修行のため、女装して高校に通っています

らいち

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第六章

ひと息ついて 1

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日曜日。
今日は朝から稽古に入っていた。

だけど明後日からは、僕以外の皆は月華での公演があるので、みんなはそちらの方を優先させている。
かと言って、僕が休みを貰えるのかというとそうではなく、僕は前田さんに踊りを見てもらっていた。もちろん夏の公演で舞う踊りだ。

「少し休憩しましょう」

母さんがお茶と茶菓子を持って、皆に声をかけた。
僕が饅頭片手にくつろいでいると親父が側によってきた。

「由紀也、お前はこれから二週間、前田さんに頼んであるから稽古に励むんだぞ」
「うん、わかった」
「前田さん、よろしくお願います」
僕は前田さんに向き直ってぺこりと頭を下げる。

「こちらこそ、よろしくね」
「一応月曜日は月華の方も休みになるので、その日は前田さんにも休みを取ってもらう事になっているから」
「ふうん…」

月曜日かあ…。月曜日じゃ梓も部活あるよなあ。
なんて、思いを休みへと馳せていたら、それを見透かしたかのように親父が釘を刺してきた。

「前田さんには休んでもらうが、お前は俺がみっちり稽古つけてやるから遊べると思うなよ」
「え? だってその日は休養に充てるんじゃないの?」
「お前は舞台に出ているわけじゃないから、休みなんて必要ないだろ」

ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?
そりゃないよぉぉぉぉ!

僕ががっくり肩を落としていると、気の毒に思ったのか前田さんが親父を諭そうとしてくれた。

「座長、由紀也君にも休みは必要ですよ?」

そうだ、そうだー!
言ってやって。言ってやって!

「…まあ、それはそうだが…」

以外にもこの前田さんの一言で、この頑固者も少し心が揺らいだようだ。
珍しい! 
これはもしかしたら期待できるかも…?

親父は腕を組んで考えた後、おもむろに口を開いた。

「…分かった。今回は休みとすることにしよう」
「うわ! マジで!? ありがとう、前田さん!」
「いや、私はなにも」

満面の笑みで礼を言う僕に、手を振りながら謙遜する。
何というか前田さんって、柔らかい人だよなあ。物腰って言うんだっけ?我を出さない優雅な人だと思う。

なんて、休みゲットに気を良くしていたら、それをぶち壊すかのようなひと言が、親父の口から発せられた。

「稽古は休みだが、その間はちゃんと学校の勉強をしろよ? 遊びほうけて来いとは言ってないからな」
「ええっ!?」

そりゃないよ~。

再びがっくりした僕に前田さんは苦笑いしていた。
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