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ヴォラルの姫

46 vs山賊長

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 四十六話  vs 山賊長


 扉を開く。

 そこは一面がコンクリートのようなもので覆われた灰色の部屋。
 その中心で男が一人、長槍を構えながら立っていた。

 槍の刃先にはすでに血が。


「ーー…!! ウルゼッタ、あれ!」


 私は男の背後に横たわっているものに気づく。

 ーー…あれはウルゼッタがスキル【魅惑】でアジト内を暴れまわらせた見張り役の二人だ。
 二人からは大量の血。


「ふん、長の俺に歯向かうなんぞ愚かな奴らよ。」


 やはりこの男が山賊の長…。


「お久しぶりですわね。」


 ウルゼッタが冷たい声を投げかける。


「ーー…ウルゼッタか。なんだ? 調教でもされに来たのか?」


 山賊長はニヤリと笑みを浮かべながらウルゼッタの体を舐め回すように観察する。


「たまんねぇ格好してるじゃねぇかおい。」

「これはあなたの欲求を満たす為に着ているのでははございません。」

「じゃあなんでだってんだ?」


「それはもちろんー…あなた方山賊を潰す為ですわっ!!」


 ウルゼッタは地面を強く蹴り山賊長に向かって突進。


「はっ!! 何も考えずのただの特攻か!」

「そんなわけ!!」


 ウルゼッタは淫魔のハイソックスに忍ばせていた短剣を二本両手に持ち山賊長に突き立てる。

 ーー…いつの間に山賊たちからくすねてきたんだろう。


「ふん!!」


 ウルゼッタの山賊長に向けた攻撃はその大きな槍によって塞がれる。


「少しは力があるようだがー…まだまだ俺には遠く及ばん!!」


 山賊長はウルゼッタの腹部を強く蹴り飛ばして槍を上で回転。
 体勢を崩しているウルエッタに狙いを定めると、間髪入れずに槍を突き出した。


「ーー…なっ!!」


 ウルゼッタの目の前に槍の刃先が迫る。
 このままでは槍はウルゼッタの顔面に直撃ー…終わりだ。
 しかしーー…。


 そう。私を忘れてもらっては困るよね。


「氷結弾!!」


 私は山賊長の足元めがけて氷結弾を撃ち込む。


「ーー…!!??」


 足元に着弾した氷結弾は山賊長の足を凍らせて下半身の自由を奪う。
 その結果、槍はウルゼッタの手前ギリギリで止まり、ウルゼッタはなんとか槍の一撃を喰らわずに済んだ。


「あ、ありがとうございますわ。ナタリー。」

「うん。」


 私とウルゼッタはお互いに頷き合い、その後山賊長に視線を向ける。


「ーー…貴様らぁっ!!」


 山賊長が私を睨む。


「もうおしまいだよ。おじさんもう身動き取れないんだから。」


 私は魔王ミルキーポップを山賊長に向けて構える。


「ナタリー、とどめは私が。」


 ウルゼッタが短剣を強く握りしめながらゆっくりと山賊長のもとへ近づいていく。


「ウルゼッタあああーーー!!!!」

「動けないあなたに勝機はありませんわ!」


 ウルゼッタは山賊長の槍攻撃を華麗に回避し腕に短剣を突き立てる。


「ぐっ…ぐああああああああ!!!!」


 山賊長は痛みで顔を歪ませながら槍を落とす。


「これでとどめです!!!」


 ウルゼッタはもう片方に持つ短剣を山賊長に向けて突き立てた。
 これで勝敗は決したーー…はずだった。


「ーー…!? なんですの!!??」


 山賊長は短剣を胸に突き刺されているにも関わらず不気味な笑みを浮かべる。

 何かを警戒したウルゼッタはそれを離して後ろへ跳躍。山賊長から距離をとった。


「ふふふふ…あはははははははは!!!!」


 山賊長が突然高い笑いを上げ始める。


「勝ったと思ったか!? このような展開なんぞ冒険者たちに何度味合わされたことか!」


「ーー……!!??」


 山賊長の体から湯気が立ち上る。


「な、なんですの…あれ!!」


 すると突然山賊長の手前に赤い魔法陣が出現。
 それと同時に地鳴りが発生…室内がグラグラと揺れ始める。


「俺がどうして今までやられなかったのかわかるか?」


 山賊長は溶けかけた氷を力づくで破壊。
 落としていた槍を拾い上げ、目を大きく開きながら叫び出した。


「俺が負けなかった理由ー…それがこれだ!!!!」


 魔法陣は光を帯び、より赤く光りだす。
 そしてーー……。


「出でよ俺の魔獣ー…ハウンドウルフ!!!」


 魔法陣から現れたのは全身が赤色に輝く二足歩行の狼。
 全身から湯気のようなものが上がっている。
 おそらく私が序盤に爆弾で大量討伐した狼の上位互換なのだろう。


 ハウンドウルフは鋭い眼光を私たちに向けると、まるで獲物を見つけたかのように体勢を低く構え、鋭い爪を持つ両手を広げて声高く吠えた。
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