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魔女戦闘

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 スーッと目が細くなり、紫色の眼光が服を貫通し心臓に突き刺さる。
 自然と足が震え、誰よりも早く本能が理解する。
 今、ここで動き出さないと──死ぬッ!!

「さようなら、ケイオス」
「ぐッ、ぉっ、おおおおおッ!!」

 俺が飛び込むように前転した後、元いた場所には鋭い氷の欠片が降り注いだ。
 無詠唱魔法、威力はさっきの炎魔法と比べると劣るが俺一人を無力化するには充分な威力だ。
 もっと離れて安全な場所に……馬鹿、考えろ。
 離れれば離れる程、彼女に詠唱時間を与えることになる。
 広範囲魔法なんて使われた日には一瞬にして全滅だ。

「へぇ、流石は元仲間、私との戦い方は熟知しているようね」
「それ以上の言葉を発する余裕を、やるわけにはいかないな」

 俺は腰の短剣を引き抜き、カーラの胴体目掛けて投げる。
 しかし、彼女が周囲に纏った風が刃の進路を変え逆にこちらへと跳ね返ってきた。

「ぐッ!」
「正しいけれども、敗北は免れないわよ」

 太ももに刃が掠り血が滴る。だが、これでいい。
 詠唱に必要なのは言葉だけではない。
 俺がエロステータスを見る時のように、意識を集中させる必要があるのだ。
 つまり、攻撃の意思を緩めず、この距離を維持し続ければ彼女は上級魔法を打つことができない。
 
 ……できないが、時間の問題なのも確かだ。
 こちらには決定打が存在しない。
 わざわざカタリナを人質にしてメメの姿を見せたのも、意識を前方に集中させる為。
 そうじゃなきゃ、あそこまで近づくことすら難しかっただろうから。
 回せ、頭、回せ。動け、動き回れ。

「か、カーラさん……や、止めて下さい!」
「あら、カタリナ。貴女、どうして盗賊を守ったりしたの?」
「──ッ、それは……」
「それに、能力が使えないなんて嘘ついて……嵌めたわね?」
「ぅ、ぅぅ……だって……」
「お前、どうしてカタリナごと燃やそうとしたんだっ!」
「あんな盗賊程度に捕まるようじゃ、この先生きていけないでしょ?」
「だからって、仲間意識はないのか!?」
「あるからこそ、ここで私が燃やしてあげるのが幸せって判断よ」

 カーラの攻撃を躱しながら一瞬だけ二人の方を見る。
 メメは衝撃で変身が解けてしまい、炎が掠ったのか左腕を抑えながらうずくまっていた。
 カタリナはというとガーンとショックを受けている様子。
 いや、本来ショックなのは裏切られたカーラの方だと思うのだが。

「ほぉら、死んじゃうわよぉ! ほらほらぁッ!」
「ッ、くそ……うがッ!」
「飛び散って来たわね、久しぶりだわ鮮血を見るのは」

 止むことのない針のような氷の雨。
 わざと弄んでいるのか、俺をいたぶって楽しんでいるのか?
 エロステータスを見なくてもわかる、コイツは相当のサディストだ。
 隙を突くとするならばその油断。

「さぁ、踊りなさい、無様に、情けなく!」
「暴れ放題、しやがってッ、っ」

 今ある手札はカタリナの防御力、回復力。後はメメの淫魔と変身能力か。
 ……一つ、かなり無茶苦茶でごり押しだが、一つだけ勝ち筋が残っている。
 失敗すれば死……だけど、このままでも結局死ぬ。
 だったらやるしかないだろう。

「メメッ!!」

 狭い道の第一歩。俺は、相棒の名前を叫んだ。
 刹那、氷が俺の左腕を貫き噴水の如く血が吹き上がる。

「あああ゛ぁぁぁぁあ゛ッ!!!!」
「いい悲鳴ね、もっと血の雨を降らしてちょうだい」
「ま、まだまだぁ!!」

 俺は右手で残されたもう一本の短剣をカーラに向かって投げた。
 しかし、当たり前のように直撃することは無く遠くに飛んでいく。

「投げるだけじゃ当たらないか、クソッ!!」
「武器がなくなっちゃいましたねぇ、もうそろそろ終わらせましょう」
「ケイオスさんッ!!」

 カタリナが俺の名を呼び、ナイフを投げ渡す。
 スピードがあったわけではないがカーラは素直にそれを見逃した。
 俺はナイフを受け取ると、左腕を下げたまま構えた。
 出血しすぎた……意識が朦朧とする。
 視界はかすみ、歪み、今にも消えてしまいそうだ。
 だが、まだ終わっちゃいない。俺は、生きている。

「最後の抵抗ということね、いいわ。男らしいところを見せるチャンスをあげる」
「ぐッ……ぁ、うぁぁあああああッ!!」

 最後の力を振り絞り、カーラに向かって駆ける。
 刃を向け一刺しで命を奪い取ろうと、全力で。
 氷を避け、思いっきり腕を伸ばし。
 ──が、地中が蠢いたかと思えば幾本もの岩針が飛び出し、俺の腹部を貫いた。

「あ゛ッ、が──くッ、あああッ!!」

 磔にされてしまった身体は動くことはできない。
 俺は左手を振るい、自身の鮮血をカーラの目に向けてかける。

「まだ抵抗するのね、意外と根性あるじゃない。でも──」

 血はカーラの指先から出た炎でジュっと蒸発。
 しかし、本命はこっちじゃない。
 血はブラフ、陰に隠した投げナイフだ。

「無駄よ、それくらいの作戦、私にだって読めるわ」

 虚しくも、顔の横を素通りするナイフ。
 カーラはニヤリと口角を上げ、満足気に死にかけの俺を見下した。
 そんな彼女に対し俺は……同じように口角を上げて返す。

「俺の……勝ち、だ」
「は? ──ッ、ふごッ!!?」
「馬鹿雌めッ! 隙あり、だぁぁあああッ!!!」

 ナイフはカーラの顔の後ろで元の姿に戻る。
 そう、カタリナが投げたナイフの正体は、メメだった。
 彼女は更に変身をし、猿轡になり口に結び付く。

「堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ!!」
「ご、ごのッ、あっ、ああ、ぐッ……ぁ──ぁ……く……」

 外そうと藻掻き、足掻いていたが暫くすると膝は折れ、その場に座り込む。メメが淫夢に堕とすことに成功したのだ。
 名前を呼んだだけで俺の感情から思考を予測し即座に行動、カタリナとの連携。
 今回も9割メメの力を借りた結果になったが、とりあえず良かった、これであんし────

「ケイオスさんッ!!」
「うあぁぁぁぁあ、ケイオス、ケイオスぅぅうッ!!」

 駆け寄ってくる美女と美少女を最後に、俺の視界は真っ暗に染まった。
 
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