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愛の証明
出会いの奇跡
しおりを挟む「ねぇ、どうして褒めてくれないの?」
「カナエ、俺が悪かった……でも、それは間違ってると思う」
「え? どうしてそんなこと言うの? ねぇ、ねぇ」
「お前だって知ってるだろ、俺は無闇に生き物を傷付けたりしない」
「うん、だからいなくなっちゃったんじゃん」
「──ッ、そ、れは……」
ぃ、痛いところを。
「だから勇者に見限られ、騙されたんでしょ? つまり、間違っていたのはマルクくんのほうなんです」
「しかし、でも……」
「どうしちゃったの? やっぱり変だよ、マルクくん。もしかして、マルクくんも悪い魔族に使役されちゃってたり?」
「なッ……そんなわけ、ないだろ」
「300年も生きてるだなんて普通じゃないもんね。間違いなく魔族の仕業だ、でも安心して直ぐに助けてあげるか──らぁぁ!!」
「ぅぐッ!?」
避ける隙を与えない神速の拳は、俺の頭を鷲掴みにした。これ、もしかして……俺の記憶を覗こうとしているのか!?
人体融合を可能にするほどカナエの魔法は極まっている、なら他人の記憶を見るくらい雑作もないだろう。
マズい、彼女に俺の300年を見られたら──
「寄せ、俺の記憶を盗み見るんじゃない!」
「その慌てよう、ふふ、やっぱり何かありますね。絶対に見なきゃ!」
「ま、待て! ぅ、ああああああ゛!!!」
混沌の光に包まれたと同時に、頭に激痛が走った。
吸い上げられている? 違う、単純に覗き見されているんじゃない。
カナエの記憶も感情も一緒に繋がってる。そうか、やはり彼女の本質は繋げること……ぅ、なんだ。
呑み込まれそうな深い絶望、破綻した価値観、歪んでしまった愛情、全て頭の中へ流れ込んでくる。そして最後の感情は──途方もない怒りと殺意。
「ぁ……」
「ッ……カナ、エ?」
プツンと糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちるカナエ。しゃがみ込み、声を掛けると彼女は昔の優しい笑顔で俺の頭を撫でた。
「知らなかった、マルクくん結婚しちゃってたんだ……101人と。しかも、沢山の子供まで……凄いね」
「……そうだ。俺は勇者によって淫魔の巣に落とされて、それから……」
「私のせいで、魔石がなくなっちゃったのか。ごめん、マルクくんの夢を継ぐだなんて、ありがた迷惑だったかな」
「そんなことは……!」
「わかった、分かったよ、全部理解した」
「カナエ……?」
そう呟くと、カナエは立ち上がり、また作った表情になる。そして、冷徹な声で言った。
──「皆殺しだ」と。
「皆殺し……俺の妻たちを殺すつもりか!?」
「あはは、淫魔のせいでおかしくなっちゃってたんだ。そうに違いないよ、ね?」
「おかしくなんかなっちゃいない! 俺は本当に彼女たちを──」
「自分ではわからないよね。マルクくん、私の事まだ愛してる?」
「当然だろ!」
「だったらさ、共有してよ、繋がろうよ」
「……どう言う意味だ?」
「私、今すごーーーーーーーーーく傷付いちゃった。愛し合ってるなら、この『心の痛み』も共有してくれるでしょ? それが、愛でしょ?」
「まさか……お前!」
「私にも証明してよ! その女みたいに、自分よりも私が大事だって!! だから、ね? 捨てれるよね、魔族の女なんてさ」
捨てれるわけがない。
彼女の為に、妻や子供を捨てるなんてできない。
けど、いくら説明しても全く耳に入る様子はなかった。
「貴方が愛したと錯覚している者を皆殺せば、きっと気がつく筈だよ。でも、もしかしたらまた同じような過ちを繰り返しちゃうかもだから、四肢はきちんと切り落としておかないとだね。大丈夫、全部私が側にいて面倒みてあげるから……だから、先に行ってるね」
「カナエ!! 待て、話を聞け、カナエ!!」
俺の呼び声も空く、彼女は宙に浮かびパァンという破裂音と共に姿を消した。
記憶を見られたんだ、場所だって知っている。それに妻や子供は結晶化しているから逃げる方法もない。早くみんなの所に戻らないと。
「ッ……ミナト、大丈夫か?」
「辛うじて生きてはいるさ、だが……すっからかんだよ」
何とかこの場でミナトを殺される事態は避けることができた。
だが、俺たち二人は満身創痍もいいとこだ。まともに身動きだって取れない。
このままじゃ、妻と子はカナエの手によって殺されてしまうだろう。どうする、どうすればいい……!
