不思議な縁に導かれました

第一章

救世主？

　アパート探しに何の進展もないまま、引っ越し期限は後五日と迫っていた。

「はああ～」
「白山さん」

　思わず零れたため息に、小杉さんが眉をしかめる。

「すみません」

　時刻は、一時半を回ったところだ。ピーク時は過ぎたとは言っても、この時間にはまだちらほらと、昼食を取りに来る社員はいる。気を取り直して出来上がった定食をカウンターに運ぶと、相変わらずボサボサ皺くちゃな高科さんが食堂へと入って来たのが見えた。そして食券を購入して、私に渡した。

「これ、頼む」
「こんにちは、高科さん。出来上がりましたら呼びますね」
「ああ」

　最初はドン引きしたあの風貌も、慣れてくると親しみ易ささえ感じてしまうから不思議だ。

　高科さんの定食が出来上がった頃には、食堂に残っていた社員たちは既に食事を終えて戻っていた。私たちも昼休憩を取ることにする。

「ここんとこ毎日ちゃんと、お昼を食べに来ているわね。感心、感心」
「……一応自分の食生活を、反省しましたから」

　そうか、良かった。あの時はついムキになって失敗したかなと思っちゃったんだけど、ちゃんと高科さんの心に届いていたんだね。

「それにしてもやっぱり高科さんって心配よねえ」
「……何がですか？」

　高科さんは持っていた箸を置いて、顔を上げた。相変わらずの前髪で表情は分からないけれど、きっと訝しい表情をしているのだろう。

「その格好がねえ。ご飯は食べるようになったのは安心だけど、高科さん独り暮らしなんでしょう？　お家の方は、まさかごみ屋敷になんてなってないでしょうね」

「うっ」

　言葉に詰まった高科さんを見て、ここにいる一同は察しがついた。格好が格好だから、ある程度の想像はつく。研究者なんだから頭は良いはずなのに、この生活能力の低さは何なんだろう。