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車を駅近くのパーキングに停めてから、駅に向かった。
「もうすぐママに会えるから」
藍生がリオンの手をひきながら言うと、
「どこ、ママ。どこ?」
駆けだそうとするので、藍生がリオンを抱きあげた。
駅前には、バスやタクシーが並び、通りは多くの人が行き交っていた。
その向こうには改札口が見える。
「あ、ママだ!」
リオンが指をさしたほうへと視線をやると、女の人が手をふっていた。
リオンは藍生の腕からむりやり降りた。
「あ、あぶないって」
藍生が止めるのも聞かずに走りだした。
けれど、すぐに人の波にはじかれて転びそうになった。
「おっと」
こける寸前、俺が抱きあげると、くちびるをとがらせた。今にも泣きそうだ。
「リオン、ママがきた」
藍生がリオンの腕をたたいて、母親が走ってくるほうを指でしめした。
すると、母親の姿をみたとたん、リオンの顔がぱっと明るくなった。
「ママ!」
おろすと、すぐそばまできた母親に駆け寄り、脚にぎゅっと抱きついている。
「リオン、おりこうにしてた?」
その女の人は荷物を脇に置き、リオンを抱きあげた。
「してたー」
リオンは、女の人の首に腕をまわして、もう離れたくないとばかりに抱きついている。
「えらい、えらい」
リオンの頭をなでているところへ藍生がリオンの顔をのぞきこんだ。
「泣いてくせに」
藍生はにやっと意地わるい顔をむけて、リオンのほっぺをつんとつついた。
「おじちゃ、やー」
「おじちゃん……って、お兄ちゃんだろ」
「あ、誠也さんまで笑って。おじさんって歳じゃねーのに」
「やー、おじちゃんってママいったもん」
「あら、リオン。よく覚えてたわね。かしこい」
「賢くないって。ずっと泣いてるし、マジで困ったんだから」
「で、助けてもらったってわけね」
二人の視線が俺に向いた。
「そうなんだ。オレのお隣さんで、玉川誠也さん。オレ、誠也さんいなかったら、たぶん、夜寝れてなかった。お風呂入れてくれて、寝かしつけてもらった。それに、ここまで運転してくれたんだ」
「どうして、藍くんがいばってるの」
小脇に肘でつついてから、俺のほうに向きなおった。
「私、リオンの母親の奈々江と申します。リオンと、藍生を助けていただいてありがとうございました」
リオンを抱っこしながら、頭をさげた。
「い、いえ。俺ができることをしただけです」
「なにかお礼を」
「大丈夫ですから」
そこで言葉を切って、リオンの頭をなでた。すると、リオンが手をのばして抱っこをねだってきた。奈々江から身軽に俺の腕へと移動してきたリオンは、
「せいや、すきー」
ぎゅっと抱きついてきた。あたたかくて、ぷくっとした腕の感触に、ほほがゆるむ。
「じゃあな。元気でな」
抱っこしたリオンの背中をトントンと軽くたたく。
いやいやするように、肩口におでこをすりつけてくる。
「リオン。どうしてオレはおじちゃんだし『いや』って言うのに、誠也さんは『すき』なんだよ。それにオレでもさん付けで呼んでるんだぞ。呼び捨てってどういうことだよ。ほら、こっちにおいで」
「いやのー」
ますます強く抱きついてきた。
と、クスクスと笑い声が聞こえた。奈々江が口元を隠しつつおかしそうに笑っている。
あ、似てる。
その笑った顔と藍生と出会ったころの笑顔によく似ていた。
やっぱ姉弟だな。と、彼女に思っていた以前の自分に「姉弟だぞ」と叫びたい気持ちだった。
俺にしがみついていたリオンを奈々江が離してくれた。
「じゃあ、オレたち行くから」
「玉川さん、藍くん、ありがとね」
「姉さんは、一人で頑張りすぎなんだよ。できるだけ協力するから」
「また、そんなこと言って。玉川さんに頼るんでしょ」
「そんなことは……あるかもしれない」
「いいですよ。俺もリオンくんに会いたいですから」
「でも、助けてもらってばかりじゃ」
「それなら、今度お二人一緒に麦の実キッチンに食べにきてください」
「麦の実キッチン?」
「誠也さんが働いている店なんだ。父さんのオムライス。姉さんも好きだったでしょ」
「父さん?」
「その店のオムライスの味と、父さんが作ってくれてたオムライスの味がよく似てるんだ」
「そう……」
奈々江の顔がかげった。
「父さんも母さんも、姉さんのこと待ってる」
「でも、連絡もこないし」
「それはお互い様だろ。母さんが連絡しても返してないだろ」
「……、お説教はいいから」
奈々江の中では、まだ整理できていない気持ち大きいのかもしれない。
口を開こうとする藍生の肩をつかんで、止めた。
「今日はお疲れでしょう。オムライスとは言いませんから、お越しください」
俺は財布から店のカードを取りだして渡した。
「……わかりました。ほら、リオン挨拶しよっか」
地面におろされたリオンは、奈々江のスラックスをつかみながら「ばいばい」と、手をふった。
「またなー」
手をふり返す藍生に、奈々江がこそっとなにかを耳打ちした。
「ね、姉さん! それはダメだ!」
急にけわし気な声で、藍生が言った。
奈々江は、それには意を介さず、さわやかな笑みを浮かべて
「また、会いましょう」
と、颯爽とリオンの手をひいて人ごみの中へと去っていった。
