たとえ神様に嫌われても

らいち

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ただ一人の為に

絶対、忘れないよ

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ドアの向こうから準備が整ったと連絡が入った。

サモンは、あたしから少し離れて本来の悪魔の姿になった。

……やっぱりまだちょっぴり怖い。

だけどなるべくそれを顔に出さないように、表情を引き締める。   
でもやっぱり気づかれてしまったみたい。彼はあたしの顔をじっと見て、そして目を細めた。

2人して廊下に出ると、何人かがすれ違いざまにサモンに挨拶をしていく。そのほとんどが、ここでは当たり前であろう悪魔の姿をしていた。

その姿に驚いて、あたしは思わずサモンにしがみついた。
一瞬彼は「え?」と言うような顔をしたけれど、周りの皆を見て、なるほどと納得したらしく微笑んだ。

「怖いのか?」
「だ、大丈夫。……サモンがいてくれれば、怖くなんてないし」
 
そう言って更にサモンに密着すると、彼は嬉しそうに笑ってあたしを抱き寄せた。
 

サモンに連れてこられたドアの前。
いったん立ち止まって、彼があたしを見た。

「入るぞ」
「……うん」
 
ガチャリと開けたその部屋は、こぢんまりとした落ち着いた感じの部屋だった。先に、魔王と対面した部屋によく似た感じだ。
 
そこには魔王に魔女王、エルザやスイーク、そしてあたしが知らない悪魔が数人、それぞれの席に着いていた。
 
部屋の中は、薄暗い。
厚手のカーテンに、外からの光は遮られている。灯りの元となっているのは、前方にある厳つい感じのテーブルの上に置かれている、燭台上のろうそくの明かりのみだった。
 
そしてそのテーブルの横には、何か得体のしれないものが置かれている。ちらっと見た途端、嫌な気配がしたので慌てて目をそらした。
 
……何だろう、あれは。
気には、なる。
気にはなるけれど、多分絶対見てはダメなものだ。

現実から目を逸らすなと言われそうだけど、今は絶対逃げの一手の方が良いに決まっている。
 
あたしは目を閉じて、小さく深呼吸をした。


「サモン様、いづみ様、前へ」
 
全身を黒い衣装に身を包んだ背の高い悪魔が、あたしたちをテーブルの前へと促す。
サモンがあたしの手をそっと引いてくれた。
 
ろうそくの炎がゆらゆらと揺れる。薄明るい光がサモンの横顔を照らしていた。

不意に、皆と行った別荘での花火の事を思い出す。
 
あんな事もあったんだよね……。
あの頃はただ大石君の傍に居られることが嬉しくて、ただそれだけだった。
まさかこんな風に何もかも捨てて、魔界に来ることになるだなんて思ってもみなかったのに。


「サモン・デュース、あなたはこの女を一生愛し、死ぬまで妻として愛でる事を誓いますか?」
「はい。誓います」
「倉橋いづみ、あなたはこの男を一生愛し、死ぬまで夫として慕う事を誓いますか?」
「はい……。誓います」

「――魔王により、婚姻が了承されました。よってこれ以降、この誓いを破った者に対しては魔王による処罰が下されます」 

冷たく響く警告ともとれるこの言葉に、近いの言葉を口にしたことで胸にこみ上げて来た熱い気持ちさえも一瞬冷やりとさせられた。

だけど、

だからと言ってそんなことで、あたしのこの気持ちが萎えるわけではやっぱり無かった。


彼に恋焦がれる気持ちと、それに相反する恐怖心。それはあたしの中で、未だその両方が渦を巻いている。
だけどもう、それでも良いとしか言えないんだ。サモンをどうしても手放すことが出来ないのだから。


サモンが、顔を寄せてきた。

「血を、入れるからな」
 
言葉少なにそう言って、あたしの首筋に唇を寄せた。
あたしは両手をギュッと握りしめ、サモンが言っていた言葉を思い出していた。

『俺はお前を守るために血を与える。だからいづみは、俺たちの事を忘れないように気をしっかり持っていてくれ』
 

様々な事が、走馬灯のように駆け巡る。

大石君を意識するきっかけになった、あの放課後の教室での出来事。逃げたくても逃げられず、苦しみながら認めざるを得なかった強い思い。

明るくしっかりとした真奈美。可愛くてちょっぴり子供っぽいところのある千夏ちゃん。

そして何より、優しくて明るいあたしの大事なお母さん。口数は少ないけれど、頼りになるお父さん。大事な家族……。
あたしは、間違いなく幸せだった。

……ごめんね、お母さん、お父さん。
決して許される事じゃないけれど、それでもあたしはお母さんたちの事は絶対忘れないから。またこっそり会いに行くから、どうか許してね。


首にチクンと熱い痛みが走り、ドクドクと心臓が煩く鳴り始める。



それと同時に、あたしの意識は遠くへと追いやられていった。
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