魔法使いの悪友

shishamo346

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信仰

忘却の過去

 子どもじみた意地悪だった。悪戯好きな、綺麗な子どもだった。子どもだけど、弟の面倒をみて、兄と姉には、ちょっと困らせることはあるが、年頃の幼児にしては、聞き分けのいい子どもだと見ていた。
 見て、接すれば、誰もが、その子どもには心が惹かれる。不思議な魅力のある子どもだ。
 だけど、貧民だ。
 主人マクルス様について、王都の貧民街に行けば、その子どもに接することは多かった。マクルス様の目的は、王都の貧民の支配者の妻サツキだ。もちろん、仕事も持っていく。どこからともなく仕事をかき集めて、王都の貧民の支配者アルロに依頼するのだ。仕事の依頼はついでに、サツキとちょっと話すことをマクルス様は楽しみにしていた。
 ちょっとした会話はすぐ、中断させられる。それはそうだ。サツキには子がいる。赤ん坊に、まだ手がかかる幼児二人。マクルス様とサツキが雑談してしばらくすると、赤ん坊は泣く。
「あら、どうしたのかしら。ルキエル、連れて来てください」
「母ちゃんがこっちに来るもんだろう!!」
 まだまだ幼児であるルキエルが、弟ロイドを腰にしがみつかれたまま、両手で赤ん坊を抱えてやってくる。それには、さすがのマクルス様も驚く。
「何をやらせてるんだ!?」
 マクルス様は慌ててルキエルの手から赤ん坊を抱き上げる。しかし、赤ん坊なんて扱ったことがないマクルスは腕に抱いたまま、固まった。抱き方が気に入らないのか、機嫌の悪い赤ん坊は大暴れである。そして、落ちる。
 マクルス様は真っ青になった。まさか、サツキの赤ん坊を落とすこととなるとは、と慌てるが、その赤ん坊を幼児であるルキエルが上手に受け止める。
「下手くそだな、マクルス」
「ルキエス、なんて口を」
「いいんだ。私が赤ん坊を抱いたのが悪かった。助かった」
 マクルス様はルキエルの頭を乱暴に撫でる。それに、ルキエルは蕩けるような笑顔を浮かべるルキエル。この頃から、ルキエルは、他の人とは、違う存在であった。
 しかし、マクルス様にはルキエルはそこら辺の幼児だ。手がかからないが、それだけだ。見てもいない。これほど、サツキに似ているというのに、マクルス様の目はサツキに向いている。
「ほら、母ちゃん、レーリエット連れてきたぞ。俺は、しっかり面倒みたんだから、ちょっと遊んでくる。マクルス、ほら、抱っこ!!」
「いけません!! マクルス様は貴族ですよ。そんな無礼なことして」
「かまわない。よくやった」
 マクルス様は苦笑して、ルキエルを抱き上げる。それまでしがみ付いていたロイドは、腕の力が足りないので、ルキエルから離れることとなった。
「やぁ!! にいちゃー!!!」
 大泣きするロイド。ロイドをサツキが宥めるが、ロイドが求めるのはルキエルだ。
 ルキエルはというと、ロイドのことなど無視だ。ロイドの散々な我儘を聞き入れているのだろう。ルキエルは不機嫌な顔で、マクルスの胸に顔を埋める。
「しばらく、この子どもを借りる」
「そ、そうですか。助かります」
 服までつかんで、離れようとしないルキエルに、マクルス様は何か悟ったのか、味方した。
 大泣きする赤ん坊とロイドをサツキに任せ、マクルス様は片手でルキエルを抱き上げて、外を歩き出した。私は、マクルス様の傍らについていく。
「マクルス様、それは、貧民ですよ。程々にしないと」
「子どもなんだから、許してやりなさい」
 どの口が言ってるんだ!? 妖精殺しの伯爵、という裏の顔では、ルキエルとそう歳の変わらない子どもの妖精憑きに随分と酷いことをしているというのに。子どもの妖精憑きは、マクルスに恐ろしい目にあわされ、泣き叫んで、許しを訴えても、容赦なく、苦しめるのだ。
 それなのに、ルキエルの前では、マクルス様は無害な顔をする。サツキの子、ということもあるが、ルキエルは、人を惹き付ける、見えない何かがある。
「ルキエルばっかりずるい!! アタシも一緒に行きます」
 サツキの娘リンネットがマクルス様にくっついてきます。それを見て、ルキエルは顔を引きつらせる。ほら、こんな子どもでも女だ。リンネットは、家では、ルキエル相手でも、容赦ないのだろう。
「ほら、ルキエル、降りなさい。ルキエルはもう、そういうことがいらないでしょう。一緒に歩きましょう」
 リンネットは、マクルス様にいい所を見せたいのだろう。それが、弟と手をつないで歩くことである。
 それを聞いたルキエルは顔を引きつらせ、マクルス様にしがみつきます。
 リンネットはサツキの子だが、サツキに似ていない。サツキの父方の祖父母の血が強く出てしまったのだ。そのため、マクルス様はリンネットを苦手としていた。
「ルキエルと買い物をしてくる。家で待っていなさい。いいものを買ってこよう」
 作った笑顔でどうにかリンネットを屋敷に行かせようとするマクルス様。ルキエルも、壊れた玩具のごとく、うんうんと頷いている。ルキエルも、リンネットとの一緒なのがイヤなのだ。一体、どんな目にあっているのやら。
「わかりました。楽しみに待っています!!」
 こうすれば、だいたい、リンネットは誤魔化せる。リンネットは上機嫌に、屋敷へと入っていく。
 マクルス様も、ルキエルも、心底、安心したように息を吐く。
「どこも女の相手は大変だ」
「姉貴、怒ると怖いんだよ。ひっかいてくるしさ。見ろよ、これ」
「酷いな」
「すぐ治るからいいけど」
 腕のひっかき傷は痛々しいというのに、ルキエルは平然としている。
「マクルスは、選ぶのうまいよな。姉貴、むちゃくちゃ喜んでるよ。今回も、任せた!!」
「お前は、母親が喜ぶものを選んでくれ」
「母ちゃんが喜ぶものね。道具以外だったら、何だって喜ぶよ」
「?」
「あ、親父に見られた!!」
 父親に見られて、ルキエルは焦った。だが、マクルス様がルキエルの父アルロに笑顔を向けると、アルロはすぐにそっぽ向く。この二人、仲が悪いのやら、良いのやら、よくわからない。
 こうして、ルキエルの一方的な逢瀬が続いた。





