4 / 10
4
しおりを挟む
あれは、高校卒業式が終わった夜。寝る前に蒼へメッセージを打っていた。
進路が違えば、そうそう頻繁に会えなくなってしまう。だったら、ここで気持ちを伝えたいと思ったのだ。
メッセージを打ち終わってからよくよく考えてみれば、同性からの恋愛感情は、蒼にとって重いだけだということに気づいた。
だから、送信はしなかった――のだが、考えているうちに眠くなって寝落ちしたらしい。そして、次の朝、ねぼけてなのか、たまたま手が当たったのかわからないが、告白文は蒼に送られていた。
しかも、取り消そうにも、『既読』済。
その日から、蒼の返事をずっと待っていた。
後悔と不安で、こっぴどく振られる夢を何度も見てしまった。
待っても返信は来ず、電話もなし。ただただ待つ日々が続くばかり。
卒業して一年が経った頃、ようやく諦めもついてきた。
それから六年ほど経った今日、その告白を蒸し返され、僕は羞恥心でここから逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
あのとき返事がなかったのに、どうして、今になって聞くんだよ。
「も、……げほっ、それは、もういいから。 けほけほっ」
僕は、麦茶を飲んだ。
そして、思った。
まさか、その返事をするために会いにきたとか?
ちらっと蒼を見た。目が合うと、ふっと優しい笑みを浮かべた。
「いや、ごめん。そんなに動揺するなんて思ってなくて。今日、ここに来る予定はなかったんだ。急にきて悪かった。ご飯食べ終わったら帰るよ」
蒼は立ち上がり、向かいの席に戻った。
ここに来る予定はなかったのなら、無意識に酔った勢いでぼくの家まで来たってこと?じゃあ、告白の返事をするために僕の家に来たわけではなさそうだ。
でも、どうしてそんなに飲んだんだろう?
それともう一つ気になったことを先に聞くことにした。
「家までの電車はあるの?」
「まだ九時だろ。終電まで間に合うさ」
「明日、仕事?」
そう尋ねると、一瞬、蒼が固まった気がした。
「そうだな」
とすぐに、にっこりとよそ行きの笑みになった。
この笑みを貼り付けた蒼は、知っている蒼じゃなかった。
なんだか線をひかれたと感じた。踏み込んでほしくないのかもしれない。
何年も話していないんだ。
知らない蒼があっても不思議じゃない。
でも、少しさみしい気がした。
それから、僕と蒼は、目の前の夕飯をたいらげ、「帰る」という蒼を、駅まで送っていった。
駅は、田舎の無人駅ともなれば、閑散としている。駅だけが明かりを灯し、暗闇に浮かび上がっている。
人がまばらな駅のロータリーで車を停めた。
「助かった。千昌にはみっともないとこ見せちゃったけど、会えてよかったよ」
ドアの取っ手に手をかけた蒼が言った。
「うん。蒼があんなに酔うまで飲むなんて意外だった。気をつけて帰って」
「ありがとな」
助手席からおりた蒼が、ドアを閉める前に、身を縮めた。
「長い間、連絡せずにごめん。また、近いうちに会いにくる」
「わかった。じゃあな」
「ああ」
ドアを閉めた蒼が、駅の改札を抜けて行くのを見届けて、車を出した。
僕は、「待っている」とは言わなかった。というよりも、言えなかった。来ないかもしれない。そう思っているほうが気が楽だから。
車を運転しながら、六年ぶりに会った蒼と、記憶の中の蒼を照らし合わせていた。
進路が違えば、そうそう頻繁に会えなくなってしまう。だったら、ここで気持ちを伝えたいと思ったのだ。
メッセージを打ち終わってからよくよく考えてみれば、同性からの恋愛感情は、蒼にとって重いだけだということに気づいた。
だから、送信はしなかった――のだが、考えているうちに眠くなって寝落ちしたらしい。そして、次の朝、ねぼけてなのか、たまたま手が当たったのかわからないが、告白文は蒼に送られていた。
しかも、取り消そうにも、『既読』済。
その日から、蒼の返事をずっと待っていた。
後悔と不安で、こっぴどく振られる夢を何度も見てしまった。
待っても返信は来ず、電話もなし。ただただ待つ日々が続くばかり。
卒業して一年が経った頃、ようやく諦めもついてきた。
それから六年ほど経った今日、その告白を蒸し返され、僕は羞恥心でここから逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
あのとき返事がなかったのに、どうして、今になって聞くんだよ。
「も、……げほっ、それは、もういいから。 けほけほっ」
僕は、麦茶を飲んだ。
そして、思った。
まさか、その返事をするために会いにきたとか?
ちらっと蒼を見た。目が合うと、ふっと優しい笑みを浮かべた。
「いや、ごめん。そんなに動揺するなんて思ってなくて。今日、ここに来る予定はなかったんだ。急にきて悪かった。ご飯食べ終わったら帰るよ」
蒼は立ち上がり、向かいの席に戻った。
ここに来る予定はなかったのなら、無意識に酔った勢いでぼくの家まで来たってこと?じゃあ、告白の返事をするために僕の家に来たわけではなさそうだ。
でも、どうしてそんなに飲んだんだろう?
それともう一つ気になったことを先に聞くことにした。
「家までの電車はあるの?」
「まだ九時だろ。終電まで間に合うさ」
「明日、仕事?」
そう尋ねると、一瞬、蒼が固まった気がした。
「そうだな」
とすぐに、にっこりとよそ行きの笑みになった。
この笑みを貼り付けた蒼は、知っている蒼じゃなかった。
なんだか線をひかれたと感じた。踏み込んでほしくないのかもしれない。
何年も話していないんだ。
知らない蒼があっても不思議じゃない。
でも、少しさみしい気がした。
それから、僕と蒼は、目の前の夕飯をたいらげ、「帰る」という蒼を、駅まで送っていった。
駅は、田舎の無人駅ともなれば、閑散としている。駅だけが明かりを灯し、暗闇に浮かび上がっている。
人がまばらな駅のロータリーで車を停めた。
「助かった。千昌にはみっともないとこ見せちゃったけど、会えてよかったよ」
ドアの取っ手に手をかけた蒼が言った。
「うん。蒼があんなに酔うまで飲むなんて意外だった。気をつけて帰って」
「ありがとな」
助手席からおりた蒼が、ドアを閉める前に、身を縮めた。
「長い間、連絡せずにごめん。また、近いうちに会いにくる」
「わかった。じゃあな」
「ああ」
ドアを閉めた蒼が、駅の改札を抜けて行くのを見届けて、車を出した。
僕は、「待っている」とは言わなかった。というよりも、言えなかった。来ないかもしれない。そう思っているほうが気が楽だから。
車を運転しながら、六年ぶりに会った蒼と、記憶の中の蒼を照らし合わせていた。
21
あなたにおすすめの小説
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
そして永遠になる
三ツ葉りお
BL
有名ロックバンドボーカル(25)✕平凡なサラリーマン(20)
朝目覚めると、そこは自分の部屋ではなく、ホテルのスイートルームだった。自分が寝ているベッドの隣には、見知らぬ男性が寝ていて───。
一夜の過ちから始まるラブコメ。
夜が明けなければいいのに(洋風)
万里
BL
大国の第三皇子・ルシアンは、幼い頃から「王位には縁のない皇子」として育てられてきた。輝く金髪と碧眼を持つその美貌は、まるで人形のように完璧だが、どこか冷ややかで近寄りがたい。
しかしその裏には、誰よりも繊細で、愛されたいと願う幼い心が隠されている。
そんなルシアンに、ある日突然、国の命運を背負う役目が降りかかる。
長年対立してきた隣国との和平の証として、敵国の大公令嬢への婿入り――実質的な“人質”としての政略結婚が正式に決まったのだ。
「名誉ある生贄」。
それが自分に与えられた役割だと、ルシアンは理解していた。
部屋に戻ると、いつものように従者のカイルが静かに迎える。
黒髪の護衛騎士――幼い頃からずっと傍にいてくれた唯一の存在。
本当は、別れが怖くてたまらない。
けれど、その弱さを見せることができない。
「やっとこの退屈な城から出られる。せいせいする」
心にもない言葉を吐き捨てる。
カイルが引き止めてくれることを、どこかで期待しながら。
だがカイルは、いつもと変わらぬ落ち着いた声で告げる。
「……おめでとうございます、殿下」
恭しく頭を下げるその姿は、あまりにも遠い。
その淡々とした態度が、ルシアンの胸に鋭く突き刺さる。
――おめでとうなんて、言わないでほしかった。
――本当は、行きたくなんてないのに。
和風と洋風はどちらも大筋は同じようにしようかと。ところどころ違うかもしれませんが。
お楽しみいただければ幸いです。
愛と猛毒(仮)
万里
BL
オフィスビルの非常階段。冷え切った踊り場で煙草をくゆらせる水原七瀬(みずはらななせ)は、部下たちのやり取りを静かに見守っていた。 そこでは村上和弥(むらかみかずや)が、長年想い続けてきた和泉に別れを告げられていた。和泉は「ありがとう」と優しく微笑みながらも、決意をもって彼を突き放す。和弥は矜持を守ろうと、営業スマイルを貼り付けて必死に言葉を紡ぐが、その姿は痛々しいほどに惨めだった。
和泉が去った後、七瀬は姿を現し、冷徹な言葉で和弥を追い詰める。 「お前はただの予備だった」「純愛なんて綺麗な言葉で誤魔化してるだけだ」――七瀬の毒舌は、和弥の心を抉り、憎悪を引き出す。和弥は「嫌いだ」と叫び、七瀬を突き放して階段を駆け下りていく。
「……本当、バカだよな。お前も、俺も」
七瀬は独り言を漏らすと、和弥が触れた手首を愛おしそうに、そして自嘲気味に強く握りしめた。
その指先に残る熱は、嫌悪という仮面の下で燃え盛る執着の証だった。 毒を吐き続けることでしか伝えられない――「好きだ」という言葉を、七瀬は永遠に飲み込んだまま、胸の奥で腐らせていた。
俺の相棒は距離感がおかしい
夕月ねむ
BL
高ランク冒険者パーティの雑用係だった俺は、養父でもあったパーティリーダーの引退で、新しい仲間を探さなければいけなくなった。現れたのは距離感ゼロの人懐こい男。お試しからと言われてパーティを組んだ。
※FANBOXからの転載です。
※他サイトにも投稿しています。
大事な呼び名
夕月ねむ
BL
異世界に転移したらしいのだが俺には記憶がない。おまけに外見が変わった可能性があるという。身元は分からないし身内はいないし、本名すら判明していない状態。それでも俺はどうにか生活できていた。国の支援で学校に入学できたし、親切なクラスメイトもいる。ちょっと、強引なやつだけどな。
※FANBOXからの転載です
※他サイトにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる