ましい感じがする。ルキエルという男との出会いが女遊びの店でなければ、このまま帰るんだがなー。
 見習い魔法使いの時と変わらない談笑の姿だが、私はハガルの元に行った。
「ハガル」
「あんた、何やってるの!?」
 場所が場所だから、平民の言葉を吐き出すハガル。姿だって、いつもの平凡に偽装している。それでも、私を前にすると、ハガルは妙な色香を発する。
「ハガルの知り合い?」
 恐る恐ると、私を見る友人、確か、ルキエルだな。
 ぱっと見て、私はおかしなものを感じた。ハガルとルキエル、どこか似ている感じがする。ハガルは偽装しているが、ルキエルはそれが素顔だろう。男にしては綺麗な感じがする。あと、ルキエルは、あまり鍛えていない。
「ライン、さっさと帰れよ!!」
 お忍びだから、ハガルは私のことを”ライン”と呼ぶ。だからだろう。私はハガルの言葉を右から左に聞き流した。
 私は人をよく見ている。だから、わかる。ルキエルは、危険だ。勘もそうだが、そういう何かを感じるのだ。だから、私は反射でルキエルの腕を掴んだ。
「何やってるんだ!?」
 ハガルが私を止めようと手を出した。だが、その前に、見知らぬ長身の男が、私の腕を力をこめてつかんできた。
 殺気まで孕んで、私を睨む男。その握力はなかなかだが、私は耐えられないほどではない。それよりも、ハガルの妖精が恐ろしい。こんな人込みの中で、ハガルの妖精が、目の前の男に復讐するかもしれない。
 しばらく、私は平然として、相手の男は睨んでたが、何か諦めたように、表情を緩めた。
「すまないが、この子は、私の友人の子だ。離してくれ」
「ああ、そういうことか。それはすまない」
 よく見て、納得した。皇族ルイの友人貴族だ。確か、伯爵のマクルス。表向きは普通の貴族だが、裏では、妖精を狂わせる香なんてものを作る一族の当主だ。当主本人は、体を改造して、妖精憑きの魔法すら届かせないようにしているとか。魔法使いの魔法が通じないので、妖精憑きで困った時は、この男に依頼するという。
 つまり、マクルスがわざわざ出てきたということは、この平民は、妖精憑きだろう。しかも、マクルスにとって、特別な妖精憑きだ。
 そして、ハガルはルキエルが野良の妖精憑きだとわかっていて、私に黙っている。
 とんでもない裏切りだ。どうしてやろうか、なんて考えているのに、ハガルは平然と帰れ、なんて言ってくれる。こいつ、誰のために、ここまで来たと思ってるんだ!!
 もう少し、ルキエルのことを観察したくなった。
「そんなこと言うな。そうだ、私がご馳走しよう」
「いらない!! 俺は、ルキエルと約束したんだよ。あんたとは、いつだって食べられるだろう。さっさと帰れ」
 生意気なこと言われた。確かにそうなんだが。
「ハガル、また今度にしよう。俺も親父の知り合いが来た。口うるさいんだよ、俺の親父」
 ルキエルは、ハガルのために、一歩退いた。どこから、諦めた顔を見せた。その表情には、何故か、心を打たれる何かを感じた。
「わかったわかった。今回は、見逃してやる。父親には、私のほうから、うまく言ってやるから」
 そんな顔をされれば、伯爵マクルスのほうが折れる。あんな顔、ハガルにされたら、私もそうなるな。
 ルキエルには、諦め癖があるのだろう。ルキエルは私の顔色を伺った。
「え、けど、ハガルのほうが」
「ラインは帰れ帰れ。ルキエル、気にするな。アラリーラ様に泣きつくから」
「お前、そういうことするの!?」
「アラリーラ様は友達を大事にしなさい、と言ってた。今日は、特別に時間までくれたんだからな。ほら、帰れ」
 とうとう、アラリーラの名を出してきた。確かに、アラリーラに許可までとったと言っていたな。まずいな。
 さて、どうしたものか、と少し考えて、ルキエルの保護者のような立場のマクルスを見る。この男、フードで隠された私の顔を見て、気まずい、みたいな顔をしている。あれだ、私の正体がわかったんだな。
 マクルスは、今にも、その場を離脱したそうだ。そんなマクルスの肩を私は叩いた。
「では、こちらはいい歳の大人同士で、話そう」
「………はい」
 きちんと空気が読めるマクルスは、真っ青な顔をして、頷いてくれた。
 その場に残る手段を無理矢理手に入れた私に、ハガルは忌々しい、みたいに睨んできた。偽装された姿ではあるが、それでも、私は、そんなハガルを見て、つい、笑ってしまう。
 大人しくハガルから離れるわけがない。もう、死にそうな顔をしているマクルスを引き連れ、私はそれなりの距離をとって、ハガルの後をつける。ハガルの行きつけの店は決まっている。だから、見失ったって、そういう店をしらみつぶしに行けば、見つけられるのだ。
 そうして歩いて行けば、よく、見習い魔法使いから魔法使いまでよく使うという飲み屋に入っていった。酒飲んでも、妖精憑きは酔わないからなー。
 普通の飲み屋に入って行ったのを見て、マクルスは見るからに安堵した。この男も、ルキエルから離れられなくなったんだな。他人事とは思えない。私もそうだからだ。
「あ、あの、私は」
「心配なんだろう。一緒に、監視をしてやろう」
「あー、はい」
 安心したからといって、逃げようとするマクルスを私は離さない。一人で入って行ったら、ハガルに後で言われれちゃうだろう。道連れがいれば、怒りも半減になるはずだ。
 私が皇帝だと知ってしまったマクルスは、全てに諦めた顔をして頷いた。いやー、空気が読める男で良かった良かった。
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