「父を愛した」父を憎んだ。

ポンポコポーン

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「観覧車で別れた」ふたりっきり。

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「吉野川遊園地」に、ボクと弟、そして叔母の3人で来ていた。

家族で遊びに行くといえばここやった。
特に、父の羽振りの良かった時には、月に1度は連れてきてもらった。
家族みんなで遊んで・・・そして、夜には鱧を食べる・・・寿司、冬ならフグ。
それが幸せやった・・・・


弟はまだ小さくてほとんどの乗り物に乗れない。

売店で、叔母に仮面ライダーの人形を買ってもらった。
同じものをボクと弟に。
キーホルダーになっていて10cmくらい。ゴムでできていて、中に針金の芯が入っている。
自由に動いて、好きなポーズをつくることができた。


メリーゴーランドに弟と二人で乗った。・・・身長制限に弟はギリギリセーフやった。
隣で弟がボクにしがみつく。
もう片方の手に仮面ライダーを握りしめていた。
ボクは遠心力で弟が転ばないように抱きしめる。



お昼ご飯。
ボクたちは屋外のテーブル席についた。
テーブルには売店で買った、たこ焼きやお好み焼きが並んでいる。
ボクは食べながら弟を見ていた。
弟が黙々と食べている。
叔母はあまり喋らなかった。
ボクも喋らなかった。


弟と手を繋いで、ふたりで乗れるものには全部乗っていく・・・叔母が一緒に乗ることはなかった。

天気が良かった。秋晴れ。・・・動けば汗ばむ・・・・遊園地で遊ぶには一番の天気やった。
売店でアイスクリームを買った。

観覧車乗り場に並ぶ。
係員に誘導される・・・手を繋いでふたりで乗り込む。

観覧車が上っていく・・・・視界がどんどん広がっていく・・・
ボクはアイスクリームを頬張りながら外を見ていた。

「高っかいなぁ・・・・」

隣では弟が・・・前の席で、ひとりで座らせるのは危ないから隣や・・・・弟が、外の景色を見ることなく両手でアイスクリームと格闘していた。

食べ終わったボクは弟を見ていた。

狭いゴンドラでふたりっきりや。
ふたりっきりでいた。・・・・誰も邪魔しない。ふたりっきりや。

てっぺんに届いた・・・・・前にも後ろにも他のゴンドラはいない。
広い空の中・・・秋晴れ、雲ひとつない綺麗な蒼空・・・・真蒼や・・・・そこで、ふたりっきり・・・・ふたりっきりだ。


ボクと弟はふたりっきりの兄弟や。


観覧車が下りに差しかかる・・・・ゆっくりと、ゆっくりと降りていく・・・・
不意に、弟が口を動かしながら残りのアイスを差し出した。

「ごっちゃまか?」

頷く弟。口の周りがベタベタや。
アイスを受け取り、クリームを一気に食べた。コーンを咥えてポケットからハンカチを取り出した。
弟の口のまわりを拭く。
ボクのハンカチは仮面ライダー「BLACK」や・・・・弟のポケットに入っているのは仮面ライダー「RX」・・・間違えないようにと母さんが兄弟で違うのを買ってくれた。
弟が手を差し出す。アイスを食べるのに預かっていた仮面ライダーを渡した。

8歳違いやった。
兄弟ゲンカになるような年齢差やない。

父の人生を賭けたギャンブルは「負け」と出た。
会社の財産、トラックは全て持って行かれ・・・・家屋敷すら持っていかれた。

それ以来、学校が終われば、まっすぐに家に帰って弟の面倒を見るのがボクの毎日やった。

学校に残って野球をすることもない。友達と遊ぶこともない。・・・転校した学校に友達はいない・・・
真っすぐに家に帰って弟の面倒をみた。
弟は、たったひとりで、昼は、母の作った弁当を、まだ、箸さえ満足に使えない手で・・・3匹の子ブタのフォークで・・・ひとりで食べていた。・・・・ひたすらボクの帰りを待っていた。
ボクの帰りだけを待っていた。
ボクが玄関の鍵を開けると

「カァくーーーん!」

いつも、飛び出してボクを迎えてくれた。

日曜も、母の仕事は休みやない。
ボクは1日、まる1日弟と一緒にいた。
一緒に、お砂場セットを持って公園に行った。
弟にとって、唯一、日曜だけが、昼間から公園で遊べる日やった。

