朝靄の歩道橋

ココロボ何某

文字の大きさ
5 / 7
春の終わり

前編

しおりを挟む

こんな事になったのは
春が終わりそうになったせいだ。
じゃなきゃ私は焦ったりしなかった。このままで良いって願っていたのに。



「おっ、りっちゃん。バイトお疲れ。」

「ありがとうございます・・・今日は閉店までだったから・・・こんな時間になっちゃって・・・お腹空いた・・・沙村さんご飯食べました??」

「さすがに食べたよ、今二十三時だしね(笑)でも、とりあえずりっちゃんの腹ごしらえしなきゃな(笑)」


近くのファミレスに入った二人。


「今度のライブのチケットどうぞー。この前も真弓と会ったんでしょ?真弓が渡せば良いのにね。」

「いつもありがとうございます!そうは言っても沙村さんはご近所さんですし、暇そうですし(笑)」

「酷いなー(苦笑)」


ときどき沙村の携帯が光るのが目に入った。 

沙村との会話に良くも悪くもすっかり慣れてきたからだ。
ふいに目線がタバコを持つ手と口に行くのは
「春」のせいだ。

春に八つ当たり過ぎだね、私(苦笑)


時計の針はとっくに二十四時を過ぎて、もうすぐ午前一時に近づいていた。

「もうこんな時間だ、りっちゃん帰ろうか。」

「はーい。でも、少し散歩して帰りませんか??」

「遅いから少しだけね。出ようか。」


この時期には珍しく今日は肌寒かった。


「昨日まで暖かかったのに寒いですね~。あっ、冬とか。寒い時って人恋しくなりません?今日はずっとそんな気分だったんです・・・」

「人恋しいか。そんな風に思った時あったかな?」

「えっ!?絶対ありますって!無かったら感情死んでます!(笑)」

「じゃあ、あったって事にしといて(笑)おっ、あの人美人さんだねー(笑)」


話を変えるのが下手くそだし、女の人の話題だし。この人はなんなんだろう。今日はモヤッとするな。
私が好きじゃなかったらなんてことないんだけど。


「そこの公園寄って、タバコ吸ったら帰りますか」

「はーい・・・」

「今日は機嫌がイマイチだったね(笑)」

「人恋しい日だったんで・・・」

「知り合いは多いけど、紹介出来るような友達居たかな。」


「だ か ら、そういう事じゃないんです!私は沙村さんが・・・」



恥ずかしさで肌寒さが心地良いくらい顔が熱くなっていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

処理中です...