ハラヘリヴィーナス

雅誅

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【42】2006年6月8日 0:28・自室・晴れ。真夜中(レン視点)。

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「レン、・・・レンッ。そろそろ起きてください」

ユアルの声と共に体が軽く揺さぶられる。



「あ、ユアル?おはよう。今何時?」

「はい、深夜0時28分ですね」

「えッ!?」


私はそこで飛び起きた。

「ごめん!!だいぶ寝ちゃってたよね?」

ユアルは慌てる私を落ちつかせるために両肩に手をそえる。

「大丈夫、落ち着いてください。十分、レンの可愛い寝顔を堪能させていただきましたから」


そう言いながらユアルは私の肩を撫でるように、手を上下に動かした。

前言撤回、下心からの行為だと瞬時に把握する。




部屋の電気が消えているので、まだ暗闇に目が慣れていないが何となくユアルがどういう表情をしているのか想像できた。

《ん?電気が消えてる?》

「っていうか!!」

私は違和感に気づいてユアルの手を払いのけ、リモコンで部屋の電気をつけると急いでベッドから距離をとった。




「ユアル、私部屋の鍵かけてたんだけどどうやって入ったの?」

「フフフ・・・おまかせくださいッ」

想像通り恍惚の表情で答えるユアルを見て何かされていないか体の色んな部分を触って確認する。


《特に、何もされてはいないかな?たぶん》


変な違和感は特になかった。が、警戒モードのままユアルから距離をとり続けることにした。

「まさか私がレンにいかがわしいことをしたとでも思っているのですか?」

「イヤ、信じてはいるけど、一応念のためね?」

「ヒドイですよぅ」

子供が泣くような稚拙なポーズで泣き真似をするユアル。

「あぁ、そういうのイイから」

私はすかさずツッコミを入れてユアルの可愛さアピールを斬って捨ててやった。



今はユアルのお遊びにつきあってる暇はない。何故なら気がおかしくなりそうなくらい、今日という日を待ちわびていたのだから。

「そうだ、アイナは?」

「『今日はやめておく』とのことです」

「そっか。たしか自室で何かやってたんだっけ?」

「えぇ。なので、今日は私とレンの2人きりですよ?」

ユアルが頬に手をあてて意味ありげに微笑んだ。

「はいはい、分かった分かった」

「フフフ。それではさっさとココから出ましょうか?」

「ちょ、ちょっと声がデカイって!!」

私は慌ててユアルの口を塞ぐ。

「盗聴とか盗撮されてる可能性だってあるんだからッ!小声で喋ってよッ」


「ンフフフ」

「笑いごとじゃないでしょ?ヒャッ!?」


ユアルはこともあろうに私の手をベロベロと舐めはじめた。

「な、何すんのよ!?」

私は軽くパニックを起こしそうになりながらも慌ててユアルの口から手を離す。

「しー。お静かにレン。声が大きいですよ?」

「このッ!」

怒鳴れない状況に乗じてさっきのお返しと言わんばかりに皮肉を返された。いくら防音性能が優れていても万が一ということもあるので今は黙るしかない・・。



「レン?」

「え?何?」

ユアルが少し真面目な表情で私を見ている。


「ちょっと!いきなり真面目にならないでよ。どうしたの?」

「美味しゅうございました」

「・・・キモッ」


私が引いているのをよそに自分の世界に浸ってお礼まで述べてくる変態ユアル。さすがに辛辣なリアクションしかとれない。

「さて、冗談はこのくらいにして」

「いまさら取り繕っても遅いけどね」

「コホン。えー、レン。私の話を黙って聞いててくださいね?」


「はいはい」

「まずはじめにレンの心配ごとである盗聴・盗撮の件についてですが、先に結論から申し上げると気にする必要はまったくございません」

「え?でも」



「レ~ン~?」


ユアルが鼻の前に人差し指を立てて、騒いでる子供を注意するような素振りを見せた。

「はーい」


「私は毎日家の隅々までチェックしておりますが、そういう異物は今まで1度も仕掛けられた痕跡はないですね。逆に言うとレン、あなたはお祖父様からそれだけ信頼されているということでしょう」


ユアルがそう言うのなら、きっとそうなんだろう。いったい、どうやって調べているのかは知らないけど。変態的な言動はさておき私はユアルを絶対的に信じている理由があった。


「その盗聴器とか探せるのも『魔法』ってヤツなの?」

「そうですねー。まぁ、似たようなモノですかね」

「ふ、ふ~ん・・・」


《何か適当にはぐらかされたような気が》

「詳細を話しても今は理解できないでしょうから説明は省かせて頂きますね。それで先程の話に戻りますと、私はこの家にいる者の人数や容姿から家具・シャーペンの1本ですら完全リアルタイムに把握可能なんです」


「なにそれスゴイ。でも、それって外出中は無意味なんじゃ」

「鋭いご指摘ありがとうございます。そして、ご安心ください。私が学校にいる場合でも、仮にこの家に侵入者が現れれば瞬時に探知して迎撃できます。対象はネズミやゴキブリをはじめ生命体以外だろうが何だろうが探知可能です。なので、盗聴器なるものが仕掛けられた場合は必ずレンやアイナに知らせた上で対処します」


