国王になりたいだなんて言ってないby主

らいち

文字の大きさ
22 / 83
ルナイ姫との縁談

ルナイ姫が気になるルウク

しおりを挟む
 前王やシガが認める通り、確かにナイキ侯爵は頼りになる頭のいい男なのだろう。

 ナイキ侯爵が予想していた通り、セレンは晩餐会の翌日から、誰かに見られているような気がしてならない。それとなく意識して見ている者の正体を突き止めたいと思うのだが、向こうも警戒しているのか姿を見せる様なへまはしてこなかった。


 いつものようにルウクが食堂で朝食を済ませ、セレンの部屋に向かおうと歩いていると、ルナイ姫に呼び止められた。
 突然滞在中の他国の姫君を目の前にし、しかも話しかけられるだなんて思いもしなかったので驚いた。

「お前はセレン様の世話役よね?」
「はい。ルウク・ターナーと申します」
「セレン様に伝言があるのだけど、伝えてくれる?」
「はい。何なりと」
「では、バラ園で待ってますと伝えて」
「バラ、園ですか?」
「そう。それで分かると思うから。私、今からそこに行くから、早くいらして下さるように伝えてね」

 ルナイ姫はそう言ったかと思うと、ルウクの返事も聞かずにさっさとバラ園の方へと歩いて行った。
 あっけに取られてしばらくルナイ姫の後姿を見送っていたルウクだが、我に返ってセレンの部屋へと足を速めた。

 今日のセレンの予定を頭の中で思い浮かべてみる。確かナイキ侯爵と共に、ルーファス地方の領主に会う予定になっていたはずだ。その領主が登城するのは今から一時間くらい後の予定だが、果たしてルナイ姫に会いに行く時間があるのかどうか微妙なところだ。

 セレンの部屋を訪ねると、既にナイキ侯爵が訪れていた。おそらくルーファス地方の地図だろう。テーブルに広げて、赤いバツ印のある個所の説明をしているようだった。

「おはようございます、セレン様。ナイキ侯爵」
「おはよう」
「おはよう、ルウク」

 テーブルから顔を上げて、二人はルウクに挨拶を返す。ルウクは忘れないうちにと、先ほどルナイ姫から頼まれた伝言をセレンに伝えた。

「バラ園に? 今からか?」
「はい。あの様子だと、恐らく僕と別れてすぐにそこに向かったと思います」

 セレンは目線を下に落とし、顎に手をやってしばし考え込んでいるようだったが、返した返事はそっけない物だった。

「まあいい。放っておけ」
「……承知しました」

 てっきり断りの伝言を頼まれると思っていたルウクは拍子抜けした。きっと来ない理由をルナイ姫に問いただされて、板挟み状態で苦労させられると思っていたのだ。だけどおそらく、セレンが放っておけと言ったのはそれを危惧しての事ではないだろう。本当に言葉通りにしか思っていないのだろうと、セレンの様子から推測された。

 セレンとナイキ侯爵がこれからのバツアーヌの開発方面の進め方などを相談しあっている隣で、ルウクはセレンの身の回りの片付けに勤しんだ。シーツや枕カバーなどを外し、昨日セレンが身に着けていた服をまとめて籠に詰め込む。そしてランドリールームへと運んで行った。

 ルウクが来たことで、先に洗濯機を使おうとしていた侍従が「どうぞ」と譲ってくれた。籠の中身を見て、私物の洗濯ではなくセレンの物だと気が付いたからだ。

 ルウクはそれに恐縮しながらも、先に譲ってもらう事にする。洗いに来た者が誰であろうと、その中身によって譲ったり譲られたりすることが暗黙の了解になっていたのだ。だからルウクが自身の私物を洗おうと来た時に別の誰かがやって来た時は、一番下っ端のルウクは常に譲る側の存在でもあるのだ。

 回る洗濯機の横で窓を見上げながら、ルウクはルナイ姫の事を考えていた。ルナイ姫に伝言を頼まれてから既に一時間が経とうとしている。

(どうかもう待っていませんように……)

 たとえ姫が我儘な女性であったとしても、やっぱり傷ついては欲しくない。
 国を救うためにセレンがいやいや仕掛けていることは分かってはいても、彼の行為で誰かが悲しい思いをするのは嫌だと、ルウクは考えていた。

 ぼんやりと様々な事を考えていたらいつの間にかうつらうつらとしていたらしい。洗濯機の終了音で、ハッと目を開ける。

「お疲れだね」
「あ、いえ。お恥ずかしい所をお見せしました」

 先ほど譲ってもらった侍従に挨拶をして、ルウクは洗濯物を干しに行った。

 洗濯物を全部干し終わり、ルウクはずっと気になっていたルナイ姫の様子を見に行くことにする。もういないことを願いつつバラ園をそっと覗くと、目を伏せてじっと佇むルナイ姫が目に飛び込んできた。

(まだ、待ってらっしゃるんだ……)

 自分の事でもないのに、心臓がきゅうっと締め付けられるように痛む。

(セレン様には放っておくようにと言われたけど、本当にこのまま放っておいていいのかな? どうしよう……)

 いっそ、出しゃばった行為かもしれないけれど、今日はセレンはここには来れないという事を伝えた方が良いのではないかと思う。だがその反面、セレンの言葉に絶対的に従うのが自分の役目だと思う自分もいる。実際ルウクの立場から考えると、後者の方が絶対的に正しい事なのだという事は、分かり切っているのだけれど。

 様々な事を考えるあまり、結局ルナイ姫の前に出て行くことが出来ずにぐずぐずしていた。だが、ふと、違和感を覚える。

 ルウクはルナイ姫に見つからないように物陰に隠れて見ているのだが、ルナイ姫のさらに向こう側の物陰から、時々影が揺れる。その影の感じから、誰かがルナイ姫の様子を窺っているようにも思われた。

(ルナイ姫が誰かに監視されている……?)

 まさかと思い目を凝らして見てみるが、どう考えてもあれは監視だ。

 ルウクは息を呑んだ。もし自分が変な正義感からルナイ姫に声をかけに行っていたら、セレンにとって不利な証拠を突きつける原因になってしまっていたかもしれない。一瞬でも余計な事を考えてしまった自分の浅はかさに、もし行動に移していたらと思うとルウクは背筋が凍りつくのを感じた。

 自室に戻り、今度は自分の溜まっている洗濯物を洗うべく、ランドリールームに向かう。こういう空いた時間にこそ、自分の物を片付けて行かなくてはならない。

 今日はセレンは公用で忙しくしているので絶好の片付け日和でもあるのだ。自分と同じような境遇の侍従たちと談笑しながら、ルウクの時間はゆっくりと流れて行った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

〈完結〉貴女を母親に持ったことは私の最大の不幸でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」ミュゼットは初潮が来た時に母から「唯一のこの家の女は自分」という理由で使用人の地位に落とされる。 そこで異母姉(と思っていた)アリサや他の使用人達から仕事を学びつつ、母への復讐を心に秘めることとなる。 二年後にアリサの乳母マルティーヌのもとに逃がされた彼女は、父の正体を知りたいアリサに応える形であちこち飛び回り、情報を渡していく。 やがて本当の父親もわかり、暖かい家庭を手に入れることもできる見込みも立つ。 そんな彼女にとっての母の最期は。 「この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。」のミュゼットのスピンオフ。 番外編にするとまた本編より長くなったりややこしくなりそうなんでもう分けることに。

処理中です...