12 / 12
12
しおりを挟む
藍生が俺を独り占めしたいと思ったのは、ただの推測だ。
さっき藍生は海の景色を独り占めしたいと言ったあと、俺のタイプを聞いた。そして、お姉さんが再婚するなら俺がいいというようなことを言った。そのたずねた藍生は拗ねている。まるで、好きなものを取られた子どものように。
「オレ、誠也さんを独り占めしたいなんて思っていなかったんだ。それに、誠也さんから『つき合ってみる?』と聞かれても、嬉しい気持ちしかなかった。きっと、誠也さんの言う『本気』じゃなくて『友だち』のノリだった。でも、姉さんから『いい人ね、私がもらっていい?』って言われて、取られるって思った。その感情にオレ自信が驚いたんだ。そんなに大きい存在になっていたんだって」
「そうか」
「そんなこと言われても重いよな」
「いや」
けれど、まだ藍生の中の俺は『親友』の域をでていない気がする。でも、ここまで気持ちを教えてくれたのだ。俺が黙っているわけにはいかないだろう。
今押せば、気持ちが傾いてくれるかもしれないという打算もある。
彼の透明なグラスに色がつき始めたグラスの中に、一滴、色をたらそう。
「俺は誰でも彼でも家に呼んで、夕飯を作ったりはしない」
外の景色を見ていた藍生と視線が合う。
「付き合うかと言ったとき、俺は本気だった」
藍生の目が大きく見開かれる。
ああ、俺がカメラマンなら、この表情を撮りたい。この一瞬を切り取り、見ていたいほどに、きれいだと思った。
「今すぐ答えなくていい。ゆっくり考えてみて」
「はい」
「じゃあ、とりあえず海を見にいこう」
俺はシートベルトをして、車を発進させた。
近くの海岸まで車を走らせ、浜辺を並んで歩く。
このあたりは夏になると海水浴を楽しむ人でごった返すのだろう。
太陽は強く照り付けても、まだ半袖では肌寒い季節では人はまばらだった。それでも、人はいて、希望通りとはいかなかった。
歩けば、砂地に足跡がのこる。
しばらく歩いていると、人が減ってきた。
「あの、誠也さん」
「ん?」
「誠也さんはオレを見て欲情するってことですよね」
「……んん?」
なんの話だ。と思いつつも「ああ」と言った。
「いや、その。ほら、今朝、オレを上から見下ろしてたじゃん」
「そうだな。あれは悪かった」
「悪いとかじゃなくて、オレ、あれで欲情したわけ」
「え?」
「驚くよね。オレも驚いた。そっか。うん。そうか」
うんうんと俺のことを見ずに、一人納得している。
置いてきぼりをくった子どものように、さみしさを感じていると、藍生が俺の前に回り込んできた。
そして、周りを見渡してから、おもむろにぎゅっと抱きついてきた。
「え、おい! なに?」
見える範囲に人がいないとはいえ、急なことに慌てふためいていると、くんくんと首筋のにおいをかがれて、たまらずにべりっと引きはなした。
「な、な、なに、どうした?」
顔が熱い。心拍速すぎ。
むり、耐えれん。
「付き合ってくださいオレと」
「へ?」
突然の告白にぼうぜんと、藍生を見る。
「いいの? 俺、男だけど」
「確認したので、今からでもいけます」
「あのね……」
俺は、今まで吸って止めていた息を一気に吐きだした。
しゃがみこみ、砂地に視線をおとした。
「言ったことわかってんの?」
「わかってる」
「後悔しない?」
「しない」
「俺、もうたえれないけど、いいわけ?」
「いい」
俺のそばにしゃがみこんできた藍生の胸元をつかむと、ぐいと自分の方へと引き寄せ、そっと口づけをする。
驚いた顔をしたのは一瞬だけ。首にのばされた腕が、さらに俺と藍生との距離を縮めた。
お互いの荒い息遣いが聞こえるまで、口づけを続けた。
それは、藍生が望んだ「人のいない海」で。
息を吸った藍生が
「誠也さん」
と俺の名を呼んだ。
「誠也さんが作ったオムライス、食べたいです」
「わかった。昼飯には無理だろうから、晩な。それじゃあ、帰るか」
「はい」
さっき藍生は海の景色を独り占めしたいと言ったあと、俺のタイプを聞いた。そして、お姉さんが再婚するなら俺がいいというようなことを言った。そのたずねた藍生は拗ねている。まるで、好きなものを取られた子どものように。
「オレ、誠也さんを独り占めしたいなんて思っていなかったんだ。それに、誠也さんから『つき合ってみる?』と聞かれても、嬉しい気持ちしかなかった。きっと、誠也さんの言う『本気』じゃなくて『友だち』のノリだった。でも、姉さんから『いい人ね、私がもらっていい?』って言われて、取られるって思った。その感情にオレ自信が驚いたんだ。そんなに大きい存在になっていたんだって」
「そうか」
「そんなこと言われても重いよな」
「いや」
けれど、まだ藍生の中の俺は『親友』の域をでていない気がする。でも、ここまで気持ちを教えてくれたのだ。俺が黙っているわけにはいかないだろう。
今押せば、気持ちが傾いてくれるかもしれないという打算もある。
彼の透明なグラスに色がつき始めたグラスの中に、一滴、色をたらそう。
