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ただ一人の為に
あたしにとっての原点
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「いづみ」
呼ばれて顔を上げると、サモンはあたしに視線を合わせてゆっくりと抱きしめてくれた。あたしも彼の背中に腕を回してギュウッと抱き付いた。
本当はここに着いてから、ずっとこうして甘えたいと思っていた。だけどなかなか落ち着いて2人っきりになれなかったから、ずっと我慢していたんだ。
「時間が無いからこのまま聞いてくれ。これからお前に俺の血を与えるけど、その時は意識をしっかり持って自分が人間だと言うことを自分自身に言い聞かせてくれ。そして俺と出会った時の事とか、2人で過ごした時間、大切な家族の事も記憶に留めるようにして欲しいんだ。それが出来ないと、いづみが人間だったことも俺たちの事も……きっと全部忘れてしまう」
サモンのその言葉にびっくりして顔を上げた。そんなあたしに軽く微笑んで、サモンは更に言葉を続ける。
「本来のこの儀式の目的は、人間だったと言うことを忘れさせるものなんだ。でも俺たちにそんなもの、必要ないだろう?」
コクリとあたしは頷いた。大石君を忘れるだなんて、冗談じゃない。
家族のことだって真奈美たちの事だって、絶対に忘れたくなんてない。
だってここに来た目的は、ただサモンと離れたくなかったから。彼があたしの総てだと分かってしまったから。
それだけだ。
「俺はお前を守るために血を与える。だからいづみは俺たちの事を忘れないように、気をしっかり持っていてくれ」
真剣な表情で告げるサモンに胸が熱くなってくる。
『お前の為なら、魔界全体を騙してやる』
あれは、こう言う意味だったんだ……。
本当は怖くてたまらない。手も足もさっきから震えている。ここから逃げ出したいと思うくらいだ。
だけど、自分にとっての優先順位をもう分かってしまったから。サモンと一緒にいるためには、恐れも迷いも戸惑いも、脇に置いておくしかないんだ。
あたしはサモンの言葉にコクンと頷いた。
そして、震える手のままサモンの腕を取った。
深呼吸をして、彼の目をしっかり見つめる。
もうしばらくしたらあたしは人間ではなくなる。それがどういう変化をもたらすのか、それとも今までと変わらずにいられるのかは分からない。
「サモン、愛してる」
――あたしが人間として言える、最後の言葉。
その言葉の意味をちゃんと分かってもらいたくて、彼の目をしっかり見つめた。
サモンは一瞬目を見開いて、その後柔らかく笑ってあたしを引き寄せた。
ねえ、大石君。
運命に翻弄されて戸惑ってばかりいたけど。あたし、大石君に出会ったこと後悔なんてしていないよ。
もうサモンの事を『大石君』とは呼ばないけれど、あたしにとってはやっぱり『大石君』なんだ。
これは心の中でだけ言う本音。
サモンには言えないけれど、それがあたしにとっての大事な原点だから。
呼ばれて顔を上げると、サモンはあたしに視線を合わせてゆっくりと抱きしめてくれた。あたしも彼の背中に腕を回してギュウッと抱き付いた。
本当はここに着いてから、ずっとこうして甘えたいと思っていた。だけどなかなか落ち着いて2人っきりになれなかったから、ずっと我慢していたんだ。
「時間が無いからこのまま聞いてくれ。これからお前に俺の血を与えるけど、その時は意識をしっかり持って自分が人間だと言うことを自分自身に言い聞かせてくれ。そして俺と出会った時の事とか、2人で過ごした時間、大切な家族の事も記憶に留めるようにして欲しいんだ。それが出来ないと、いづみが人間だったことも俺たちの事も……きっと全部忘れてしまう」
サモンのその言葉にびっくりして顔を上げた。そんなあたしに軽く微笑んで、サモンは更に言葉を続ける。
「本来のこの儀式の目的は、人間だったと言うことを忘れさせるものなんだ。でも俺たちにそんなもの、必要ないだろう?」
コクリとあたしは頷いた。大石君を忘れるだなんて、冗談じゃない。
家族のことだって真奈美たちの事だって、絶対に忘れたくなんてない。
だってここに来た目的は、ただサモンと離れたくなかったから。彼があたしの総てだと分かってしまったから。
それだけだ。
「俺はお前を守るために血を与える。だからいづみは俺たちの事を忘れないように、気をしっかり持っていてくれ」
真剣な表情で告げるサモンに胸が熱くなってくる。
『お前の為なら、魔界全体を騙してやる』
あれは、こう言う意味だったんだ……。
本当は怖くてたまらない。手も足もさっきから震えている。ここから逃げ出したいと思うくらいだ。
だけど、自分にとっての優先順位をもう分かってしまったから。サモンと一緒にいるためには、恐れも迷いも戸惑いも、脇に置いておくしかないんだ。
あたしはサモンの言葉にコクンと頷いた。
そして、震える手のままサモンの腕を取った。
深呼吸をして、彼の目をしっかり見つめる。
もうしばらくしたらあたしは人間ではなくなる。それがどういう変化をもたらすのか、それとも今までと変わらずにいられるのかは分からない。
「サモン、愛してる」
――あたしが人間として言える、最後の言葉。
その言葉の意味をちゃんと分かってもらいたくて、彼の目をしっかり見つめた。
サモンは一瞬目を見開いて、その後柔らかく笑ってあたしを引き寄せた。
ねえ、大石君。
運命に翻弄されて戸惑ってばかりいたけど。あたし、大石君に出会ったこと後悔なんてしていないよ。
もうサモンの事を『大石君』とは呼ばないけれど、あたしにとってはやっぱり『大石君』なんだ。
これは心の中でだけ言う本音。
サモンには言えないけれど、それがあたしにとっての大事な原点だから。
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