「結婚は無理か」
 マクルス様の父である旦那様は、諦めたようにそういう。
 マクルス様は相変わらず、女の噂が絶えない。わざとだが、女も寄ってくるのだ。
 マクルス様は見た目もいいし、能力だって高い。女との関係が続くということは、閨事だってうまいのだろう。実際、そういう教育も受けている。だが、結婚の話はいつも頓挫する。
 マクルス様の結婚を邪魔するのは、マクルス様の兄マリル様である。すでに伯爵を継いでいるマリル様は、結婚して、立派な男子の跡継ぎもいる。これからも、子は出来るだろう。
 マクルス様とマリル様は、仲が悪い。別に、マクルス様は兄マリル様を嫌っていない。役立たずめ、とは思っているが、それだけである。しかし、マリル様は、マクルス様のことを昔から嫌っている。だから、マクルス様の結婚も、マリル様が全て邪魔して、台無しにするのだ。
 兄弟仲が悪いため、家門の中も二分されてしまっている。マリル様派、マクルス様派、と別れてしまっている。マリル様は、表向きの顔で大きな顔をする。マクルス様は裏の仕事で、ただ、静かにしている。光りと闇のような表裏の関係である。本来であれば、兄弟は仲良くするべきなのだ。
 しかし、マリル様は一方的にマクルス様を嫌い、マクルス様はマリル様の失敗を表でも裏でも対処している。そのせいで、マクルス様は、表でもそれなりに知名度が高くなってしまっている。それがさらに、マリル様を怒らせてしまうのだ。
 旦那様としては、マクルス様に結婚させて、優秀な跡継ぎを育ててほしいのだ。すでに、兄マリル様の子は失敗だと旦那様は気づいている。それはそうだ。教育するのは、マリル様を祭り上げる家臣である。第二のマリル様を作り上げようとしている。
「兄上の子がいるからいいでしょう。どうしようもない時は、血族から養子をとって、それを育てればいい。優秀なの、探せばいくらでもいるだろう」
 子もまた道具である。マクルス様はそう教育されているし、そこは合理的に考えているのだ。
 同じように旦那様も考えている。マクルス様は、家門を存続させる大事な道具である
「いつまで、あの女に拘っているのやら」
「………」
 私が睨まれた。報告するのは仕方がないでしょう!!私は、この家の歯車なんですから。
「優秀な子がいるそうだな。養子にしたらどうだ?」
「優秀というと、ルキエルか」
 優秀と聞いて、マクルス様はすぐ、ルキエルのことを思いつく。マクルス様の中では、ルキエルは評価が高い。
 貧民とか、そういうものを抜きにして、マクルス様はルキエルを見ていた。あんな悪ガキ、と私は思っていたが、マクルス様はそうではない。ただ、抱き上げて、歩いて、会話して、としているだけなのに、マクルス様はルキエルを高く評価していた。
「そんなに優秀か? いくつだ」
「まだ、五歳くらいですね。人を惹き付ける魅力もありますが、気づくと、私が操られています」
「操られる?」
「そうです。人を操作する能力は、生まれ持ってのものでしょう。ルキエルなら、兄上の子も、上手に手なずけるでしょうね」
「だが、五歳かー」
「貧民育ちですが、逆に、子どものほうが、教育のし直しが出来る」
「確かにそうだな。ダメなら、捨てればいい」
 貧民だから、旦那様の考えが普通である。
 だが、マクルスは、最後の言葉には、肯定も否定もせず、黙り込んだ。





