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蒼とは、高二のときに初めて同じクラスになった。次の年も同じクラスだった。
出会った最初のうちは、僕が蒼を敬遠していた。
陽気で明るく、教室にいれば必ず蒼の笑い声が聞こえてくる、そんな彼とは縁がないと思っていたのだ。
クラスの中にいて地味で目立たない僕のあだ名は、地蔵。
同じ中学だった奴が、僕のことを『地蔵』と触れ回ったことがきっかけらしい。
ということをあとで蒼から聞いた。
でも、それは正しいはずで、無口でぼんやりしている僕が中学校の時からそう呼ばれているのは知っていた。
それに反論するのも面倒でほったらかしにしておいたが、高校までそのあだ名で呼ばれるとは思ってもみなかった。
無口な僕が、蒼と仲良くなったきっかけは、蒼が僕の家の近くを通ったとき、植木越しに見える大きな向日葵だった。
僕が学校から家に帰ってくると、その向日葵を自転車にまたがったままじっと見ている人がいた。
すぐにその人物が蒼だと分かったわけじゃない。僕がそれほど他人に興味がなかったのと、私服だったからいつもと見た目が違っていたのが理由だ。
蒼の方が先に「新井田」と僕に気づいて声をかけてきた。
よくよく顔を見て、やっと同じクラスの横山蒼だと姿と名前が一致したのだ。
なんでも、向日葵を探していたらしい。
それも大きい向日葵。自分よりも背が高く、より大輪の花を。
理由を聞くと、
地域起こしの一環で、いい案がないかと問われたんだそうだ。
「で、夏祭りを企画していて、その一つに向日葵で迷路を作れないかなと思ってさ。今年は違うのをするとして、来年できればいいなって」
蒼はこのときから人望も厚く、生徒会に入っていた。
その次の年、三年生では蒼は生徒会長を務めていたっけ。
「新井田。この向日葵の種。よかったらゆずってくれない?」
と、聞かれ、じいちゃんに話をつないだり、種まきを手伝ったりして交流を持った。
僕が蒼に惹かれたのは、一緒にいて優しいとか、楽しいからだけじゃない。
あれは三年生になって、向日葵の種で迷路を作ろうとしていたときだ。
人がいない教室で、自席に座って頭を抱えている蒼がいた。
扉を開ける前にガラス越しに見えたその姿は、苦悶に満ち、引き戸の取っ手に手をかけたまま開けることができなかった。
蒼はなんでもそつなくこなしていたから、夏祭りだって難なくこなしていると思っていた。でも、違っていた。
扉の向こうからは、「……違う。これじゃダメだ。……しっかりしろ、俺!」
と、悶々と苦慮している声がかすかに聞こえてくる。
僕は、戸を開けずに家に戻った。
僕が蒼だったら、今まで見せずにいた姿を見られたくなかったから。
でも、彼の普段とは違う一面を知ってから、蒼が気になってつい目で追うようになった。
恋に落ちてしまったのは、夏祭りの向日葵の迷路――ではなく、家の庭で種を実らせて下を向いた向日葵の前でだった。
出会った最初のうちは、僕が蒼を敬遠していた。
陽気で明るく、教室にいれば必ず蒼の笑い声が聞こえてくる、そんな彼とは縁がないと思っていたのだ。
クラスの中にいて地味で目立たない僕のあだ名は、地蔵。
同じ中学だった奴が、僕のことを『地蔵』と触れ回ったことがきっかけらしい。
ということをあとで蒼から聞いた。
でも、それは正しいはずで、無口でぼんやりしている僕が中学校の時からそう呼ばれているのは知っていた。
それに反論するのも面倒でほったらかしにしておいたが、高校までそのあだ名で呼ばれるとは思ってもみなかった。
無口な僕が、蒼と仲良くなったきっかけは、蒼が僕の家の近くを通ったとき、植木越しに見える大きな向日葵だった。
僕が学校から家に帰ってくると、その向日葵を自転車にまたがったままじっと見ている人がいた。
すぐにその人物が蒼だと分かったわけじゃない。僕がそれほど他人に興味がなかったのと、私服だったからいつもと見た目が違っていたのが理由だ。
蒼の方が先に「新井田」と僕に気づいて声をかけてきた。
よくよく顔を見て、やっと同じクラスの横山蒼だと姿と名前が一致したのだ。
なんでも、向日葵を探していたらしい。
それも大きい向日葵。自分よりも背が高く、より大輪の花を。
理由を聞くと、
地域起こしの一環で、いい案がないかと問われたんだそうだ。
「で、夏祭りを企画していて、その一つに向日葵で迷路を作れないかなと思ってさ。今年は違うのをするとして、来年できればいいなって」
蒼はこのときから人望も厚く、生徒会に入っていた。
その次の年、三年生では蒼は生徒会長を務めていたっけ。
「新井田。この向日葵の種。よかったらゆずってくれない?」
と、聞かれ、じいちゃんに話をつないだり、種まきを手伝ったりして交流を持った。
僕が蒼に惹かれたのは、一緒にいて優しいとか、楽しいからだけじゃない。
あれは三年生になって、向日葵の種で迷路を作ろうとしていたときだ。
人がいない教室で、自席に座って頭を抱えている蒼がいた。
扉を開ける前にガラス越しに見えたその姿は、苦悶に満ち、引き戸の取っ手に手をかけたまま開けることができなかった。
蒼はなんでもそつなくこなしていたから、夏祭りだって難なくこなしていると思っていた。でも、違っていた。
扉の向こうからは、「……違う。これじゃダメだ。……しっかりしろ、俺!」
と、悶々と苦慮している声がかすかに聞こえてくる。
僕は、戸を開けずに家に戻った。
僕が蒼だったら、今まで見せずにいた姿を見られたくなかったから。
でも、彼の普段とは違う一面を知ってから、蒼が気になってつい目で追うようになった。
恋に落ちてしまったのは、夏祭りの向日葵の迷路――ではなく、家の庭で種を実らせて下を向いた向日葵の前でだった。
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