1 / 2
柳と俺の初詣 前編
しおりを挟む
〈もうすぐ着く〉
スマホに着信が入った。
「迎えに行くか」
車に乗り込み、駅に向かった。
もうすぐ年明けのカウントダウンが始まり、ちょうど電車がつく頃、新年を迎える。
柳は毎年、年末年始の境目に到着する電車に乗って地元に帰ってきていた。
俺は地元で就職し、柳は地元から離れた都心で働いている。
お盆と年始にいつも帰省し、どこかで飲んで話をして、また、いつもの時間に追われる日々を過ごす。そんな関係は、大学を卒業してから十年ほど続いていた。
最初は、俺と柳だけじゃなかった。仲のいい友だちで集まっていたが、二十五歳を過ぎたぐらいから、一人減り、二人減り、ここ五年ほどは二人で会っている。
夜中だが、街中はいつもよりも人通りが多かった。
それもそのはずで、駅近くにある神社があり、初詣に向かうのか、人が向かって歩いている。
道も電車から降りてくる人を拾うために、列を作っていた。
「もう少し早めに出てくればよかったか」
と、後悔するのは一度や二度ではない。
ギリギリが性分でもあり、いつも、それで反省するのだが、あまり直らない。
それに、柳を待っている時間が好きだった。
会うまでの待つ時間。
どんなことを話そうか、なにを話してくれるだろう。
変わっているのか、変わってないのか。
そんなことを考えていると、
コツコツ
窓をたたく音がした。
顔を向けると、柳だ。
ロックを外すと同時に、後部座席に荷物を置いた柳がとなりの助手席へ滑り込んできた。
「あめおめー。いつもサンキューな」
目にかかった前髪が邪魔なのか、無造作にかき上げながらニッと笑った。
「明けましておめでとう。それより悪いな。渋滞に引っかかって、動かん」
「気にしねーって。どっか店で飲んで話すのも、家か車内で話すのも一緒だろ」
「話すならどこでもいいってか」
「そーそー。オレさ、こっちに帰ってくんのって、実弥に会うのが目的だから」
「お前、そんな口説き文句みたいなの、恥ずかしげもなく言えるね」
「え、もしかして、ドキッとしてくれた?」
柳が、シートベルトを装着しつつ、身を乗りだしてくる。
「あー、はいはい。ドキッとしたから、ちょっと離れてくれる」
運転しにくくて仕方がない。と、柳の肩を押し返した。
臆面もなく言うのは、いつもの柳だ。
それは変わらない。
俺にとっては中毒性のある、柳のセリフを聞きたくて一緒にいるのかもしれなかった。
やっと駅のロータリーにさしかかり、駅前をぐるっと回って、来た道へと折り返す。
車内は、静かだ。柳は外を見ているし、なにも音楽やラジオ、テレビもつけていない。
観たり音楽も流せるが、無音が好きだった。
画面には、カーナビの地図がついているだけ。
外を見ていた柳が声を「なあ、なあ」と指をさした。
「ん?」
「あそこ、駐車場空いてるって」
さすがに有名な神社ではないからか、夜中に参拝する人はそれほど多くなく、昼間は埋まっているの駅周辺の駐車場も、掲示板には『空』の表示が出ていた。
「参拝でも行くか」
俺が言うと、
「行く行く」
と嬉しそうな返事が返ってきた。
「柳、何歳だっけ?」
「まだ、三十三。なんだよ。幼いって言うんだろ」
「わかってんじゃん」
「他では、大人ぶってんだから、実弥といる時ぐらい、素でいーの」
好奇心に満ちた目は、いたずらっぽく笑っていた。
「変わんないな」
顔立ちは精悍になっても、その表情は幼い頃の柳を思い起こさせた。
「ほっとけ」
ちょっとすねているのか、むすっとした顔になった。
「悪い意味じゃないさ。安心するってこと」
「そっか」
すぐに機嫌が直る。ころころと表情が変わるところは、いつまで経っても同じだ。
車を停車させ、外に出た。
とたんに、身を切るような冷たい風に首をすくめた。
慌てて、後部座席につんでいたマフラーと手袋を取り出した。
「行くか」
柳に声をかけると、くっついてきて、
「さびーっ」
同じように首をすくめている。
柳が横に並ぶと、頭一つ半ほど彼の方が低い。ちらっと顔を向けても、長めの髪が、彼の表情を隠していた。
どんな顔をしているのか見えない。
「寒いなら、いつものように家で飲んでから次の日に参拝でものに」
俺が言うと、柳は「さむくねーし」と言った言葉は歯がかみ合っていない。
柳の上着はジャケットだ。ダウンジャケットを着ている俺だって寒い。
寒くないわけないのに、
「歩いてれば、温かくなんだろ」
強がりが丸わかりだ。そのまま歩いていこうとする柳に、後ろからマフラーを肩にかける。
「巻いてろ。少しは温かいだろう。ほら、手袋も」
「実弥のだろ。いいよ」
「見てる方が寒いから」
「マジ、感謝」
「いいって」
手を合わせようとするので、やめさせた。
辺りはそれなりに暗く、車も人もまばら。駐車場の等間隔に並んでいるライトだけが暗闇を照らしている。
マフラーと手袋をしても、柳は俺にくっつくようにして、神社に向かった。
スマホに着信が入った。
「迎えに行くか」
車に乗り込み、駅に向かった。
もうすぐ年明けのカウントダウンが始まり、ちょうど電車がつく頃、新年を迎える。
柳は毎年、年末年始の境目に到着する電車に乗って地元に帰ってきていた。
俺は地元で就職し、柳は地元から離れた都心で働いている。
