不思議な縁に導かれました

第二章

労ってくれるの？

　ショートボブのあの女性は、宮里優未さんと言うらしい。彼女は結構めげない人のようで、高科さんにあまり相手にされないながらも、彼の周りでよく見かけた。

「高科さん、今日は本当に遅いな」

　仕事を終えて家に着いた頃に、高科さんからメッセージが入っていた。高科さんの研究が山場を迎えているとのことで、少し遅くなるから食事は先に食べておいてくれというものだった。

「もう九時か……」

　誰かと一緒にご飯を食べることが当たり前だと思える幸せを知ってしまったおかげで、一人でご飯を食べる気になれなかった。そう思ってもう少しもう少しと待っている内に、こんな時間になってしまっていたんだ。

「お腹も空いたし、あんまり長い間待っていると、却って高科さんの負担だよね」

　お味噌汁を温め直しご飯をつけ、おかずを取り分けた。テレビを点けて、もそもそと食べる。

「寂しいな……」

　高科さんと一緒にご飯を食べていても、そんなに会話があるわけじゃない。だけど嬉しそうな表情や、時々言ってくれる『美味しい』という一言だけで、それだけでも嬉しいって思えるんだ。
　独り暮らしの時、私は一体どうやって、一人の食事の時間をやり過ごしていたんだろう。
  


　暖かい……。お母さん？

　ふわりと暖かい感触に包まれた後、温かく優しい感触が私の髪を撫でている。

　ああ、やっぱりお母さんだ。お父さんが亡くなって、おばあちゃんの家で慣れない家事を一生懸命していた時、遅く帰って来たお母さんが疲れて居眠りしている私の頭をいつも優しく撫でてくれた。私はその優しい手のひらの感触が嬉しくてずっと触ってもらいたくて、起きていても寝たふりをしていたんだよね。

「お母さん……？」 

　ちょっぴり重い瞼をこじ開けて、体を起こした。パサリと、掛かっていた毛布が落ちていく。

　あ……。

　私の目に映ったのは、懐かしいおばあちゃんの家ではなく高科さんの家だった。

「この毛布、高科さんが……？」

　ハッとして飛び起きた。

　高科さんが帰って来ていたんだ。ちっとも気が付かなかった。慌てて台所に行き、食事の支度をしようと思って気がついた。高科さんが食べ終わってから片付けようと思っていた私の食器が、綺麗に洗われてしまわれている。