《何でもアリか》


「ただ、授業中などレンに話しかけらない場合は独断での対処になってしまいますが。いかがでしょう、レン?」

どうやらユアルは私が想像している数倍スゴイのかもしれない。


「そういう場合は、仕方ないよね。ユアルに任せる」

「ありがとうございます♪」

「じゃあ、今日まで盗聴・盗撮に怯えた9ヶ月間って無駄だったってこと?」

「フフフ、残念ながら。ただし、私にも色々とやることがありましたのでレンの用心深さは正しかったと思います」


私は本邸からの差し金で盗聴器や盗撮機器が仕込まれていると思いこみ、極力家ではユアルやアイナと余計な話をしないように注意しながら生活してきた。しかし、ユアルの言う通りお祖父様は私を信頼してくれていたらしい。

ちょっと嬉しかった。と、同時にお祖父様や本邸の人間を疑ってしまったことが少し悲しかった。


「そっか。あ、えっと、それでその。もう外出しても良いの?」


「あらあら、私ったらごめんなさい。すぐに準備をしますので少々お待ち下さいね」

ユアルが人差し指を私に向けて何かつぶやいた。

「 ミラジュレンス 」

「ん?」


気のせいか一瞬だけユアルの指が光ったように見えた。ユアルに何かしらの魔法だか能力だかを使われたっぽいが、自分の姿を確認しても特に変わったところは見受けられない。

「今のなに?」

「フフフ、窓をご覧ください」

「え?窓?・・・あ!」

私は窓を見てユアルに何をされたのか理解した。


「私が窓に映ってない?」

「はい、これは相手に認識されたくない場合に大変便利なんです。認識されないどころか、障害物の干渉も受けません」


「干渉すらされない??」

「実際に試してみた方が早いでしょう。では、行きましょうレン?」

「う、うん。あ、そうだ、ユアル」

「はい?」

「今日はその・・・私1人の判断で最初から最後までやってみたいんだけど良いかな?ほら、今日で3回目だし、そろそろ独り立ちじゃないけど・・・」

「レンッ!!」


ユアルが真顔で大声をあげる。私は少し体をビクつかせて驚いてしまった。

「あ、やっぱりダメ??」

「いいえ!素晴らしいと思います!」


「ありがとう。あともう一つ勝手なお願いがあるんだけど」

「大丈夫ですよ、フォローは私におまかせくださいッ」

ユアルは私が言わんとしていることをすぐに理解してくれたようだった。しかし、こうもあっさりユアルが了承してくれるとは思わなかった。意外な反応が返ってきて少し拍子抜けというかホッとした。ユアルやアイナと数ヶ月間一緒に過ごしてきたがまだまだ2人の知らない部分がたくさんある。



アイナはまだ分かりやすい性格なので絡みやすいがユアルは何を考えているのか分からないことがほとんどで対応に困ることも多い。


ユアルのことを知ろうとしてもいつの間にか私ばかり本性を晒しているような気がする。イヤ、そもそもユアルに何かの分野で勝とうとすること自体、無謀・無駄であることは最近学んだはずだ。見えない壁にぶつかっているのに何故進むことができないのか理解していない感じ。



まさにユアルはその見えない壁。突破することも破壊することもできない。私は今日までユアルが『壁』であることすら認識できないレベルだった。そして致命的なのは、そんな本性を見せてくれない魔法だか能力だかの不思議な力を使う相手を私は絶対的に信じているというどうしようもない矛盾を抱えていることだ。




このユアルに対する盲目的または隷属的な関係性、これもまた私の悩みの1つだった。本性はさておきユアルとアイナは今間違いなく私の中で『怒らせるとヤバい人物ランキング』の2位と3位に君臨している。

アイナが3位、ユアルが2位で1位は言わずもがなお祖父様という不動の王者だ。



ユアルに関して言えばお祖父様とほぼ同列だが、一応身内でかなりお世話になっているので尊敬と畏怖の念を込めてお祖父様が1位という結果になっている。

「レン?」

「えッ?何?」

背後から急に声をかけられ我に戻る。振り向くとユアルは既に部屋のドアの前に立っていた。


「そろそろ行きましょうか?」


「うん。そだね」

《ココから先は油断禁物。気合入れなきゃ、遊びじゃないんだから。って!!》


「え?ちょっと!ユアル何してんの?!!!」


ユアルがドアに向かって歩きだしたかと思うと、速度を緩めずにドアへ突進した。だが心配したのも束の間、ユアルの体がスーっとドアをすり抜けてしまった。


「さ、レンも私に続いてください」


ドアの向こうからユアルの声が聞こえる。

「なるほど、鍵がかかっていても侵入できるわけだ。これはチートどころの騒ぎじゃないね」


ユアルみたいな敵がいたら機密保持そのものが無意味になってしまう。スゴすぎて呆れてしまった私はトボトボと歩いてドアをすり抜けた。



「よくできましたッ。さ、とっとと行きましょう♪」


「は~い」


気のせいか今夜のユアルはどこか楽しそうに見えた。

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