「俺は誰でも彼でも家に呼んで、夕飯を作ったりはしない」
外の景色を見ていた藍生と視線が合う。
「付き合うかと言ったとき、俺は本気だった」
藍生の目が大きく見開かれる。
ああ、俺がカメラマンなら、この表情を撮りたい。この一瞬を切り取り、見ていたいほどに、きれいだと思った。
「今すぐ答えなくていい。ゆっくり考えてみて」
「はい」
「じゃあ、とりあえず海を見にいこう」
俺はシートベルトをして、車を発進させた。
近くの海岸まで車を走らせ、浜辺を並んで歩く。
このあたりは夏になると海水浴を楽しむ人でごった返すのだろう。
太陽は強く照り付けても、まだ半袖では肌寒い季節では人はまばらだった。それでも、人はいて、希望通りとはいかなかった。
歩けば、砂地に足跡がのこる。
しばらく歩いていると、人が減ってきた。
「あの、誠也さん」
「ん?」
「誠也さんはオレを見て欲情するってことですよね」
「……んん?」
なんの話だ。と思いつつも「ああ」と言った。
「いや、その。ほら、今朝、オレを上から見下ろしてたじゃん」
「そうだな。あれは悪かった」
「悪いとかじゃなくて、オレ、あれで欲情したわけ」
「え?」
「驚くよね。オレも驚いた。そっか。うん。そうか」
うんうんと俺のことを見ずに、一人納得している。
置いてきぼりをくった子どものように、さみしさを感じていると、藍生が俺の前に回り込んできた。
そして、周りを見渡してから、おもむろにぎゅっと抱きついてきた。
「え、おい! なに?」
見える範囲に人がいないとはいえ、急なことに慌てふためいていると、くんくんと首筋のにおいをかがれて、たまらずにべりっと引きはなした。
「な、な、なに、どうした?」
顔が熱い。心拍速すぎ。
むり、耐えれん。
「付き合ってくださいオレと」
「へ?」
突然の告白にぼうぜんと、藍生を見る。
「いいの? 俺、男だけど」
「確認したので、今からでもいけます」
「あのね……」
俺は、今まで吸って止めていた息を一気に吐きだした。
しゃがみこみ、砂地に視線をおとした。
「言ったことわかってんの?」
「わかってる」
「後悔しない?」
「しない」
「俺、もうたえれないけど、いいわけ?」
「いい」
俺のそばにしゃがみこんできた藍生の胸元をつかむと、ぐいと自分の方へと引き寄せ、そっと口づけをする。
驚いた顔をしたのは一瞬だけ。首にのばされた腕が、さらに俺と藍生との距離を縮めた。
お互いの荒い息遣いが聞こえるまで、口づけを続けた。
それは、藍生が望んだ「人のいない海」で。
息を吸った藍生が
「誠也さん」
と俺の名を呼んだ。
「誠也さんが作ったオムライス、食べたいです」
「わかった。昼飯には無理だろうから、晩な。それじゃあ、帰るか」
「はい」
16
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
その関係に、名前をつけるなら
皐月ハル
BL
和樹と瑞季は、一文字違いの名前を持つ同い年の幼なじみ。
いつの頃からか、瑞季は和樹に特別な想いを抱くようになっていた。
けれど、その気持ちは誰にも言えないまま――。
中学まではいつも一緒だった二人も、高校では別々の道へ。
そんな瑞季の前に、博多弁のチャラいクラスメイト・春馬が現れる。
彼の登場によって、二人の関係は少しずつ揺らぎはじめていく。
和樹と瑞季のお話で、完結としましたが、
春馬くんで、もう少しお話を続けたくなりました。
またしても、名前繋がりです。
君に二度、恋をした。
春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。
あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。
――もう二度と会うこともないと思っていたのに。
大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。
変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。
「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」
初恋、すれ違い、再会、そして執着。
“好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか――
すれ違い×再会×俺様攻め
十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。
神楽
立樹
BL
谷川彰也は、大学でも美形で人の注目を集めている近松神楽にモーニングコールをしている。
ただ、モーニングコールをするだけの仲だった。ある日、コールをしていることがバレてしまった。
彰也も近松に言っていない秘密があって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる