不思議な縁に導かれました

第一章

智未の事情 2

「そういえば白山さん、新しいアパートは見つかったの？」
「あ……、まだです」

　そうだった。高科さんがお昼を食べに来たことぐらいで、喜んでる場合じゃなかった。

「大丈夫なの？　確かもう、一週間くらいしかなかったんじゃないの？」
「そうなんですけど、今と同じくらいの家賃の所がなかなか無くて」
「無駄な支出をなるべく抑えて、家賃を上げることは考えられないの？」
「違うのよ、小杉さん」
「え？」

「白山さんは、田舎のお母さんたちに仕送りをしているのよ。確かお母さんって、一度体を壊してまだ本調子じゃなかったのよね？」

「まあ、そうだったの？」
「はい」

　父は、私が小学校六年生の時に交通事故で亡くなってしまった。まだ幼かった私を抱えて途方に暮れた母は、田舎の実家に戻ることを決断した。その時祖父は既に亡くなっていたので、私達親子と祖母との三人暮らしが始まったのだ。

　当時の収入は祖母の年金しか無くて。それでは三人が暮らしていけないので、母は働きに出たのだ。だけどずっと専業主婦で何の資格もなかった母が働ける場所は、お給料の低い職場だけだった。それでいくつも仕事を掛け持ちする日々が続いて、母は私が高校生の時に無理が祟り倒れてしまった。

「できれば地元で就職したかったんですけどね。そうすれば家賃の事なんて考える事も無かったんですけど」
「そうなの。苦労してるのねえ」
「いいえ。私なんかより母の方がずっと……」

「それにしても早く見つからないと落ち着かないでしょう？　私も気になっていくつか調べてみたんだけど、ここに通うのに都合のいい場所で、白山さんの希望に合う物件は見付からないのよね。いっそのこと、もう少し範囲を広げて調べてみては？」

「そうですね、ありがとうございます」

　せっかくの大谷さんの提案なので素直に頷いたけれど、実はもうそれも調べ済みなのだ。

　どうしようかな。食費とかギリギリに切り詰めて、仕送りも少しで我慢してもらおうかな。

　そう考えた時、脳裏に高科さんのよれよれの姿が浮かび、私は苦笑いを零した。

　人にはちゃんとごはんを食べなさいって言ったのにね。
　本当にどうしたらいいんだろう。