無自覚な

ネオン

文字の大きさ
3 / 11
家のこと

 1' 大悟目線 

しおりを挟む
 小さい頃から大好きで、可愛い可愛い俺の義兄。艶のある黒い髪に零れそうな大きな瞳、ツンと上を向いた小さい鼻にぽってりとした赤い小さな唇。背丈は平均よりも少し低くて所々が折れそうな程細い。義兄らしくない義兄、梓が俺の初恋であり最愛の人だ。小さい頃から周りの奴に、梓の気を引きたいという子供じみた感情でいじめられていた。当の本人はいじめられていた理由も、学校でちょっとした嫌がらせに合ってる理由も周りに嫌われてるからだと思っている。そんな梓は無防備で危なっかしい。だから俺は兄貴と一緒に梓を守ってきた。大事な花を手折られてしまわないように。

 俺は朝に弱かった。今はそれを恨めしく思う。低血圧だから治し難いんだけど絶対治すと心に決めた。というのも普段は1階から声をかけて起こしたり、兄貴が起こしに来たりするのだが今日は梓が起こしに来た。俺は夢だと思い手を伸ばしてしまったんだ。
 
「だ…いちゃ…起き…ごは…出来て…」

 途切れ途切れに声が聞こえた気がした。その後すぐに、心地よい暗さだった部屋が光に包まれた。

「う”ぅ…まぶし」

俺は無意識にそう呟いて、布団に逃げ込む。

「ダメだよ寝ちゃ!学校に遅れちゃう。ご飯も冷めちゃうよ。」

「う、あずさ…おはよ。」
(今度はちゃんと聞こえた、さっきの声も梓のものか。梓の声は心地がいい。)

俺は挨拶も終え、幸せなまま二度寝を決め込んだ。だが俺の体温で暖まった布団が剥ぎ取られた。目を向けるとベットのすぐそばに梓がいて俺を揺すっていた。細い眉は八の字になっていて困り顔だった。

「おはよう、大ちゃん、起きてよ。」

(声だけじゃなく姿も出てきたか、今日は吉夢だな。)

俺は手を伸ばしビスクドールの様な滑らかな頬に添えて、梓の顔を近づける。近くで見る梓はあっけに取られた顔をしていて愛らしかった。そんな梓の艶々とした厚めの唇に誘われ噛みつくようにキスをする。唇を重ねる前に梓がなにか言おうとしてたがその言葉を俺が呑み込んだ。梓は息を吸いたかったのか口を開けた。そこを狙い舌をねじ込む、歯列をなぞり梓の甘い舌に俺の舌を絡ませる。

「はっぅ、う…ぅん!」
(違和感がある喘ぐ梓の声もだし、やけに感触が生っぽい?)

胸をどんどんと叩かれ、違和感が確信に変わる。俺は名残惜しく、頭に浮かんだ想像が当たってないことを願い、ゆっくり離れた。大当たりだった。すると2人の間に銀糸がかかり、ぷつりと途切れ梓の口元へと垂れる。息が出来なかったのか目が潤み、頬が桃色に染まっていた。とても扇情的で色っぽかった。俺は冷静に物事を考える暇もなく、ただ焦った。

「っん!あ、梓?」

睨み付けてくる梓は上目遣いになっていて、凄んでいるというよりは煽っている様だった。すると頭を軽く叩かれた。

「女の子と間違えない!呼び捨てにしない!僕はお兄ちゃんだよ!」

とぷるぷると振るえながら小動物のように怒っていた。

(別に女と間違えた訳じゃ無い。そもそも呼び捨てにしてるのも弟扱いから、変えてもらうためだ。てか。)
「何で入って来てんだよ、梓。」

「呼んでも起きないからだよ!ちゃんと入るよって言ったからね。起きない大ちゃんが悪い。」

頬を膨らませて梓が怒る。

「大ちゃんって呼ぶな。」
(弟のような風貌じゃあ無いだろうに、まだ弟扱いか。)

「今までそう呼んで来たんだから、変えないよ。」

拗ねて顔をそらす。するとなにかが目にとまったのか急に声を上げて慌て始める。

「あぁ!遅れちゃう。ほら大ちゃん着替えて、着替えて!」

(弟という認識は変えないんだな。でも俺が変えればいいのか。まず大ちゃん呼びから止めさせる。)
「だから、大ちゃんって」

「ご飯出来てるから支度して下来てよ。ご飯冷めちゃうからね。」

言いたかった言葉を梓に遮られ、最後まで言えないまま梓はバタバタとして部屋を出ていった。
 
 1人になり思い返すと、今更後悔の念が渦巻く。無意識とはいえ梓に手を出してしまった。引かれてないと良いが。兄貴にばれたら殺されるな。だけど色っぽかったな、梓。1人きりなら何度でも可愛いと言えるのに本人の前だと素っ気なくなってしまうのは思春期だからか?そんなことばかり考えていたが、とりあえず言われた通りに制服に着替えてカバンを持ち、梓より少し遅れて下へ行く。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

処理中です...