30 / 64
第二章
ざわめく周囲 4
しおりを挟む
「えっ? 大谷さん!」
「何してんの、白山さん。早くいらっしゃい。さっさとお昼を済ませないと、次の人達に悪いわよ」
ええっ、本気なの? ショートボブのあの人、凄く不愉快そうな顔をしてるのに、大谷さん見えていないの?
戸惑い躊躇する私を余所に、大谷さんは早く来いと手招きをする。仕方がないので私は彼女の方を見ないようにして、大谷さんの隣の席に着いた。
「それにしても高科さん、随分感じが変わったわね」
「最初は変な感じだったんですが、何とか慣れました」
「ええっ、変な感じ? どういう事?」
「久しぶりに視界が広がって、眩しかったです。周囲が良く見え過ぎると言うか……」
「あら、でもよく見るようになって良かったじゃないの。同僚とだって、コミュニケーションの機会が増えたでしょ?」
高科さんのボヤキに、すかさず女性が突っ込みを入れた。それに対して高科さんは、聞こえているだろうにそちらを見向きもしない。無視してご飯を食べ始める。
それには大谷さんも、さすがに困ったような顔をした。
「高科さん……」
「何ですか?」
大谷さんの声には反応する高科さんに、女性の表情が強張る。さっきよりもご飯を食べるスピードを上げて、一気に食べ終えた。
「ご馳走さま、先行きます。高科さんはもう少し、私たち研究所の社員ともコミュニケーションをとるようにして下さい。親しくなった方が仕事の効率も上がると思いますよ」
女性はそう言って食べ終えた食器を手に席を立ち、食堂を後にした。思わず私と大谷さんは、彼女の動きを目で追った。
「高科さん、あの態度は良くないわ」
「態度?」
大谷さんに窘められて、高科さんは眉根を寄せる。
「そうよ。せっかく相手が話し掛けているんだから、返事ぐらいはしないと」
「……面倒臭い。今まで接点なんか何も無かったのに、急に今朝からべたべた絡んで来たんですよ。それにコミュニケーションなんて、俺の研究にかかわる同僚とは私事とは切り離してしっかり意見を言い合っているから大丈夫です」
「その研究にかかわる同僚の人って、男の人?」
「そうですよ」
「ああ……、なるほどね」
大谷さんと高科さんのやり取りを聞きながら、やっぱり私は悪いけど、さっきの女性に同情は出来ないなと思った。
だってどう考えてもあの人は、高科さんの素顔を見たから仲良くしたいと思っただけだ。仕事の為にコミュニケーションを取らないといけないと本当に思っていたのなら、もっと前から行動していたはずだし、あんなふうに高科さんのことをバカにしたりなんかしないはずだ。
「それにしても高科さん、素顔はこんなにイケメンさんだったのねえ」
真正面から高科さんの顔を見ながら、大谷さんが感慨深げに呟いた。それに対し、案の定高科さんは眉をしかめた。
「何してんの、白山さん。早くいらっしゃい。さっさとお昼を済ませないと、次の人達に悪いわよ」
ええっ、本気なの? ショートボブのあの人、凄く不愉快そうな顔をしてるのに、大谷さん見えていないの?
戸惑い躊躇する私を余所に、大谷さんは早く来いと手招きをする。仕方がないので私は彼女の方を見ないようにして、大谷さんの隣の席に着いた。
「それにしても高科さん、随分感じが変わったわね」
「最初は変な感じだったんですが、何とか慣れました」
「ええっ、変な感じ? どういう事?」
「久しぶりに視界が広がって、眩しかったです。周囲が良く見え過ぎると言うか……」
「あら、でもよく見るようになって良かったじゃないの。同僚とだって、コミュニケーションの機会が増えたでしょ?」
高科さんのボヤキに、すかさず女性が突っ込みを入れた。それに対して高科さんは、聞こえているだろうにそちらを見向きもしない。無視してご飯を食べ始める。
それには大谷さんも、さすがに困ったような顔をした。
「高科さん……」
「何ですか?」
大谷さんの声には反応する高科さんに、女性の表情が強張る。さっきよりもご飯を食べるスピードを上げて、一気に食べ終えた。
「ご馳走さま、先行きます。高科さんはもう少し、私たち研究所の社員ともコミュニケーションをとるようにして下さい。親しくなった方が仕事の効率も上がると思いますよ」
女性はそう言って食べ終えた食器を手に席を立ち、食堂を後にした。思わず私と大谷さんは、彼女の動きを目で追った。
「高科さん、あの態度は良くないわ」
「態度?」
大谷さんに窘められて、高科さんは眉根を寄せる。
「そうよ。せっかく相手が話し掛けているんだから、返事ぐらいはしないと」
「……面倒臭い。今まで接点なんか何も無かったのに、急に今朝からべたべた絡んで来たんですよ。それにコミュニケーションなんて、俺の研究にかかわる同僚とは私事とは切り離してしっかり意見を言い合っているから大丈夫です」
「その研究にかかわる同僚の人って、男の人?」
「そうですよ」
「ああ……、なるほどね」
大谷さんと高科さんのやり取りを聞きながら、やっぱり私は悪いけど、さっきの女性に同情は出来ないなと思った。
だってどう考えてもあの人は、高科さんの素顔を見たから仲良くしたいと思っただけだ。仕事の為にコミュニケーションを取らないといけないと本当に思っていたのなら、もっと前から行動していたはずだし、あんなふうに高科さんのことをバカにしたりなんかしないはずだ。
「それにしても高科さん、素顔はこんなにイケメンさんだったのねえ」
真正面から高科さんの顔を見ながら、大谷さんが感慨深げに呟いた。それに対し、案の定高科さんは眉をしかめた。
0
あなたにおすすめの小説
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる