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僕のズボンは蒼にとって大きいようだった。
高校の時は、僕のほうが体格的に小さかったのに、この数年で逆転したらしい。
農業は力仕事だから、筋力がついたのかも。
高校のころ色白だった肌も、露出部分は今では小麦色だ。
「ほら、麦茶。冷えてるからどうぞ」
「ありがとう」
蒼は差し出したグラスを受け取ると、一気に飲んだ。
のどがよほど乾いていたのか、空になったグラスにもう一度麦茶を注ぐ。と、それも飲み干してしまった。
「夕飯、食べる?」
「いや。これ以上は迷惑かけられないから」
遠慮する蒼に肩をすくめた。
「迷惑とかいいから。僕一人で食べるのも気まずいし。食べられるんなら一緒に食べない?」
「……お腹は空いてるんだ。もらう。ありがとう」
僕は台所に行って、蒼が起きたら食べるかもしれないと、余分に作っておいた夕飯をお皿に盛りつけて、居間にもどった。
「いただきます」
蒼が箸を動かすのを見て、僕も食べ始めた。
僕が料理を作るようになったのは、祖母が体調を崩してからだ。祖父も料理は作れるけど、僕が困らないように、体調がいいときに包丁の使いかたから教えてくれた。
でも、まだまだ包丁を使うのは苦手だ。
だから、「一緒に食べない?」と誘ったものの、手の込んだ料理はできていない。
今日のメニューは、ごはんと味噌汁。それにキャベツの千切りと生姜焼き。
キャベツの千切りは、スライサーだし、生姜焼きは焼いたらいいだけ。
それに、自家製トマトを切って乗せれば完成。
味も、蒼は「美味い」と言って食べてくれているから問題なさそうで、ほっとした。
沈黙の中、テレビのバラエティ番組でお笑い芸人がしゃべっている声、咀嚼音が部屋に響く。
そこへ、蒼が「千昌」と声をかけてきた。
「なに?」
しょうが焼きにのばした箸を止めた。
「あのさ。急にきてビックリしただろ?」
「びっくりしたさ。だって、帰ってきたら戸口の前に座り込んでいるんだよ」
「ごめんな……」
肩を落とした蒼に、胸がキュンとなる。
蒼は高校時代、どこにいても目立つ存在だった。いつも人が集まってくるような人。
でも、たまに、こんな顔を見せられると、普段とのギャップで妙に惹かれる存在。
会わなくなって六年も経っているのに、以前と変わらず今も、僕はこの姿に弱いらしかった。
僕は、こほんと咳ばらいをして「いいから食べよう」と蒼をうながして、味噌汁をすすった。
「そうだな。せっかく作ってくれたんだ。食べるよ。あっ、千昌」
「ん?」
「今も俺のこと好きなん?」
「……んんっ! げほっ!」
前振りのない、ストレートな質問に、味噌汁が気管に入った。
げほげほと咳き込む僕に、蒼は、
「だ、大丈夫か?」
と、席を立ち、隣で僕の背中を軽くさすってくれる。
咳き込みながら、蒼の質問の意図を考えていた。
高校の時は、僕のほうが体格的に小さかったのに、この数年で逆転したらしい。
農業は力仕事だから、筋力がついたのかも。
高校のころ色白だった肌も、露出部分は今では小麦色だ。
「ほら、麦茶。冷えてるからどうぞ」
「ありがとう」
蒼は差し出したグラスを受け取ると、一気に飲んだ。
のどがよほど乾いていたのか、空になったグラスにもう一度麦茶を注ぐ。と、それも飲み干してしまった。
「夕飯、食べる?」
「いや。これ以上は迷惑かけられないから」
遠慮する蒼に肩をすくめた。
「迷惑とかいいから。僕一人で食べるのも気まずいし。食べられるんなら一緒に食べない?」
「……お腹は空いてるんだ。もらう。ありがとう」
僕は台所に行って、蒼が起きたら食べるかもしれないと、余分に作っておいた夕飯をお皿に盛りつけて、居間にもどった。
「いただきます」
蒼が箸を動かすのを見て、僕も食べ始めた。
僕が料理を作るようになったのは、祖母が体調を崩してからだ。祖父も料理は作れるけど、僕が困らないように、体調がいいときに包丁の使いかたから教えてくれた。
でも、まだまだ包丁を使うのは苦手だ。
だから、「一緒に食べない?」と誘ったものの、手の込んだ料理はできていない。
今日のメニューは、ごはんと味噌汁。それにキャベツの千切りと生姜焼き。
キャベツの千切りは、スライサーだし、生姜焼きは焼いたらいいだけ。
それに、自家製トマトを切って乗せれば完成。
味も、蒼は「美味い」と言って食べてくれているから問題なさそうで、ほっとした。
沈黙の中、テレビのバラエティ番組でお笑い芸人がしゃべっている声、咀嚼音が部屋に響く。
そこへ、蒼が「千昌」と声をかけてきた。
「なに?」
しょうが焼きにのばした箸を止めた。
「あのさ。急にきてビックリしただろ?」
「びっくりしたさ。だって、帰ってきたら戸口の前に座り込んでいるんだよ」
「ごめんな……」
肩を落とした蒼に、胸がキュンとなる。
蒼は高校時代、どこにいても目立つ存在だった。いつも人が集まってくるような人。
でも、たまに、こんな顔を見せられると、普段とのギャップで妙に惹かれる存在。
会わなくなって六年も経っているのに、以前と変わらず今も、僕はこの姿に弱いらしかった。
僕は、こほんと咳ばらいをして「いいから食べよう」と蒼をうながして、味噌汁をすすった。
「そうだな。せっかく作ってくれたんだ。食べるよ。あっ、千昌」
「ん?」
「今も俺のこと好きなん?」
「……んんっ! げほっ!」
前振りのない、ストレートな質問に、味噌汁が気管に入った。
げほげほと咳き込む僕に、蒼は、
「だ、大丈夫か?」
と、席を立ち、隣で僕の背中を軽くさすってくれる。
咳き込みながら、蒼の質問の意図を考えていた。
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