日曜の昼ご飯はボクが作った。・・・・・といったところでインスタントラーメンやったけど。

「ちびろく」というインスタントラーメンがあって・・・・せんだみつおがCMをやっていた。
通常の袋麺の半分の麺が6個入っていた。
3歳の弟は、ふつーの袋麺1個を食べられない。
弟に「ちびろく」1個、ボクは2個、それがふたりの日曜日の昼ご飯やった。


弟を見ていた・・・
仮面ライダーの人形で遊ぶ弟を見ていた。

・・・・父ゆずりの長いまつ毛、大きな目・・・・ボクは母に似たな・・・・

可愛かった・・・・ヒイキ目じゃなくても弟は可愛かった。・・・・ほかの・・・誰の弟より可愛かった。
自慢のサイクリング車の後ろに、弟を乗せて走った。


・・・・・ボクらは・・・・ボクらは、ずーーーーーっと一緒におったんや!!!


観覧車が地上についた。
係員が扉を開けた。

弟と手を繋いで降りた。



ゲームセンターにいた。
弟は、幼児用の遊び場所にいた。何人かの幼児がいる。・・・・叔母が見守っていた。

ボクは、そこを離れてドライブゲームで遊ぶ。

やっぱり父の影響なんやろう・・・運転するゲームが一番好きやった。
・・・父が、速く運転する方法を教えてくれた・・・・

数種類のゲームを一通り遊んだ。

・・・・・叔母の元に戻った。
弟は叔母に抱かれていた。
今にも寝落ちしそうや・・・・・
叔母とボクの目が合った・・・・・・
ボクは頷いた。
・・・・・・・回れ右をして、その場を離れた。

真っすぐ歩く・・・・真っすぐ歩く・・・・振り返らなかった。


遊園地を出た。
ひとりで電車に飛び乗った。まだ乗客が少なかった。・・・座れた。

仮面ライダーの人形でいろんなポーズをつくった。


口ずさんだ・・・・仮面ライダーの歌を口ずさんだ・・・・


電車に乗客が少し増えていた。
やがてアナウンスが聞こえ電車が走り出した。

街中を電車が走っていた。乗客が増えていた。
ボクは片手に仮面ライダーを握りしめていた。

「ピョコン、ペタン、ピッタンコ・・・・」

窓から外を見ていた・・・・蒼空や・・・・綺麗な綺麗な・・・観覧車で見た蒼空や・・・「ド根性ガエル」を口ずさむ。

「ド根性ガエル」が好きやった。
夕方4時頃か、再放送を延々とやっていた。・・・・何年やってんねやろ・・・

努力や根性や・・・・そんなものとは無縁の・・・・ただ、平和な毎日のドタバタを繰り返していた。
それを見ながら、弟とふたりでラーメンを食べるのが、一番幸せな時間やった。
・・・・母が帰ってくるのは、まだ先や。・・・オヤツ代わりに毎日ふたりで「ちびろく」ラーメンを食べた・・・

「ド根性ガエル」を歌い続けた。

仮面ライダーを握っていた。
もう片方に汚れたハンカチを握りしめていた。・・・仮面ライダー「RX」や・・・・弟のハンカチと交換した・・・・観覧車で勝手に交換した。
弟のポケットにはボクのハンカチを入れといた。


「弟を養子に出す」

そう決めたとて、3歳の幼児が、ひとりで松山に行くなど、うんと言うはずがない。
・・・・そこで、執られたのが、この方法やった。

今ごろ、叔母は・・・

「カァくん遅いねぇ・・・カァくんも後から来るんやよ・・・・」

そう騙し騙し、弟を松山に連れて行ってるんやろう・・・・


10歳やった・・・弟は3歳やった。
・・・・ボクは・・・あと3日で誕生日やった。

涙は出なかった。
涙は、昨日、出尽くした。

・・・・昨日、目が腫れるまで・・・畳に染みを作るまで泣いた。
もう涙も出ない。


秋の空。・・・・ええ天気や・・・・

「ド根性ガエル」を歌い続けた。・・・・始まりの歌、終わりの歌・・・・何回も、何回も歌い続けた・・・・


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