ここはヒロインのための世界です! 〜超ヒロイン推しのお助けキャラは、今日も周囲から溺愛されまくっている〜

雪葉

文字の大きさ
52 / 62
学園編

どうか、知らなかったフリをして

しおりを挟む
「……すまない。私は今日、好きな子を誘おうと思ってるんだ」

 ヴィクトールの静かな声が空間に響いた。
「あ……」とギーゼラ先輩から力の抜けた声が聞こえる。

「だから……、ごめんよ。ギーゼラ、君と学園祭を回ることは、……出来ない」
「……会長……」

 沈んだギーゼラ先輩の声。とてもショックを受けている声色だ……。


 一方、それを聞いた私。

(好きな子って言った! しっかり好きな子って言ったぞ今!! キタコレ!!)

 と喜ぶ気持ちと。
 人の恋が破れる瞬間を聞いてしまっている罪悪感で、心の中はよくわからんことになっていた。

 これって素直に喜んでいいやつなんだろうか。いやだめだよな。たった今お世話になっている先輩の恋が散ったような状況になっているのだし。

 そこでふと思う。

(そうか。いっつもアイラちゃんとの恋を応援してたけど……、その分、攻略対象を好きな人達は失恋に泣くことになるんだよな……)

 いくらここが乙女ゲームの世界で、攻略対象達の関心はいつでもヒロインのアイラちゃんに向かっているといっても。
 そんな彼らを一心に慕う人達は存在する。
 攻略対象がヒロインを愛する限り、彼女らの想いは報われることはないのだ。
 ……ちょっと切ない現実的なのが見えちゃったな。

「……そう、ですか」

 重くて、苦しそうなギーゼラ先輩の声が聞こえる。
 よく見なくても、彼女が深い悲しみを覚えているのはよく分かった。キタコレとか言ってごめんなさい。

「……分かっておりました。どこかで」
「ギーゼラ……」
「彼女、ですわよね? 会長の愛する子というのは」
「……ああ。受け入れてくれるかは、分からないけれどね」
「ふふ、それは恋する者、皆同じです。……変な申し出をしてしまって、大変申し訳ありませんでした」
「いや、そんなことは無い。嬉しかったよ、私は」
「……左様、ですか。……それでは、失礼いたします……っ」

(わっ)

 走っていくギーゼラ先輩が見えた。思わず口に手を当てて、走り去っていく姿を黙って眺めてしまう。

 ……先輩、泣いてたな……。

(よくない所を見てしまった……)

 早くこの場を離れよう。
 そう思い、そろそろと身体を動かしていると──。

「ウィラ?」
「っ?!?!」

 突然上から声をかけられて肩が飛び跳ねた。
 おそるおそるそちらを見れば……。

「……に、兄様……」

 なんでこう、何でこう。この兄はいつもいつも無駄に察しがよいのだろう。
 おかげで今ものすごく気まずい。私完全に盗み聞きしてた奴だし。

「こんな所に居たんだね、ウィラ」
「……すみません、すぐに去ります」
「いやいや、気にしなくていいよ。大丈夫」

 いや何が大丈夫なんじゃい。

「それより。今の話、聞いてた?」
「い、今の話って……」
「好きな子を学園祭デートに誘うっていう、アレだよ」
「…………ハイ」

 素直に答えた。だってこの距離で聞いてないとか無いだろうし。
 苦々しい顔で言う私に、ヴィクトールはしょうがないなぁって顔で言う。

「ま、手間が省けたしいいか」
「へ?」

 手間が省けたって、なんや。どういうこと。

 疑問に思っていると、ヴィクトールはいつも通りの。本当にいつも通りの笑顔で、こんなことを言い放った。

「ねえウィラ。学園祭、私と一緒に回らないかい?」
「はっ?」

 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
 今この人なんて?

「……あの。冗談を言ってからかうのはやめてください」

 アンタさっき「好きな子を誘う」って言ってギーゼラ先輩を振ってたやんけ。
 さすがにその後、何とも思ってない義妹に向かって冗談を言うのはいくら何でも不謹慎……、

「冗談じゃないよ」

 静かな、それでいて真っ直ぐとしたヴィクトールの声が聞こえてくる。その声がなんだかとても真剣なものに思えて、私は彼を見やった。

 ヴィクトールの紅い瞳は、私を捕らえて離さない。

「さっきの話を聞いていたのなら、分かっているんだろう? 私は「好きな女の子を誘うつもりだ」ということを」
「…………」
「この言葉の意味、君には理解ができないかい?」
「…………え、と」

 私はその言葉に、なんと答えていいものか分からなくなった。

 ヴィクトールは「好きな子を誘う」と言った。私はその相手はアイラちゃんだと思っていたが、ヴィクトールは今し方、私を学園祭デートに誘った。

 ……どういうことだ?

 つまり、その言葉を文面通りに受け取るのなら。
 ヴィクトールの好きな相手は────。

(だめだ。頭が、理解することを拒んでる……)

 頭が痛くなってきた。ああ、だめだ。駄目なのだ。
 それは、いけない。

 それを理解してしまったら。
 それを、私が正しく認識してしまったら──。


「……わ、からないですねー! 私には!」

 グイッ! とヴィクトールの身体を押し返した。努めて明るく、何も分かってないような無邪気な笑顔で返す。

 ヴィクトールの顔がどんな風になっているのかなんて、今の私には考える余裕はなかった。

「もー兄様! いくら義妹と仲良しアピールしたいからって、重要な学園祭でのデートにまで誘うのはだめですよ!」
「…………」
「ほら! 本当に誘いたい相手は他にいるんでしょう? 義妹になんか構ってないで、早くそっちに行ってください!」

 ああ、今私は自然に笑えているだろうか。声は不自然に震えていたりしないだろうか。

 大丈夫。誤魔化せるはずだ。
 いつもみたいに、何でもないように笑っているはず。

「……ウィラ、私は──」

 ヴィクトールが私の名を呼び、何かを言おうとした。
 が、私はそれを慌てて遮る。

「さ、兄様! 仕事はまだまだ残ってますよ、まずはそれらを片付けちゃいましょう!」
「……、……そうだね」

 彼の言葉に、こっそり息をついた。
 そしてそんな自分に、ほんのちょっとだけ、自己嫌悪。

(……何にも聞いてない。私は)

 今は、そういうことにさせてほしい。


 その後。学園祭の休憩時間は、たまたまアイラちゃんとの休憩時間が被ったから二人で回ることにした。
 本当はユーリとかサーシャとかと被ってたらよかったんだけど……二人とも忙しかったみたいで。

「ウィルヘルミナ様?」
「え、あっ、な、なに? アイラちゃん!」
「……何かありましたか?」

 心配そうな彼女の表情が見える。しまった、折角天使が一緒に歩いてくれてるのに、暗い顔をしてしまっていた。

「なんにもないよ、大丈夫」

 ……何にもないのだ。本当に。何も。

 そのはず、なのである。


 ということで。
 今年の学園祭は、推しと一緒に回れたけれど……どこか引っかかりを忘れられない日でもあった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!

くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。 ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。 マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ! 悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。 少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!! ほんの少しシリアスもある!かもです。 気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。 月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子
恋愛
自分によく似た攻略対象がいるからと、親友に勧められて始めた乙女ゲームの世界に転移してしまった雫。 けれど実は、自分はそのゲームの世界の住人で攻略対象の妹「ロゼ」だったことを思い出した。 その世界でロゼは他の攻略対象、そしてヒロインと出会うが、そのヒロインは……。 ※小説家になろうにも投稿しています

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

処理中です...