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第二章

推薦なんてしないで

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 学校には行事というものがあって、それを楽しみにする人もいれば苦痛に思う人もいる。要するに、人それぞれだということだ。
 私はもちろん、なければいいのにと思うほうだけど。

「聞いた? これから球技大会の出場選手決めるんだって」
「面倒臭いなあ」
「え~? 楽しいじゃない」

 競技はバレーボールとドッジボール。
 男子はちょうどだけど、女子は二名余るんだよな。どうするんだろう。応援要員、とかだったらいいのに。

 壇上に委員長が立ち、書記が黒板に『新入生歓迎球技大会』と、でかでかと書いた。

「もうみんな聞いているとは思いますけど、競技はバレーボールとドッジボールです。女子は余るので、二人は補欠ということでお願いします」

 補欠かあ。それでもいいかな。言い方悪いけど、早く負けてくれれば補欠の出番はないだろうし、万が一勝ち上がったりしたとしても、その場合はみんなきっと勝ちにこだわるから、こんなやる気のない下手くそになんてさせたくなんてないはずだ。

「では、バレーボールの女子。出たい人!」
「はい」
「はい」
「高橋さんと吉田さんね。ほかにいませんか? 他薦でもいいですよ」

 佳奈と吉田さんかあ。まあ、そうだろうね。

「じゃあ、中山さん推薦します」
「はあっ?」

 何を考えているのか、小川君がとんでもないことを言い出したから、思わず立ち上がって素頓狂な声を出してしまった。
 だってそうでしょう? やる気のない私を推薦なんて、これはもう嫌がらせかイジメでしかない。ほら、委員長も書記も困惑した表情を隠せていない。

「名前、書かないでいいです。小川君の冗談ですから」
「冗談じゃないよ! 中山さん、スッゲー運動神経良くて。俺、小学生の時に――」
「小学生の時のことなんて言われても困るから。私は補欠でお願いします」
「――ああ、じゃあ中山さんは補欠で」
「ええっ?」
「あの、補欠の立候補ができるなら、私も補欠でお願いします!」
 小川君の抗議の声は、美穂さんの大きな声でかき消された。
 グッジョブ美穂さん。

 それにしても小川君は一体どういう気なんだろう。
 抗議の思いを込めて小川君へと視線を向けた。目が合ったら睨んでやろうと思って。

 ……?
 彼は下を向いていた。苦笑いのような表情で。
 
 誰かに話しかけている……?

 授業中に誰かが忍び込んでいて、内緒話でもしてるんだろうか?
 伸びあがって誰がいるのか確認しようとして絶句した。だって、誰もいないんだもん。
 だけど小川君の口は動いているし、しかも、まるで幼い子どもの頭を撫でているかのような妙な手の動きをさせていた。

 独り言? それにしては誰かを相手にしてるみたい……。

「はい、次男子いきまーす。バレーボールに立候補する人ー」

 委員長の言葉に、ハッと我に返った。見えもしない誰を相手にしてるっていうんだ。
 小川君は慌てて前を向いた。そしてさして運動神経の良くなかった彼は、ドッジボールの方に手を挙げていた。
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