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第五章

それぞれの恋心1

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「可愛いね、彼女」

家に帰って着替えを済ませて居間に行くと、姉さんがせんべいを食べながらお茶を飲んでいた。
「食べる?」と聞かれ、僕もそこに座りせんべいを齧りながら、今日の梓との出来事を話していた。

「そうなんだけどさ…。彼氏の立場としては複雑なわけだよ」
「でも、彼女の気持ちは分かるなー」

何故かしみじみといった口調で姉さんがしゃべるから、僕は顔を上げて姉さんを見た。

「付き合いほやほやでしょ? そういう時は特に、そんな意図が無くても仲間はずれっぽくされるときついのよ。稽古くらい見せてあげればいいんじゃないの?」

ふー。

僕のため息に姉さんがくすりと笑う。

「…何だよ」

「由紀也が心配してるように、たとえ父さんがあんたをこっぴどく叱っている所を見たとしても、頑張ってるなあ、凄いなあくらいにしか彼女は思わないと思うよ」

「むー」
僕はテーブルに両手を伸ばして突っ伏した。

ヤダヤダ、梓が良くてもそんなかっこ悪いとこ見せたくないよ~。

「でも…」
突っ伏した僕の頭上で姉さんが笑いを含んだ声で呟く。

「そんなに心配しなくても、多分父さんが見学なんて許してくれないよ」
「へ?」

何それ。さんざ、変な姿でも梓に見せてやれって言ってたくせに。

「稽古始めたばっかりだから、由紀也まだ役に馴染めてないでしょ。入りきれてないっていうか」
「うん。今回久々に親父が張り切って新作なんて作っちゃったから、「お紗代」にまだなりきれてないんだよな」
「で、頼むの? 彼女に稽古見せたいって」
「…頼まないよ、聞くだけ。約束しちゃったからさ、梓に嘘つくの嫌だから」
「べたぼれだね」
「…まあ、ね」

僕の肯定に、姉さんは「へえ?」という顔をして「良いなあ」とつぶやいた。
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