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第五章
最終話
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圧巻だった。
襲いかかる大軍を目の前に、勇者は一人で立ち向かう。
万を超える敵の誰一人でさえ彼女に指一歩触れる事は敵わず。
天地鳴動、大気を揺るがす程の強大な魔力は世界を震わせ、圧倒的な力で魔を滅ぼしていく。
しかし、死すことはない。
倒れた魔族、女に外傷は一切なく、ただ意識だけを刈り取られていた。
それ程までにフレイヤの実力は他の生物を凌駕していたのだ。
城を砕くようにして現れた超巨大魔族、魔王の拳を言っていた様に小指で受け止めて見せる。
鼻につくドヤ顔で此方を向くと、一瞬で灰にしてみせた。
こうして、勇者の一時間戦争は幕を下ろす。
残された静寂の中に佇む彼女の姿は、何というか……人間とか魔族とか、勇者とか魔王とか、そんな境界線を感じない凄く自由な存在だった。
そして、俺の方を向きこう言ったのだ。
「んじゃ、後はよろしく~! 行くよ、シルク」
「うん、行こう、フレイヤ!」
あっと言う間に相棒を連れて、去っていくフレイヤ。
ぐちゃぐちゃになった王国と、唖然とする民達を置いて。
全ての厄介ごとは、俺に押し付けて、だ!!! 全く、何て女だよ、アイツ!!!
……けれど、約束は約束。
魔王を倒してもらう変わりに、俺が彼女の仕事を引き継ぐ。
人間と魔族、力の天秤を保つ為の奴隷王国を作ると。
──あの日から、もう5年の月日が流れている。
♢♢♢
「お、お願いします! どうか、我が一族にお力を……!」
目の前には必死に頭を下げる男がいた。
俺は玉座に深く座り、顎膝を立てながら奴の態度を伺う。
「貴方様も我々と同族の筈……このままですと、人間は魔族に滅ぼされてしまいます」
人間と魔族の大戦は未だに潰えてはいない。この男の身なりから察するに、自分は安全な場所で指揮を執るだけ。
遂に自分の身が危うくなり、俺にしがみついてきた、ということか。
「勇者軍の力さえあれば、現状を打破しえるかと……」
「此方に利益がないのだが?」
「勿論、報酬は言い値で支払わせて頂きます」
「この御時世、金になど興味はない。覚悟を見せてみろ」
「覚悟……ですか?」
「あぁ、俺の前で自身の腹を割き、平伏しろ。そうすれば、人間を助けてやる」
「そ、それは……」
あからさまに視線を逸らす男に苛立ちを覚えた。
所詮、我が身第一。国民のこと安全を考える頭など毛頭にない。卑しい男だ。
だが、本当に人間が滅びの危機であるならば力を貸さなければならない。
「冗談だ。力を貸してやらんこともない」
「ほ、本当ですか!? ありがとうござ──」
「本当だ。本当なら、な」
「ぇ……ど、どういう……?」
「ファンシィ」
「はい、イットー様」
指を鳴らすと後ろからファンシィが魔法板を持って現れる。
彼女に与えた役割は、奴隷達の状況や世界の情勢などをまとめ、俺に正確な情報を渡すこと。
「人間と魔族の戦略差はどれほどだ?」
「白黒の射手からの報告によりますと、人的資源は魔族側がやや有利なようです」
ネイシアとシリウスには、現場まで赴き監視役を務めて貰っている。
彼女達が送ってきた情報は魔法板に映し出され、数値が浮かび上がった。
上級魔族153、中級魔族3502、下級魔族150103に対し、人間145620か。
「なるほど……個体の力が強い魔族の方が多いのであれば、確かに人間にとっては絶望的状況かもしれないな」
「わ、私は嘘など申し上げておりませんよ!? 貴方達、奴隷王国《サーバント》の力が必要不可欠なのです!」
「ファンシィ、教育係に繋いでくれ」
「準備できております、どうぞ」
そう言って差し出された魔法板を見ると、そこには沢山の第一世代に揉みくちゃにされる教育係の姿があった。
「ぬぁー! み、みんな待って、い、いまイットー様から通信が……あわぁー!」
「……シルク、大丈夫か?」
「しょ、少々お待ち下さいぃ! も、もう少しでご飯の時間なので──ぁ、みんなほら、出来たみたいだ──んぎゃあああ!」
後ろでピンク髪の女性が手を叩くと、第一世代達は一斉にその方向へと走っていった。教育係を踏みつけながら……。
「痛て……ほんと、みんなお転婆なんだから……」
「教育は順調みたいだな」
「は、はい、一応は。最初は石みたいだった彼女達もどんどん感情豊かになって来てますよ」
「それはなによりだ」
教育係シルクの役割は、感情を失った女勇者第一世代や奴隷達に喜怒哀楽を教えること……と言っても、ただ一緒に過ごすだけなのだが。
後、宿の皆には、食事番を任せている。
シルクと遊ぶよりも、奴隷達はご飯優先みたいだな。
「ところでイットー様、本日はどのような御用件で?」
「あぁ、兵が欲しい。数では無く、力のある者を希望したい」
「それでしたら、丁度ナシュリータとペルシャが血の気多くて困ってるんですよ……少し息抜きしてあげないとですけど……」
「実力は?」
「第一世代なので保証します。ただ、まだ感情のコントロールが上手くいかず、不安な面も多いですね」
「わかった。なら、俺も同行することにする」
「安心しました。出陣は?」
「今日」
「では、直ぐお連れします」
「腹が減ってはなんとやら。ゆっくり飯を食わせてからでいい」
「ありがとうございます。承知しました」
映像は切れ、再び魔法板には人間と魔族のバランスが表示される。
目の前の男は俺たちの会話を聞いて嬉々とした表情で顔を上げた。
「壱統様直々に助けてくださるのですか!?」
「ん、まぁな。俺が出ないと、収集つきそうに無いし」
「それはそれは……今晩、魔族を攻撃して下さるのですね?」
「いや、攻撃するのは人間サイドだ」
「──ぇ!?」
一気に歪む顔が、俺の心を擽った。
「な、何故ですか!?」
「鬱陶しい。俺に触れるな」
「ぅぐっ……」
しがみついてくる男を振り払い、俺は魔法板を突きつける。
「俺の奴隷は優秀でな。このところ、人間の数が急激に減った『原因』について報告を送って来ている。それが、これだ」
「──ッ!!」
「ユグドラシルの破片を利用した魔導兵器の開発は順調のようじゃないか。その為の犠牲により、人工が減ったと」
「そ、それは──」
「人間という種族は自身の利益の為なら同族を犠牲にする。自らの首を絞めた結果、俺に頼るとは……相変わらず、愚かだな」
「……だからと言って、人間が絶滅の危機に陥っていることに代わりはない。お前達の仕事は拮抗を保つことだろう」
ようやくと本性を現した男に対し、俺は溜息で返す。
「そうだ、だからこそ、これ以上人間の数を減らすわけにはいかないな」
「我々が開発した魔導兵器を壊すつもりか?」
「馬鹿か、武器がなくなればそれこそ人間が絶滅してしまうだろ?」
「ならば────……」
「もう、お前の声は聞き飽きたよ。永遠に黙ってろ」
椅子から立ち上がり、出陣の準備を始める。
これ以上、同様の兵器を開発させるわけにはいかない。
が、武器がなくなれば犠牲になった人間の分、魔族が有利になってしまう。
ならば、開発者もとい、人間の一部上層部を殺し、バランスを取る。
この男が、一番最初の標的だった。
「さて、行くか。ファンシィ、すまん、部屋を汚した。なるべく血は飛ばない様にしたつもりだが、片付けておいてくれ」
「承知しました……はい、綺麗に焼き切れてますね。首が」
「二日程で帰るから、仕事が終わったらシルクをこっちに呼びたい……な」
「お伝えしておきます。留守の間はお任せ下さい」
「あぁ、頼りにしてるぞ、ファンシィ」
「御武運を、イットー様」
優秀な奴隷の声を背に受け、俺は仕事に出発した。
どの種族よりも、誰よりも上に立つ、世界の監視者として。
──だが、まだだ。
俺を見下したアイツも、アイツらを見返していない。
更なる力を手に入れ、そして神をも穿つ存在に俺はなってみせる。
俺の物語は、始まったばかりだった。
女に人権が無い異世界に転生してしまった俺は、凌辱の限りを尽くす~異世界性奴隷化計画~【異世界編 完】
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(❁´ω`❁)アリガトウ♡
咲様
ずっとお付き合い頂き、ありがとうございます。
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