実はこっそりあいつに溺れてますが、何か?

らいち

文字の大きさ
6 / 47
第一章

もう帰る時間だね

しおりを挟む
「なら、いいじゃない。……うわっ、この神君可愛いわね」
「えっ? どれどれ? わっ、本当だ。なにこれハロウィンの?」

 おそらく小学校二年生くらいの神だろう。吸血鬼か悪魔のコスプレのようで、襟の立った黒いマントを羽織り、中には黒地に赤い刺繍のシャツを着ている。おまけにしっかり化粧までしていて、恐ろしいくらいの可愛さだ。

「ああ、そうだな。確か芳樹よしきの家のハロウィンパーティーの時のだ」

 あー、確か四つ上の従兄の……。あの人もいつも何人もの女の子を侍らせていたような。

「どうした?」

 その従兄が神に悪影響を与えているってずっとそう思っていたから、知らないうちに私は眉間に皺を寄せていたようだ。神にグニグニと眉間を揉まれて気が付いた。

「や、別になんでもない」
「わー、さすが神君よね。こっからはドンドン格好よくなって行くわ」

 やけに大きな有理奈さんの声に、ぱっと神が私の眉間から指を離した。
 有理奈さん、絶対わざとだ。

 でもそうこうしながらも、私たちは神の写真をたっぷり堪能して楽しい時間を過ごす事が出来ていた。

「そろそろ日が暮れて来たな。暗くならないうちに帰った方がいいんじゃないか?」
「あっ……」

 あまりにも楽し過ぎて気が付かなかったけれど、確かに外が少し薄暗くなり始めている。私も有理奈さんも帰ろうかということになった。

 三人で神の部屋を出て階段を下りていると、「ただ今」と声が聞こえて来た。どうやらおばさんが帰って来たようだ。
 神がおばさんの所へと真っ直ぐ歩いて行く。

「お帰り、母さん。ランチ会楽しかった?」

「ただいま。楽しかったわよ~。久しぶりの集まりだったから、ついつい長居しちゃった。……って、あらもしかして加代子ちゃん?」

「あっ、はい。お久し振りです」

 おばさんに会うのは、それこそ数年ぶりだ。懐かしくて駆け寄り、ぺこりと頭を下げた。

「随分大きくなって、お姉さんになったわねえ」
「エヘヘ。そうですか?」
「中身はあまり変わらないだろう?」

 横から茶々を入れる神を軽く睨んだ。

「あのっ、初めまして! お邪魔していました。田端有理奈です!」

 らしくないやたら元気なはきはきとした声で、有理奈さんが割り込んできた。ちょっぴり緊張気味なその顔が、妙に新鮮に見える。

「あら、初めまして田端さんね。こんばんは」
「こっ、こんばんは!」
「あれ? もしかしてもう帰るの?」

 台所の方から優作お兄さんが顔を出した。

「はい、ごちそうさまでした」
「すごく美味しかったです。ご馳走様でした」
「どういたしまして。ああそうだ、よかったら送って行こうか?」
「あら、いいわね。そうしてあげなさい。二人とも、今日は遊びに来てくれてありがとう。またいらしてね」
「はい、ありがとうございます」

「さ、じゃあ行こうか」

 お兄さんの呼び掛けに、私達は続いて靴を履いて玄関を出た。神も見送ってくれるつもりなのだろう。一緒に外に出て来てくれた。

「どうぞ」

 優作お兄さんは後部座席の扉を開けて、私達を促した。私が後から降りるコースをとるというので、私は奥の方へと座った。

「僕も一緒に乗ろうかな?」

 見送りじゃなくて神も一緒に送るつもりでいただなんて思いもよらなかったので、私達はその一瞬で急浮上に喜んだ。……なんだけど、次のお兄さんの一言でそれは束の間の喜びになってしまう。

「いいよ、お前は。宿題まだ済ませていなかっただろう? 戻って勉強してろ」
「ええっ?」
「なんだ? そんなに勉強したくないのか? ……それともそんなに離れ難いか?」

 優作兄さんのからかうような口ぶりに、神はちょっとムッとしたようだった。

「……別に。宿題すればいいんだろう? じゃあ頼むよ」
「おう」
「それじゃあ、加代子も有理奈さんもまた明日」
「……うん。今日は楽しかった、ありがとう」
「神君、また明日ね」

 お兄さんが運転席に座ったのを見た神が、車から少し離れた。それを合図に車がゆっくりと走り出す。神は私達を見送り手を振ってくれていたので、私達も後ろを向いて神に手を振り返した。二人で競うように手を振って、それは神の姿が小さく見えなくなるまで続いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

処理中です...