 ルキエルが知らない所で、ルキエルをマクルスの養子にする話は進んだ。だが、問題があった。
「いけません。ルキエルは、絶対に、マクルス様の養子には出来ません!!」
 サツキが大反対した。
「他の子ならばいいでしょう。ですが、ルキエルだけは絶対にいけません」
「ルキエルならば、立派な貴族になれる。そういうものを持っているんだ。ここで、貧民としてくすぶらせていくよりも、いいだろう」
「貧民のどこが悪いというのですか!? 貧民にだって、いい所はあります」
「お前は、アルロに囲われているから、何不自由なく生活できているんだ。実際の貧民は、もっと酷いものだ」
「っ!?」
 サツキは言い返せない。サツキは元は貴族令嬢だ。お家乗っ取りのせいで、貴族から貧民に落ちたが、貴族であった頃から、貧民のような扱いをされていた。貴族であった頃のサツキは、酷いものだった。
 サツキだって、本当の貧民のことは知っている。わずかだが、一人で立って、外で働いていたことだってあるのだ。真の貧民を知っている。今のサツキは、貧民ではない。囲われて、大事にされて、と貴族の頃よりも幸福を受けている。それもこれも、夫アルロの庇護があってのことだ。
 アルロの庇護がなくなれば、サツキは無事ではすまないだろう。サツキはか弱い女だ。見た目はとても子ども五人がいるとは思えないほど綺麗な女だ。だが、何も出来ない。彼女が出来ることは、貴族としての仕事だ。平民や貧民の仕事は出来ない。
「まずは、ルキエルからだ。そうしよう」
「こういう時は、まずは、年長者のライホーンでしょう」
「あれは、平民でいいだろう。少し、育ちすぎているから、貴族としての教育には遅すぎる」
 サツキの長男ライホーンはすっかり貧民に染まっていた。すでに、父親を手伝って、後ろ暗いことだってやっている。
「リンネットは、確かに、危険ですね」
 サツキでも、リンネットを貴族にするのを危険視した。サツキは見た目があれなリンネットでも愛している。可愛い娘である。サツキとリンネットのやり取りは普通なのだ。リンネットも、サツキの前では普通の女の子になる。だが、リンネットは、外ではとんでもない悪女なのだ。
「赤ん坊や幼児は、確かに、手がかかりますよね。ですが、ルキエルは………」
 反対する理由をサツキは飲み込んだ。
「だったら、ルキエルをサツキの生家に戻そう。ルキエルには、その資格がある」
「それは、絶対に許しません!! あんな家、滅んでしまえばいいのです!!!」
 途端、サツキは憎しみと怒りに体を震わせる。彼女の憎悪はとんでもない。サツキは何か神がかりの力でも持っているのか、と疑いたくなるほど、サツキの生家も、領地も、滅茶苦茶になっていた。人が介入した程度では、領地まで荒れ果てることはない。サツキが呪っている、と言ってもおかしくないほどである。
 アルロも説得したが、サツキはどうしても、ルキエルをマクルス様の養子にすることを反対した。





