朝靄の歩道橋

ココロボ何某

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春の始まり

後編

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それから数日後、沙村がバラカン楽器に来た。


「これお願いします。」 

「お久しぶりですね、千八十円です。」

「真弓から預かって来たんだけど今日のライブのチケット。」

「すいません!ありがとうございます!」  

「あと打ち上げも来れそうなら来てっ言ってた。」   

「う~~~ん・・・か、考えときます。」

「じゃあ、またあとで」

「ライブ頑張ってくださいね!」


打ち上げか・・・
友達が出るからってお客さんの私が行くのも場違いなんじゃ・・・


仕事が終わり、真弓たちが出るライブハウスに向かった。
蒸し暑い熱気に包まれて、入った瞬間に今日は盛り上がっているのが分かった。


「真弓の歌う姿はやっぱり好きだなあ。あっ!私の好きな曲だ!今日はラッキー!!」


その曲は片思いの歌だ。
「どれだけ言葉で伝えてもあなたは笑い飛ばすから、服を脱げばいい?」
って歌詞がある。
私が男の子だったらすぐにおとされちゃうと思う。
というかこんなんされたら無理でしょ、いろいろ(笑)


「セクシーなトコも良いんだよね~」


ニヤニヤしながら律が話した。


「ま、実体験だから」

「そ、そうなんだ!へぇ~~・・・」

「冗談に決まってるじゃん!そんなに経験豊富じゃない!(笑)」

「だ、だよね!私の知らないうちになにがあったの!?って思っちゃった(笑)」

「律は打ち上げどうする?」

「・・・私は遠慮しとくよ」

「そっか~~~、じゃあ、沙村に駅までもらおっか~~~春だし」

「沙村さんに!?春だしって意味解んないんですけど!?」

「春書いて恋と読むのだよ、諸君!」

「・・・はいはい」


強引な真弓に流されるまま沙村に帰り道を付き合ってもらうことになった。

沙村は律達より一つ上で、端から見たらバンドマンには見えない好青年だ。
タバコを吸うあたりはバンドマンらしいという所か。



「ホントすいません、打ち上げもあるのに送ってもらっちゃって・・・」

「いつも来てもらってるしこれくらいはね。てか、俺も帰るしね。」

「え?打ち上げは?」

「明日早いから行かないよ。最寄り駅って俺と一緒だったよね?あと喫煙所寄っていい?」

「えっ、あっ、はい。ん・・・えっ!?とりあえず、い、行きましょう喫煙所!」


(真弓さーん・・・大事な事は話してくださいよ、ご近所さんなんて全然知らなかったよ・・・本当にもう・・・)



沙村さんのタバコを持つ指はスッとしていて
白い息を吐く瞬間を私はずっと見ていた。
真弓が言う「春」のせいなんだと思った。

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