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第三章
アパートを探しに
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翌日、昼食を済ませると、高科さんはすぐに部屋に戻った。一応合い鍵は持っているので、出掛けて来ると書き置きをし、鍵を掛けて家を出た。
虚しい……。虚しくて、どうしても足取りが重くなる。
それでも何とか自分を叱咤して昨日見付けた不動産屋に入ったのだけど、私が希望するようなアパートは無かった。新しく物件が入り、それが希望に合いそうだったら連絡してもらうことを約束し、私は店を後にした。
「まあ、そうよね。そんな簡単に、見つかるわけないわよね」
物件が見つからなくてホッとしているのか、それとも焦っているのか、私は自分の事なのにさっぱり分からなかった。
「白山……?」
遠慮がちに声を掛けられて振り向くと、高校の時の同級生、山口君が立っていてビックリする。
「え……? 山口君?」
「おうよ。ビックリしたなあ。まさかこんな所で会うとは思わなかった」
「私も! あっ、山口君は、……大学?」
「ああ。白山は就職か?」
「うん、そう。そうだ、山口君は今どこに住んでるの?」
「俺? 俺は寮」
「ああ~、寮かあ。いいなあ」
「って、なに? 白山、引っ越し先探してるのか?」
「うん。今住んでる所、そろそろ出なきゃいけないから」
「えっ? 何で?」
「うん……。実は立ち退きで追い出されちゃってね、それで今、職場の人の好意で居候させてもらってるんだ」
「そうか……」
私の言葉に山口君は一瞬目を見開き、顎に手をやった。
「よかったら、連絡先交換しないか? うちの大学は三年になったら寮を出なきゃいけないから、先輩たちなら何か情報を持っているかもしれない。格安のアパートがないか聞いてみてやるよ」
「本当? 助かる!」
「おう。でもあんまアテにするなよ」
「うん、大丈夫。長いこと探しても、なかなか見つからなかったから。でも探す範囲が広がるのは嬉しいよ」
「そうか。……で、今時間あるか?」
「えっ?」
「久しぶりに会ったんだしさ、よければお茶でも飲んで行かないか? カラオケでもいいし」
山口君の言葉に心が揺れた。本来なら高科さんの待つあの家に早く帰りたいと思うのだけど、今はあの素っ気ない高科さんに会うのが辛かった。
「二時間ぐらいなら時間あるかな」
「ん~? じゃあカラオケにでも行っちゃう?」
「うん、いいね」
「え~と、じゃあ……、こっから歩いて行ける場所で一軒あるな。値段も割と手頃みたいだ。オッケー?」
「うん、オッケー」
山口君と互いの近況を軽く話しながら、そのカラオケボックスに歩いて行った。恐らく二十分も掛からなかっただろう。
私はさんざん歌って鬱憤を晴らし、高科さんとのことで溜まっていたモヤモヤしていたものをいっぱい吐き出した。
「ああ、楽しかった」
「白山とカラオケに行くのは初めてだけど、お前結構歌うんだなあ」
「……久しぶりだったからね。高校の頃は私んち、余裕がなかったから」
「ああ……、そういえば白山、お父さんがいないんだったっけ」
「うん」
「……早くアパート見つかるといいな」
「ありがとう」
「これから帰るんだろう? 家はどこら辺? 俺はこれから寮に戻るんだけど」
「あ、私は歩いて帰ろうかな。さっき山口君と会ったところから、歩いて十五分くらいだから」
「そうか。じゃあ俺もそこまで戻ろう。その方が駅が近いから」
「そうなの?」
「うん。ところで白山の働いてる所って、どういう職場?」
「食品メーカーの研究所。私はそこの社員食堂でアルバイトをしているの」
「研究所? 凄い所で働いてるんだなあ」
「って言っても、私の居る所は食堂だけどね」
「でもそこにいる社員って、みんなエリートなんだろう?」
「多分。勝手なイメージかもしれないけど、ほとんどの人が頭が良さそうで近寄りがたい雰囲気があるよ」
「やっぱ、そうかあ。でもちょっと、憧れるよな」
「そうね」
お喋りしていたら二十分なんてあっと言う間だ。山口君と最初に会った不動産屋近くに着いて、もう戻って来たのかと思った。
「じゃあ、またな。白山の希望に合ったアパートが見つかったら、連絡するから」
「うん。ありが……」
ふと、何かを感じて振り返った。誰かに見られていたような気がしたんだけど、特に変わった感じは無い。
「どうした?」
「あっ、ううん、何でも無い。アパートの件はよろしくね。切羽詰まってるから、情報が増えるのは嬉しいわ」
