2 / 10
2
しおりを挟む
靴を脱がせて居間に運び、畳の上に寝かせる。
冬じゃなくてよかった。
起きそうで起きない蒼を置いて、空いている部屋に予備の布団をしいた。
居間に戻って、蒼を布団に移動させた。寝かせてから、スーツのズボンの裾がふくらはぎのあたりまで色が変わり濡れているのが気になった。
「……。悪く思わないでよ」
スーツの上着とズボンを脱がせた。
起きたら驚くだろうが、濡れて風邪をひくよりマシだろう。
ベルトに手をかけたときは、鼓動が速くなったものの、「風邪をひいたら困る……」を呪文のようにとなえてやり過ごした。
蒼のスーツを腕にかけ、部屋を出る。
そのスーツをハンガーにかけてから、スマホのスリープを解除した。
蒼から連絡が来ていたかもしれないと思ったからだったが、それもなかった。
それから僕もシャワーを浴び、遅い夕食を作る。
円卓に夕飯を並べ、柱時計に目をやると、二十時を過ぎていた。
いつもはテレビをつけながら夕飯をつまむところだが、今はなんとなくそんな気分になれず、スマホをいじりながら箸を動かした。
と、廊下を駆けてくる足音がした。構える間もなく、居間の襖が開いた。
「ち、千昌《ちあき》!」
仁王立ちの蒼に、ぎょっとする。お箸を置く前に、蒼が抱きついてきた。
「な、な、なん……」
蒼が僕に抱きついてくるなんて。そんなことってある?
ないないない。
連絡だってかろうじて年賀状のやり取りだけなのに。
「なんてリアルな夢なんだ。千昌がいる千昌の家だ」
耳元でつぶやくように聞こえる。
……夢?
あ、きっとまだ酔っているんだ。
そう結論付けると、戸惑っていた気持ちが落ち着いてきた。
僕は、トントンと背中をたたいてから、蒼を引きはなす。
「この酔っ払い。夢じゃなくて、本物だって」
「へっ……?」
蒼の間の抜けた顔に、笑いがもれる。
「マジで?」
蒼がぺたぺたと感触を確かめようと、首筋や顔をさわってくる。
それがくすぐったくて、笑いが止まらない。
「やめろって。首筋は弱いんだ」
身をよじって、蒼から距離を取った。
「……本物だ」
「だから、そう言ってんのに」
まだ酔いが覚めていないのだろう。ぼんやりとした様子の蒼に、苦笑した。
「ちょっと待ってて。ズボン取ってくるから」
「ん? ズボン?」
蒼が下を向いたとたん、一気に酔いが覚めたような顔をした。
「げ、なんでオレ、パンツなん? オレなにか、やらかした?」
僕はコクリとうなずいた。
「話はあとで。僕のズボンで我慢してよ」
立ち上がり、移動しかけると、
「なんか、ごめん」
小さく謝罪の言葉が聞こえた。
冬じゃなくてよかった。
起きそうで起きない蒼を置いて、空いている部屋に予備の布団をしいた。
居間に戻って、蒼を布団に移動させた。寝かせてから、スーツのズボンの裾がふくらはぎのあたりまで色が変わり濡れているのが気になった。
「……。悪く思わないでよ」
スーツの上着とズボンを脱がせた。
起きたら驚くだろうが、濡れて風邪をひくよりマシだろう。
ベルトに手をかけたときは、鼓動が速くなったものの、「風邪をひいたら困る……」を呪文のようにとなえてやり過ごした。
蒼のスーツを腕にかけ、部屋を出る。
そのスーツをハンガーにかけてから、スマホのスリープを解除した。
蒼から連絡が来ていたかもしれないと思ったからだったが、それもなかった。
それから僕もシャワーを浴び、遅い夕食を作る。
円卓に夕飯を並べ、柱時計に目をやると、二十時を過ぎていた。
いつもはテレビをつけながら夕飯をつまむところだが、今はなんとなくそんな気分になれず、スマホをいじりながら箸を動かした。
と、廊下を駆けてくる足音がした。構える間もなく、居間の襖が開いた。
「ち、千昌《ちあき》!」
仁王立ちの蒼に、ぎょっとする。お箸を置く前に、蒼が抱きついてきた。
「な、な、なん……」
蒼が僕に抱きついてくるなんて。そんなことってある?