「仕方ない……行くか。ミナト、クルスには迎えに来るよう伝えておくから、待っていてくれ」
「よせ、マルク殿……その怪我、軽くはあるまい。ほれにあのスピードには……」
「あいつは絶対に、俺が来るのを待っている。そして、俺の目の前で妻たちを殺すだろう」
「何故わかる?」
「頭を掴まれた時、僅かだが彼女と意思が繋がった。だから、どんな行動をするかは大凡検討がつく」
「ならば、しっかりと準備してからでも……いや、すまない。家族の窮地、悠長にしている父などいないか」
「そう言う事だ。それに、カナエの精神は不安定……あまり待たせると、いつ限界が来るか分からん」
もし、到着して、皆が死んでいたら……俺はカナエに対しどんな感情を抱くのだろう。いや、絶対に知りたくない。
「……やれやれ、仕方ないな。よっこい、しょ!」
「……ミナト? 何をする気だ」
小鹿のように震える足を抑え付け強引に立ち上がると、俺の前まで近付いて来る。
「魔力とは生命の源、つまるところ拙者が喋れているならばまだ少しは残っていると言う事だ」
「死ぬ気か?」
「もとより覚悟の上、それに形は変われど拙者の目的は達成された。自身の手でトドメを刺せなかったが……ここで幕引きという展開も、粋だろ?」
「馬鹿な話を。お前の未来は俺が作るんだ、こんなところで死なれちゃ困る」
「その腕は拙者を守る為に傷付いたモノ。ならば、拙者が治すのが道理。お前のような男に命を捧げるのだ、悔いはないさ」
そう言って、ミナトは俺に手を翳す。
どいつもこいつも、話を聞かない奴ばかりだ。
お前たちがいなくなったら、どれほど悲しいか。
命を失うよりも恐ろしい。
たく、なんて言えばいい……ん? この音は?
「……ミナト、その必要はなさそうだぞ」
「嘘はよせ、ここには我々しかいないのだ」
「聞こえないか? あの御転婆の声が」
「御転婆……?」
ダンジョン内に響く小さな音に耳を傾ける。
そして、ハッとした後ニヤリと笑った。
「なるほど、言いつけを守れない御転婆娘の登場か」
「いやはや、本当に俺たちはバランスのいいパーティーだな。お前もそう思うだろ? なぁ、クルス!」
彼女の名を呼ぶと同時に広場の入り口が爆発。
ぬぁーという叫び声と共に二輪駆動大型魔石稼働車《バイク》に乗ったクルスが飛び出してきた。
「あわわわぁぁ!! と、止まらなくなっちゃいましたぁぁあ!! あ、マルク様ぁ、ミナトさんん!! よかった、無事でしたかァァァァァァ!!」
「悪いクルス、止めてやれるほどの元気がないんだ。自力で何とかしてくれ」
「しょ、しょんなぁぁぁあ──へぶッ!?!?」
俺たちを見つけよそ見をした結果、バイクは転倒しクルスは転がるようにして俺たちの前でへばった。しかし、直様顔を上げ視線を向ける。tough《タフ》だ。
「た、大変です! お二人ともボロボロじゃないですか!?」
「驚いたぞ、クルス殿。まさかバイクで搭乗とは!?」
「実は、クルスの登場に一番驚いているのは俺なんだよね」
「御転婆が役に立ったな」
「し、シス様から教えていただいたのですよ! 時にはワガママになることも良き妻の務めだと!」
シスの助言があってこそ、か。
まさか、ここまで予測していた?
流石にありえないか。けど、彼女との出会いが奇跡を生んだのは事実。
「お二人が心配で我慢できなくなったのです! 私だって、もっと力になれるかと」
「ありがとう、クルス。治療薬持ってきてるか?」
「勿論です、給料前借りして買ってきましたよ! 魔力回復に怪我治療、なんでもござれです」
「よし、ミナトを優先で頼む」
「いや、マルク殿を優先で──」
「違う、ミナトは魔力回復後、先に少女の治療を頼む。それから俺だ」
「少女を……それでは時間が!?」
「お前に気が付かされた事がある。やっぱ何かを守る為に、何かを捨てるなんてできない」
喉から沸き出す焦燥感を飲み込み、一度冷静に頭を回す。よし、クルスの天真爛漫な雰囲気のお陰で少しだけ考える余裕ができた。
俺とカナエは一度繋がり、記憶も心も把握した。だからこそ、彼女は激昂したのだ。本当に妻や子供たちを愛していると知ったから。
心の逃げ場を探し、見つけた答えが皆殺し……という言葉を使って、俺の心を揺さぶり、目の前で実行することで壊す事が目的で間違いない。なら。
「……カナエは俺の到着を待っている。だが、2日経てば限界に達するだろう。それまでに、淫魔の巣まで行かなければ……」
「2日ですか。バイクを使っても、3日は掛かってしまいます……そうだ、魔石さえあれば、出力を上げ、間に合うかもしれません!」
ダースリンの食べ残しを期待して周囲を見渡してみるが、無さそうだ。何処かに隠している可能性は大いにあるが、探している時間もない。と、頭を悩ませているとミナトはあっさりと言った。
「魔石ならあるぞ」
「な、なに!? どこに!」
「拙者の魔装甲を砕いてくれ、純度の高い魔石が出てくる」
そうか、魔装甲は魔石による魔力反射を利用し転換させる装置。問題なくバイクへ転用できそうだ。だが……
「いいのか? これがないと」
「拙者はもう戦う必要はなくなった。それに、ピンチの時は守ってくれるのだろう?」
「……あぁ、当然だとも!!」
これで、淫魔の巣に行くまでの問題は全て解決した。しかし、最大級の問題は残ったまま。
到着したところで、カナエを止める事ができるのか? ……いや、考えても仕方ない。
それに、なんだろう。この2人のお陰で、今なら何でもできそうな気がして来た。
止める。絶対に妻たちを殺させはしない。
そして、カナエも。
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