夜食を、君と。

立樹

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 藍生が俺を独り占めしたいと思ったのは、ただの推測だ。

 さっき藍生は海の景色を独り占めしたいと言ったあと、俺のタイプを聞いた。そして、お姉さんが再婚するなら俺がいいというようなことを言った。そのたずねた藍生は拗ねている。まるで、好きなものを取られた子どものように。

「オレ、誠也さんを独り占めしたいなんて思っていなかったんだ。それに、誠也さんから『つき合ってみる?』と聞かれても、嬉しい気持ちしかなかった。きっと、誠也さんの言う『本気』じゃなくて『友だち』のノリだった。でも、姉さんから『いい人ね、私がもらっていい?』って言われて、取られるって思った。その感情にオレ自信が驚いたんだ。そんなに大きい存在になっていたんだって」

「そうか」

「そんなこと言われても重いよな」

「いや」

 けれど、まだ藍生の中の俺は『親友』の域をでていない気がする。でも、ここまで気持ちを教えてくれたのだ。俺が黙っているわけにはいかないだろう。
 今押せば、気持ちが傾いてくれるかもしれないという打算もある。
 彼の透明なグラスに色がつき始めたグラスの中に、一滴、色をたらそう。

「俺は誰でも彼でも家に呼んで、夕飯を作ったりはしない」

 外の景色を見ていた藍生と視線が合う。

「付き合うかと言ったとき、俺は本気だった」

 藍生の目が大きく見開かれる。

 ああ、俺がカメラマンなら、この表情を撮りたい。この一瞬を切り取り、見ていたいほどに、きれいだと思った。

「今すぐ答えなくていい。ゆっくり考えてみて」

「はい」

「じゃあ、とりあえず海を見にいこう」

 俺はシートベルトをして、車を発進させた。

 近くの海岸まで車を走らせ、浜辺を並んで歩く。
 このあたりは夏になると海水浴を楽しむ人でごった返すのだろう。
 太陽は強く照り付けても、まだ半袖では肌寒い季節では人はまばらだった。それでも、人はいて、希望通りとはいかなかった。
 歩けば、砂地に足跡がのこる。
 しばらく歩いていると、人が減ってきた。

「あの、誠也さん」

「ん?」

「誠也さんはオレを見て欲情するってことですよね」

「……んん?」

 なんの話だ。と思いつつも「ああ」と言った。

「いや、その。ほら、今朝、オレを上から見下ろしてたじゃん」

「そうだな。あれは悪かった」

「悪いとかじゃなくて、オレ、あれで欲情したわけ」

「え?」

「驚くよね。オレも驚いた。そっか。うん。そうか」

 うんうんと俺のことを見ずに、一人納得している。
 置いてきぼりをくった子どものように、さみしさを感じていると、藍生が俺の前に回り込んできた。

 そして、周りを見渡してから、おもむろにぎゅっと抱きついてきた。

「え、おい! なに?」

 見える範囲に人がいないとはいえ、急なことに慌てふためいていると、くんくんと首筋のにおいをかがれて、たまらずにべりっと引きはなした。

「な、な、なに、どうした?」

 顔が熱い。心拍速すぎ。
 むり、耐えれん。

「付き合ってくださいオレと」

「へ?」

 突然の告白にぼうぜんと、藍生を見る。

「いいの? 俺、男だけど」

「確認したので、今からでもいけます」

「あのね……」

 俺は、今まで吸って止めていた息を一気に吐きだした。
 しゃがみこみ、砂地に視線をおとした。

「言ったことわかってんの?」

「わかってる」

「後悔しない?」

「しない」

「俺、もうたえれないけど、いいわけ?」

「いい」

 俺のそばにしゃがみこんできた藍生の胸元をつかむと、ぐいと自分の方へと引き寄せ、そっと口づけをする。
 驚いた顔をしたのは一瞬だけ。首にのばされた腕が、さらに俺と藍生との距離を縮めた。
 お互いの荒い息遣いが聞こえるまで、口づけを続けた。
 それは、藍生が望んだ「人のいない海」で。

 息を吸った藍生が
「誠也さん」
 と俺の名を呼んだ。

「誠也さんが作ったオムライス、食べたいです」

「わかった。昼飯には無理だろうから、晩な。それじゃあ、帰るか」

「はい」

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