「おう。聞いてみるわ」
笑顔で力強く言ってくれる山口君にホッとして、私も笑顔でうなずいた。
虚しい……。虚しくて、どうしても足取りが重くなる。
それでも何とか自分を叱咤して昨日見付けた不動産屋に入ったのだけど、私が希望するようなアパートは無かった。新しく物件が入り、それが希望に合いそうだったら連絡してもらうことを約束し、私は店を後にした。
「まあ、そうよね。そんな簡単に、見つかるわけないわよね」
物件が見つからなくてホッとしているのか、それとも焦っているのか、私は自分の事なのにさっぱり分からなかった。
「白山……?」
遠慮がちに声を掛けられて振り向くと、高校の時の同級生、山口君が立っていてビックリする。
「え……? 山口君?」
「おうよ。ビックリしたなあ。まさかこんな所で会うとは思わなかった」
「私も! あっ、山口君は、……大学?」
「ああ。白山は就職か?」
「うん、そう。そうだ、山口君は今どこに住んでるの?」
「俺? 俺は寮」
「ああ~、寮かあ。いいなあ」
「って、なに? 白山、引っ越し先探してるのか?」
「うん。今住んでる所、そろそろ出なきゃいけないから」
「えっ? 何で?」
「うん……。実は立ち退きで追い出されちゃってね、それで今、職場の人の好意で居候させてもらってるんだ」
「そうか……」
私の言葉に山口君は一瞬目を見開き、顎に手をやった。
「よかったら、連絡先交換しないか? うちの大学は三年になったら寮を出なきゃいけないから、先輩たちなら何か情報を持っているかもしれない。格安のアパートがないか聞いてみてやるよ」
「本当? 助かる!」
「おう。でもあんまアテにするなよ」
「うん、大丈夫。長いこと探しても、なかなか見つからなかったから。でも探す範囲が広がるのは嬉しいよ」
「そうか。……で、今時間あるか?」
「えっ?」
「久しぶりに会ったんだしさ、よければお茶でも飲んで行かないか? カラオケでもいいし」
山口君の言葉に心が揺れた。本来なら高科さんの待つあの家に早く帰りたいと思うのだけど、今はあの素っ気ない高科さんに会うのが辛かった。
「二時間ぐらいなら時間あるかな」
「ん~? じゃあカラオケにでも行っちゃう?」
「うん、いいね」
「え~と、じゃあ……、こっから歩いて行ける場所で一軒あるな。値段も割と手頃みたいだ。オッケー?」
「うん、オッケー」
山口君と互いの近況を軽く話しながら、そのカラオケボックスに歩いて行った。恐らく二十分も掛からなかっただろう。
私はさんざん歌って鬱憤を晴らし、高科さんとのことで溜まっていたモヤモヤしていたものをいっぱい吐き出した。
「ああ、楽しかった」
「白山とカラオケに行くのは初めてだけど、お前結構歌うんだなあ」
「……久しぶりだったからね。高校の頃は私んち、余裕がなかったから」
「ああ……、そういえば白山、お父さんがいないんだったっけ」
「うん」
「……早くアパート見つかるといいな」
「ありがとう」
「これから帰るんだろう? 家はどこら辺? 俺はこれから寮に戻るんだけど」
「あ、私は歩いて帰ろうかな。さっき山口君と会ったところから、歩いて十五分くらいだから」
「そうか。じゃあ俺もそこまで戻ろう。その方が駅が近いから」
「そうなの?」
「うん。ところで白山の働いてる所って、どういう職場?」
「食品メーカーの研究所。私はそこの社員食堂でアルバイトをしているの」
「研究所? 凄い所で働いてるんだなあ」
「って言っても、私の居る所は食堂だけどね」
「でもそこにいる社員って、みんなエリートなんだろう?」
「多分。勝手なイメージかもしれないけど、ほとんどの人が頭が良さそうで近寄りがたい雰囲気があるよ」
「やっぱ、そうかあ。でもちょっと、憧れるよな」
「そうね」
お喋りしていたら二十分なんてあっと言う間だ。山口君と最初に会った不動産屋近くに着いて、もう戻って来たのかと思った。
「じゃあ、またな。白山の希望に合ったアパートが見つかったら、連絡するから」
「うん。ありが……」
ふと、何かを感じて振り返った。誰かに見られていたような気がしたんだけど、特に変わった感じは無い。
「どうした?」
「あっ、ううん、何でも無い。アパートの件はよろしくね。切羽詰まってるから、情報が増えるのは嬉しいわ」
「おう。聞いてみるわ」
笑顔で力強く言ってくれる山口君にホッとして、私も笑顔でうなずいた。
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