 そうしている間に、サツキは皇帝のハーレムに騙されて連れて行かれ、一年に、ハーレムの解体の際に、殺された。





 紆余曲折により、マクルス様は伯爵となった。マクルス様は、血族から優秀と思われる養子をとり、養子の周囲を、曰くありの子たちで固めた。問題のある家門は徹底的に介入し、兄マリルの勢力を全て潰して、空いた椅子に、新しい当主を納めた。
 そうして、マクルス様の頭の中から、ルキエルのことは綺麗さっぱり消えていた。
 王都の貧民街に行っても、サツキのいない屋敷には入らない。ルキエルは、まだ子どもであったため、アルロから外に出る許可がないため、マクルス様との接点がなくなった。
 だが、ルキエルは諦めているわけではない。マクルス様が来るのをどうやってわかるのか、ルキエルは決まって、屋敷からこっそりと抜け出して、物陰からマクルス様を見ていた。
 マクルス様はルキエルの父アルロと話している。ここで、駆け寄ったら、アルロにバレてしまう。ルキエルは、アルロのことを恐れていた。
 だから、遠くで見て、満足していた。それを私は気づいていた。だが、私は手助けのようなことは一切、しなかった。
「マクルス様、行きましょう」
 むしろ、私はルキエルを邪魔した。ルキエルは、マクルス様が背中を向けて歩き出すと、絶望した表情となった。あれほどマクルス様をルキエルは見ているというのに、マクルス様は気づかない。
 いや、気づいているだろう。方向が悪い。サツキがいない屋敷だ。そこから視線を感じても、マクルス様はなるべく、その屋敷を見ないようにしていた。どうせ、子どもがこっちを見ているだろう、その程度の感じだ。
 屋敷では、ルキエルがいなくなったことで大泣きするロイドの声が外まで響いてきた。それには、ルキエルも仕方なく、屋敷に戻るしかない。
 そういうことは、数年、続いた。そうすると、おかしなことに気づく。
 ルキエルの弟ロイドは、屋敷から出ているのだ。外で、アルロとマクルス様が話している所に、ロイドは悪戯するみたいにやってくる。
「また来たのかよ!!」
 ロイドはマクルス様のことを嫌っていた。幼い頃からずっと、ルキエルがマクルス様に夢中なのがわかっているからだ。
 すっかり、ロイドはルキエルのことを大好きな兄、として位置づけていた。他にも兄姉がいるというのに、これっぽっちも懐いていない。長兄ライホーンは、兄だろう。だが、それだけだ。姉リンネットも、ちょっと怖い姉、である。
 しかし、ルキエルは、大好きな兄、なのだ。ルキエルがマクルス様に今でも夢中なのだろう。それが気に入らなくて、何かとロイドはマクルス様に突っかかってきた。
「生意気な口をきくな」
 そして、アルロが拳でロイドを黙らせる。アルロ、その腕っぷしは、相変わらず、最強である。成長した長兄ライホーンだって、それなりに強いが、アルロのは、化け物なのだ。
 アルロに殴られ、ロイドは半泣きになって退散していく。やはり、まだまだ子どもだな。
 ロイドが走り去っていくのを見て、マクルス様は、なにかに気づいた。
「アルロ、もう一人の子はどこだ?」
「誰のことだ?」
 子どもは五人もいるのだ。そう言われても、アルロはどの子のことかわからない。
「ロイドの上に、もう一人、いるだろう。名前は………」
 随分と耳にしていないから、マクルス様はど忘れしてしまっていた。
 ところが、その話題に、アルロは途端、不機嫌になる。固く口まで閉ざしてしまう。
 マクルス様は、どうにか名前を思い出そうとする。
「ほら、サツキに似た子が」
「レーリエットか?」
「下の子は、そんなにサツキに似ているのか?」
「似てる。やらんぞ」
「そんなつもりはない!!」
「どうだかな。貴族だから、妾に、なんて考えるだろう」
「サツキの子に、そんなことしない!!」
 本当に、どの口が言ってるのだか。この頃も、マクルス様の女の噂はすごかった。それは、貧民相手にも手を出していたのだ。
 マクルス様は結婚を諦めていた。優秀な養子も手に入れたし、我が子に拘るのをやめたのだ。死んだ兄マリルは、同じ兄弟だというのに、最低最悪だった。我が子といっても、同じように優秀とは限らないのだ。
 だが、マクルス様はいつまでも、サツキに対しては夢を見ていた。サツキに似ているレーリエットを見た時、どうなるか、誰も想像出来なかった。
 サツキが生きていた頃、あれほどサツキに似ていたルキエルには、マクルス様はこれっぽっちも見向きもしなかった。ただ、優秀な子ども、と見ていた。
 しかし、サツキは死んでいない。サツキが暮らしていた屋敷にすら近づくことを拒否すること、マクルス様の想いは強かった。
 だから、サツキに似ているという子を一目見た時、マクルス様はどうなるか、予想出来ないので、私は避けたかった。

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