ないないない。
連絡だってかろうじて年賀状のやり取りだけなのに。
「なんてリアルな夢なんだ。千昌がいる千昌の家だ」
耳元でつぶやくように聞こえる。
……夢?
あ、きっとまだ酔っているんだ。
そう結論付けると、戸惑っていた気持ちが落ち着いてきた。
僕は、トントンと背中をたたいてから、蒼を引きはなす。
「この酔っ払い。夢じゃなくて、本物だって」
「へっ……?」
蒼の間の抜けた顔に、笑いがもれる。
「マジで?」
蒼がぺたぺたと感触を確かめようと、首筋や顔をさわってくる。
それがくすぐったくて、笑いが止まらない。
「やめろって。首筋は弱いんだ」
身をよじって、蒼から距離を取った。
「……本物だ」
「だから、そう言ってんのに」
まだ酔いが覚めていないのだろう。ぼんやりとした様子の蒼に、苦笑した。
「ちょっと待ってて。ズボン取ってくるから」
「ん? ズボン?」
蒼が下を向いたとたん、一気に酔いが覚めたような顔をした。
「げ、なんでオレ、パンツなん? オレなにか、やらかした?」
僕はコクリとうなずいた。
「話はあとで。僕のズボンで我慢してよ」
立ち上がり、移動しかけると、
「なんか、ごめん」
小さく謝罪の言葉が聞こえた。
23
あなたにおすすめの小説
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
そして永遠になる
三ツ葉りお
BL
有名ロックバンドボーカル(25)✕平凡なサラリーマン(20)
朝目覚めると、そこは自分の部屋ではなく、ホテルのスイートルームだった。自分が寝ているベッドの隣には、見知らぬ男性が寝ていて───。
一夜の過ちから始まるラブコメ。
俺の相棒は距離感がおかしい
夕月ねむ
BL
高ランク冒険者パーティの雑用係だった俺は、養父でもあったパーティリーダーの引退で、新しい仲間を探さなければいけなくなった。現れたのは距離感ゼロの人懐こい男。お試しからと言われてパーティを組んだ。
※FANBOXからの転載です。
※他サイトにも投稿しています。
夜が明けなければいいのに(洋風)
万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。
しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。
そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。
長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。
「名誉ある生贄」。
それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。
部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。
黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。
本当は、別れが怖くてたまらない。
けれど、その弱さを見せることができない。
「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」
心にもない言葉を吐き捨てる。
カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。
だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。
「……おめでとうございます、殿下」
恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。
その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。
――おめでとうなんて、言わないでほしかった。
――本当は、行きたくなんてないのに。
和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。
お楽しみいただければ幸いです。
赤い頬と溶けるバニラ味
hamapito
BL
在宅勤務が選べるようになっても出社し続けているのは、同期の岡野に会うためだった。
毎日会うのが当たり前になっていたある日、風邪をひいてしまい在宅勤務に切り替えた。
わざわざ連絡するのもおかしいかと思ってそのままにしていたけれど……。
*
岡野はただの同期。それ以上でも以下でもない。
満員電車に乗ってでも出社している理由だって「運動不足になりそうだから」って言ってたし。
岡野に会えるのが嬉しい俺とは違う。
*
さよなら、永遠の友達
万里
BL
高校時代、バスケットボール部のキャプテン・基樹と、副部長として彼を支える冷静な舜一。対照的な二人は親友であり、マネージャーの結子を含めた三人は分かちがたい絆で結ばれていた。しかし舜一は、基樹への決して報われない恋心を隠し続けていた。
卒業を控え、基樹との「ずっと一緒にバスケをする」という約束を破り、舜一は逃げるように東京の大学へ進学する。基樹を突き放したのは、彼が結子と結ばれる幸せを近くで見届ける自信がなかったからだ。
10年後。孤独に生きる舜一のもとに、基樹から「結子が事故で亡くなった」という絶望の電話が入る。ボロボロになった親友の悲痛な叫びを聞いた瞬間、舜一の中にあった想いが目を覚ます。仕事もキャリアも投げ出し、舜一は深夜の高速をひた走る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる