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しばらく続いた平原も進むにつれて徐々に辺りから針葉樹が現れるようになり、やがて道の周りは先ほどと同じような深い針葉樹林に囲まれてしまった。峠の入口とは違い平坦な坂道ではあるのだが、不自然なことに右へ曲がれば今度は左へ曲がるといったことを繰り返し、まるで蛇の体のような峠道であった。そのせいか道の先は雪の白さではなく、不安を感じるような針葉樹林の深緑色に染まっている。
普通なら気味の悪い空間ではあるものの、旅人と魔物は何も気にせずにただ平然とした様子で歩いているのであります。
歩いている最中はしばらく沈黙が続いていたのだが、それに飽きた魔物は横にいる旅人に話しかけ始めた。
「よく平気でいられるね」
旅人は普通に答えた。
「こんなもんさ」
「怖くないの?」
「どうして?」
「だってこんなに深い林よ、普通の人間なら恐れて行かないわよ」
「別に問題ないかな」
「それに私はこの峠にいる魔物と呼ばれている者なのよ、いつかあなたを襲うのかもしれませんのに——」
「大丈夫さ、むしろ君がいるおかげで進みやすいかもね」
「全く——、私は道案内なんかしませんからね!」
「構いませんよ、進めばいいものですから」
旅人は薄く白い息を吐き、帽子を片手で整えながら歩く。
「やっぱり変わってるわ」と小さい独り言を言い、魔物は左の林を見ながらついてゆくのであった。
右へ曲がって左へ曲がりとややこしい道が長く続いていたが、今度はそれに上り坂が追加されてさらに険しい峠道へと変化する。しかも上り坂は馬が転げそうなほどの急斜面で、その上雪が積もっているのでとても滑りやすく歩けるような道ではない。
それでも旅人は躊躇うこともなく進み出したのだ。上り始めると滑り落ちるどころか足を磁石のようにピタリと地面へくっつけながらスラスラと軽く歩いてゆくのである。
この行動に「人間なのか?」ととても疑ってしまうほど魔物は旅人の能力に驚き、後ろから眺めるのであった。
三百メートルほど登り続けてゆくと峠道の先からあの無のような白さに覆われた光景が現れ、ついに蛇のようなクネクネ道が終わったのである。
登り切った旅人はクタクタに疲れているどころか何か物足りないような感じの様子であり、後ろから追いかけてきた魔物もこれには恐ろしく見えたのでした。この旅人は只者ではない、そう感じたのである。
険しい曲がり坂から抜け出したその先で旅人が目にしたのは、最初の峠道から見たあの白い空間。深い針葉樹林が一斉に消え、空も地面も白く覆われた平原であった。
旅人は道を間違えて元の所に戻ってしまったのかと考えたが、よく見ると地面に積もる雪は四角いバターの面と横一文字に伸びた地平線ではなく、荒れる海のような波模様の形をしており、それが大海原の如く一面に広がっていたのです。
これも不思議な光景ではあるが旅人はそれを美しく感じ、帽子の下からゆっくりと眺めるのである。後ろにいる魔物は旅人の横隣に行くと少し笑みを浮かべながら伝えた。
「どう? 綺麗でしょ?」
旅人は白い息を吐きながら返事した。
「君が作ったのかい?」
「そうよ、この峠の魔物でありますから」
「美しいよ」
珍しく褒める旅人に魔物は嬉しそうに照れるのだった。
「何故これを?」
魔物は答えた。
「海よ」
「海?」
「私は夏を見るのが夢なのよ、だからここに
夏をイメージして作ったのさ」
「なるほどね、良い波模様だよ」
「ありがとう」
そう言うと魔物は旅人の目を見て一瞬だけ笑った。その時の旅人の目には無邪気に喜ぶ人間の少女の姿が見えたのであります。
「あなたの国の夏はこんな感じ?」
「ああ、似ているよ」
二人の何気ないやり取りはこの寒く白い空間の中で少しずつ暖かくなっていたのでした。
旅人はしばらくこの雪景色を眺めた後、「ここを歩いていいかい?」とそう囁くと、魔物は笑顔で「はい」と答え、二人は波模様の雪の中をゆっくりと歩き出すのでした。波模様の雪につく足跡はやはり一つだけであった。
普通なら気味の悪い空間ではあるものの、旅人と魔物は何も気にせずにただ平然とした様子で歩いているのであります。
歩いている最中はしばらく沈黙が続いていたのだが、それに飽きた魔物は横にいる旅人に話しかけ始めた。
「よく平気でいられるね」
旅人は普通に答えた。
「こんなもんさ」
「怖くないの?」
「どうして?」
「だってこんなに深い林よ、普通の人間なら恐れて行かないわよ」
「別に問題ないかな」
「それに私はこの峠にいる魔物と呼ばれている者なのよ、いつかあなたを襲うのかもしれませんのに——」
「大丈夫さ、むしろ君がいるおかげで進みやすいかもね」
「全く——、私は道案内なんかしませんからね!」
「構いませんよ、進めばいいものですから」
旅人は薄く白い息を吐き、帽子を片手で整えながら歩く。
「やっぱり変わってるわ」と小さい独り言を言い、魔物は左の林を見ながらついてゆくのであった。
右へ曲がって左へ曲がりとややこしい道が長く続いていたが、今度はそれに上り坂が追加されてさらに険しい峠道へと変化する。しかも上り坂は馬が転げそうなほどの急斜面で、その上雪が積もっているのでとても滑りやすく歩けるような道ではない。
それでも旅人は躊躇うこともなく進み出したのだ。上り始めると滑り落ちるどころか足を磁石のようにピタリと地面へくっつけながらスラスラと軽く歩いてゆくのである。
この行動に「人間なのか?」ととても疑ってしまうほど魔物は旅人の能力に驚き、後ろから眺めるのであった。
三百メートルほど登り続けてゆくと峠道の先からあの無のような白さに覆われた光景が現れ、ついに蛇のようなクネクネ道が終わったのである。
登り切った旅人はクタクタに疲れているどころか何か物足りないような感じの様子であり、後ろから追いかけてきた魔物もこれには恐ろしく見えたのでした。この旅人は只者ではない、そう感じたのである。
険しい曲がり坂から抜け出したその先で旅人が目にしたのは、最初の峠道から見たあの白い空間。深い針葉樹林が一斉に消え、空も地面も白く覆われた平原であった。
旅人は道を間違えて元の所に戻ってしまったのかと考えたが、よく見ると地面に積もる雪は四角いバターの面と横一文字に伸びた地平線ではなく、荒れる海のような波模様の形をしており、それが大海原の如く一面に広がっていたのです。
これも不思議な光景ではあるが旅人はそれを美しく感じ、帽子の下からゆっくりと眺めるのである。後ろにいる魔物は旅人の横隣に行くと少し笑みを浮かべながら伝えた。
「どう? 綺麗でしょ?」
旅人は白い息を吐きながら返事した。
「君が作ったのかい?」
「そうよ、この峠の魔物でありますから」
「美しいよ」
珍しく褒める旅人に魔物は嬉しそうに照れるのだった。
「何故これを?」
魔物は答えた。
「海よ」
「海?」
「私は夏を見るのが夢なのよ、だからここに
夏をイメージして作ったのさ」
「なるほどね、良い波模様だよ」
「ありがとう」
そう言うと魔物は旅人の目を見て一瞬だけ笑った。その時の旅人の目には無邪気に喜ぶ人間の少女の姿が見えたのであります。
「あなたの国の夏はこんな感じ?」
「ああ、似ているよ」
二人の何気ないやり取りはこの寒く白い空間の中で少しずつ暖かくなっていたのでした。
旅人はしばらくこの雪景色を眺めた後、「ここを歩いていいかい?」とそう囁くと、魔物は笑顔で「はい」と答え、二人は波模様の雪の中をゆっくりと歩き出すのでした。波模様の雪につく足跡はやはり一つだけであった。
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