お盆と年始にいつも帰省し、どこかで飲んで話をして、また、いつもの時間に追われる日々を過ごす。そんな関係は、大学を卒業してから十年ほど続いていた。
最初は、俺と柳だけじゃなかった。仲のいい友だちで集まっていたが、二十五歳を過ぎたぐらいから、一人減り、二人減り、ここ五年ほどは二人で会っている。
夜中だが、街中はいつもよりも人通りが多かった。
それもそのはずで、駅近くにある神社があり、初詣に向かうのか、人が向かって歩いている。
道も電車から降りてくる人を拾うために、列を作っていた。
「もう少し早めに出てくればよかったか」
と、後悔するのは一度や二度ではない。
ギリギリが性分でもあり、いつも、それで反省するのだが、あまり直らない。
それに、柳を待っている時間が好きだった。
会うまでの待つ時間。
どんなことを話そうか、なにを話してくれるだろう。
変わっているのか、変わってないのか。
そんなことを考えていると、
コツコツ
窓をたたく音がした。
顔を向けると、柳だ。
ロックを外すと同時に、後部座席に荷物を置いた柳がとなりの助手席へ滑り込んできた。
「あめおめー。いつもサンキューな」
目にかかった前髪が邪魔なのか、無造作にかき上げながらニッと笑った。
「明けましておめでとう。それより悪いな。渋滞に引っかかって、動かん」
「気にしねーって。どっか店で飲んで話すのも、家か車内で話すのも一緒だろ」
「話すならどこでもいいってか」
「そーそー。オレさ、こっちに帰ってくんのって、実弥に会うのが目的だから」
「お前、そんな口説き文句みたいなの、恥ずかしげもなく言えるね」
「え、もしかして、ドキッとしてくれた?」
柳が、シートベルトを装着しつつ、身を乗りだしてくる。
「あー、はいはい。ドキッとしたから、ちょっと離れてくれる」
運転しにくくて仕方がない。と、柳の肩を押し返した。
臆面もなく言うのは、いつもの柳だ。
それは変わらない。
俺にとっては中毒性のある、柳のセリフを聞きたくて一緒にいるのかもしれなかった。
やっと駅のロータリーにさしかかり、駅前をぐるっと回って、来た道へと折り返す。
車内は、静かだ。柳は外を見ているし、なにも音楽やラジオ、テレビもつけていない。
観たり音楽も流せるが、無音が好きだった。
画面には、カーナビの地図がついているだけ。
外を見ていた柳が声を「なあ、なあ」と指をさした。
「ん?」
「あそこ、駐車場空いてるって」
さすがに有名な神社ではないからか、夜中に参拝する人はそれほど多くなく、昼間は埋まっているの駅周辺の駐車場も、掲示板には『空』の表示が出ていた。
「参拝でも行くか」
俺が言うと、
「行く行く」
と嬉しそうな返事が返ってきた。
「柳、何歳だっけ?」
「まだ、三十三。なんだよ。幼いって言うんだろ」
「わかってんじゃん」
「他では、大人ぶってんだから、実弥といる時ぐらい、素でいーの」
好奇心に満ちた目は、いたずらっぽく笑っていた。
「変わんないな」
顔立ちは精悍になっても、その表情は幼い頃の柳を思い起こさせた。
「ほっとけ」
ちょっとすねているのか、むすっとした顔になった。
「悪い意味じゃないさ。安心するってこと」
「そっか」
すぐに機嫌が直る。ころころと表情が変わるところは、いつまで経っても同じだ。
車を停車させ、外に出た。
とたんに、身を切るような冷たい風に首をすくめた。
慌てて、後部座席につんでいたマフラーと手袋を取り出した。
「行くか」
柳に声をかけると、くっついてきて、
「さびーっ」
同じように首をすくめている。
柳が横に並ぶと、頭一つ半ほど彼の方が低い。ちらっと顔を向けても、長めの髪が、彼の表情を隠していた。
どんな顔をしているのか見えない。
「寒いなら、いつものように家で飲んでから次の日に参拝でものに」
俺が言うと、柳は「さむくねーし」と言った言葉は歯がかみ合っていない。
柳の上着はジャケットだ。ダウンジャケットを着ている俺だって寒い。
寒くないわけないのに、
「歩いてれば、温かくなんだろ」
強がりが丸わかりだ。そのまま歩いていこうとする柳に、後ろからマフラーを肩にかける。
「巻いてろ。少しは温かいだろう。ほら、手袋も」
「実弥のだろ。いいよ」
「見てる方が寒いから」
「マジ、感謝」
「いいって」
手を合わせようとするので、やめさせた。
辺りはそれなりに暗く、車も人もまばら。駐車場の等間隔に並んでいるライトだけが暗闇を照らしている。
マフラーと手袋をしても、柳は俺にくっつくようにして、神社に向かった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
偽物勇者は愛を乞う
きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。
六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。
偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。
俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる