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第四話

夏の始まりは官能的だ3

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「あれから連絡しても返してこないし、心配したんだぜ~」
「ぁ、ぅ……」

 まるで俺のことなんて見えていないかのように、茜の隣に立つとポンっと肩に手を乗せる。
 もしかしてコイツが噂の彼氏? いや、でも茜は明らかに怯えている。
 それに、会話の様子も変だった。

「つれないじゃんか、俺の連絡を無視するなんてよぉ」
「も、もう連絡してこないでいったじゃん」
「はぁ? おめぇみてーな都合のいい女、簡単に手放すと思うか?」
「──ッ、さ、触らないで!」
「おっとっと」

 肩に乗った手を払いのけ距離を取る。
 それでも男はしつこく彼女の身体に触ろうとした。
 マズイ、そう思った俺は二人の間に割って入った。

「あ? なんだ、おめーは」

 ギラっと鋭い瞳に睨みつけられ、背筋が凍った。
 さっきまでの軽い雰囲気とは違い、一気に空気が重くなる。

「茜が嫌がってます、止めてください」
「ああ? 嫌がってねーよ、な? 夏希」
「っ……私は──」
「というか、今更俺のこと拒絶できるとでも思ってんの?」

 茜はその言葉を聞くと、何も喋らなくなってしまう。
 やっぱり、ただの男じゃない。彼女は何か、脅されている……?

「いい加減、素直になれよ。お前は俺達の側にいないと生きられないんだからよ」
「ちょ、止めてください!!」

 無理矢理手を引き身体を寄せようとする男の腕を掴み俺は叫んだ。
 すると、男は何かに気が付いたようにハッとする。

「なるほど、そういうことか。お前、罰ゲームで夏希に筆おろしされた男だろ?」
「──ッ、なんでそれを……」
「あの罰ゲームを命令したのは俺、だからな」
「なッ……」

 まさか、コイツが彼女と俺を出合わせた張本人、だと!?
 狼狽える俺を見て、男は「ははは」と笑うと続けて言った。

「まさか、童貞奪われてコイツに惚れちゃったわけ? ちょろいな~」
「ち、違うっ! そもそも俺は茜といかがわしいことはやってない!」
「女に迫られてビビったのか! なさけねぇ奴」
「この……っ」

 言い返すことができない。本当の事だから。

「お前みたいな男が、女と付き合えるわけねぇだろ。夢見せちゃってごめんな」
「好き放題言って……」
「じゃあ自分が夏希に相応しい男だって思うのかよ」
「っ、それは……」
「思わないだろ? 自信ねぇ癖に粋がんな。それに、コイツの事をセックスで満足させることできるか?」
「せ、セックスって」
「コイツはなぁ、セックス依存症なんだよ」

 セックス依存症、性行為でないと心の欲求を満たせない病気。
 茜の方を見ると、彼女は俯いたまま何も言わない、否定もしない。

「何回も抱いてやったんだぜ? 夏希の為に、だ。俺だけじゃねぇ、いろんな男がコイツを抱いてんだよ」
「お前らが無理矢理やったことだろ!」
「いいや、コイツが求めてきたんだ。誰でもいいから抱いて欲しいって、犯して欲しいってお願いしてきたんだよ。俺達は親切心でやったんだ、なぁ、夏希?」
「ぁ……あぁ……」

 茜は唸り声をあげ、頭を抱えた。
 クラスメイト達がしていた噂は本当だったんだ。
 彼女が誰とでも寝るビッチだって。
 依存症だってことも。

「セックス依存症の女を、お前みてーな童貞が満足させることができるのか?」

 童貞の俺に、彼女を満足させることなんてできるわけない。
 今までだって、セックスを避けて、避けてきたのだから。
 茜を満足させることができるのは、コイツのようなセックスに慣れてそうな男だろう。

「夏希、お前も純情な男の子を巻き込むな」
「ぅ……っ」
「酷いと思わないか? いろんな男と関係を持った女が、普通の男の青春を奪ってるんだぞ」
「……確かに、そうかもしれないね」
「茜ッ!!」

 俺の前に身体を出すと、彼女は男の隣に並んだ。
 肩に腕を絡められても拒絶することはない。
 そうか……やっぱり俺よりも、この男の方がいいのか。
 所詮、コイツの言う通り俺は童貞。
 セックスに慣れた彼女を本当の意味で満足させることはできない。
 もしかしたら、遊びだったのかもしれない。
 俺は沢山いる男の中の一人でしかなかったのかもしれない。
 そう思うと、言い返す気力もなくなってきた。

「それでいいんだよ、夏希。お前はこっち側なんだからよ」
「よく考えたら、私はお前との付き合いをやめた方がいいかもしれない」
「……」
「いい子だ、今日は一晩中アンアン鳴かせてやるからなぁ、楽しみだろ?」
「さよならだ、楠」

 その方が正解だ、もとより、住む世界が違い過ぎた。
 俺みたいな男が粋がって『こんな感情』を抱くべき女性ではなかった。
 もっと、相応しい男がいる。
 落胆し、俺はもう二度と彼女と話すことはないだろうと、背中を向ける。
 だが──

「こんなクソみてぇなビッチの付き合わされて大変だったな──あがッ
!?」

 気が付けば、俺は男の顔面をぶん殴っていた。
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