「もうすぐママに会えるから」
藍生がリオンの手をひきながら言うと、
「どこ、ママ。どこ?」
駆けだそうとするので、藍生がリオンを抱きあげた。
駅前には、バスやタクシーが並び、通りは多くの人が行き交っていた。
その向こうには改札口が見える。
「あ、ママだ!」
リオンが指をさしたほうへと視線をやると、女の人が手をふっていた。
リオンは藍生の腕からむりやり降りた。
「あ、あぶないって」
藍生が止めるのも聞かずに走りだした。
けれど、すぐに人の波にはじかれて転びそうになった。
「おっと」
こける寸前、俺が抱きあげると、くちびるをとがらせた。今にも泣きそうだ。
「リオン、ママがきた」
藍生がリオンの腕をたたいて、母親が走ってくるほうを指でしめした。
すると、母親の姿をみたとたん、リオンの顔がぱっと明るくなった。
「ママ!」
おろすと、すぐそばまできた母親に駆け寄り、脚にぎゅっと抱きついている。
「リオン、おりこうにしてた?」
その女の人は荷物を脇に置き、リオンを抱きあげた。
「してたー」
リオンは、女の人の首に腕をまわして、もう離れたくないとばかりに抱きついている。
「えらい、えらい」
リオンの頭をなでているところへ藍生がリオンの顔をのぞきこんだ。
「泣いてくせに」
藍生はにやっと意地わるい顔をむけて、リオンのほっぺをつんとつついた。
「おじちゃ、やー」
「おじちゃん……って、お兄ちゃんだろ」
「あ、誠也さんまで笑って。おじさんって歳じゃねーのに」
「やー、おじちゃんってママいったもん」
「あら、リオン。よく覚えてたわね。かしこい」
「賢くないって。ずっと泣いてるし、マジで困ったんだから」
「で、助けてもらったってわけね」
二人の視線が俺に向いた。
「そうなんだ。オレのお隣さんで、玉川誠也さん。オレ、誠也さんいなかったら、たぶん、夜寝れてなかった。お風呂入れてくれて、寝かしつけてもらった。それに、ここまで運転してくれたんだ」
「どうして、藍くんがいばってるの」
小脇に肘でつついてから、俺のほうに向きなおった。
「私、リオンの母親の奈々江と申します。リオンと、藍生を助けていただいてありがとうございました」
リオンを抱っこしながら、頭をさげた。
「い、いえ。俺ができることをしただけです」
「なにかお礼を」
「大丈夫ですから」
そこで言葉を切って、リオンの頭をなでた。すると、リオンが手をのばして抱っこをねだってきた。奈々江から身軽に俺の腕へと移動してきたリオンは、
「せいや、すきー」
ぎゅっと抱きついてきた。あたたかくて、ぷくっとした腕の感触に、ほほがゆるむ。
「じゃあな。元気でな」
抱っこしたリオンの背中をトントンと軽くたたく。
いやいやするように、肩口におでこをすりつけてくる。
「リオン。どうしてオレはおじちゃんだし『いや』って言うのに、誠也さんは『すき』なんだよ。それにオレでもさん付けで呼んでるんだぞ。呼び捨てってどういうことだよ。ほら、こっちにおいで」
「いやのー」
ますます強く抱きついてきた。
と、クスクスと笑い声が聞こえた。奈々江が口元を隠しつつおかしそうに笑っている。
あ、似てる。
その笑った顔と藍生と出会ったころの笑顔によく似ていた。
やっぱ姉弟だな。と、彼女に思っていた以前の自分に「姉弟だぞ」と叫びたい気持ちだった。
俺にしがみついていたリオンを奈々江が離してくれた。
「じゃあ、オレたち行くから」
「玉川さん、藍くん、ありがとね」
「姉さんは、一人で頑張りすぎなんだよ。できるだけ協力するから」
「また、そんなこと言って。玉川さんに頼るんでしょ」
「そんなことは……あるかもしれない」
「いいですよ。俺もリオンくんに会いたいですから」
「でも、助けてもらってばかりじゃ」
「それなら、今度お二人一緒に麦の実キッチンに食べにきてください」
「麦の実キッチン?」
「誠也さんが働いている店なんだ。父さんのオムライス。姉さんも好きだったでしょ」
「父さん?」
「その店のオムライスの味と、父さんが作ってくれてたオムライスの味がよく似てるんだ」
「そう……」
奈々江の顔がかげった。
「父さんも母さんも、姉さんのこと待ってる」
「でも、連絡もこないし」
「それはお互い様だろ。母さんが連絡しても返してないだろ」
「……、お説教はいいから」
奈々江の中では、まだ整理できていない気持ち大きいのかもしれない。
口を開こうとする藍生の肩をつかんで、止めた。
「今日はお疲れでしょう。オムライスとは言いませんから、お越しください」
俺は財布から店のカードを取りだして渡した。
「……わかりました。ほら、リオン挨拶しよっか」
地面におろされたリオンは、奈々江のスラックスをつかみながら「ばいばい」と、手をふった。
「またなー」
手をふり返す藍生に、奈々江がこそっとなにかを耳打ちした。
「ね、姉さん! それはダメだ!」
急にけわし気な声で、藍生が言った。
奈々江は、それには意を介さず、さわやかな笑みを浮かべて
「また、会いましょう」
と、颯爽とリオンの手をひいて人ごみの中へと去っていった。
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