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「ねぇ、どうしていつもそんな無表情なの?」
魔物はしつこく質問していた。峠の平原で出会った旅人を追いかけてついて行き、彼の横隣を一緒に歩きながら話しかけてくるのです。もはや魔物はこの変わった謎の旅人に夢中になっていたのである。
「どうしてと言われても……」
しつこく迫る質問に旅人は少し慌てそうにもなるが嫌がる事もなく普通に答えていた。
「私自身はこれを普通だと思うからさ。感情に動かされてしまえば何も見えなくなってしまうから——」
「難しい事言うね」
「そう思ったからさ——」
「ふーん……」
魔物は旅人の難しい答えにまた戸惑うのでした。雪を踏む音だけが小さく響いている。
「ねぇ、あなたはどこから来たの?」
魔物は質問を変えた。
「急だね」
「だって難しいのは飽きたんだもん」
「君がそう仰ったのに——」
「ううう……」
魔物は悔しくなった。
「いいじゃんそんなの! ねぇ教えてよ」
ちょっと怒るような表情を向ける。
「ここから南に離れた国から来た」
魔物はすぐに顔を変えた。
「随分と遠い所ね」
「北に向かって歩いたらこの国に来たのさ」
旅人の事を一つ知れた魔物はちょいと嬉しくなり、楽しそうに話しかけるのだった。
「あなたの国ではここと同じように雪が降るの?」
「降るよ、でもここまではないさ」
「そうなの?」
「うん」
「どうして?」
「夏が来るからさ」
「夏? あなたの国には夏があるの⁉︎」
「うん」
「いいなー、素敵ね」
「そうかな?」
「熱く燃えるあの日差しと青空が広がる楽園のように、そんな夏を見るのが夢なの——」
そう言うと前に飛び出して楽しそうに雪の上を裸足で自由にスキップした。最初に見たあの冷酷な美しさは少しずつ笑顔に変わり、湖にいる白鳥のように舞う。空は淡い雪が優しく降りて、旅人はそれを静かに見つめるのであった。
周りをスキップする魔物は旅人の目の前に止まり、顔を上げて微笑むと嬉しそうに話した。
「あなたの国はきっと素晴らしい所なんだね!」
ところが旅人はその言葉に対し、小さく首を振るのである。
「そんな事ないさ……」
否定するような予想外の返答に魔物は驚き、笑顔だった表情は一瞬にして消えていたのだった。
「——どうして?」
少し沈黙をすると旅人は答えた。
「確かに自然は素晴らしかった、海も山も川も野に咲く花も美しく見えた」
「ならとてもいい所じゃないの?」
「でも人間は変わってしまったんだ——、私も同じように……」
そう言い、旅人は白い空を見上げた。落ちる淡雪の結晶が顔につき、それが水と化し、肌の中に吸い込まれ消えてゆくのでした。
目の前にいる魔物はとても疑問に感じながらも、旅人のその無表情な顔が何か切なく見え、これ以上追求するのをやめたのである。
「ごめん……」
魔物はそう小さく謝ると、旅人はゆっくりと顔を下げて、「いえ、謝る事ない。むしろすまなかった——」と返事し、被っている帽子のツバを片手に持って位置を直した。
そして「そろそろ進みましょう」と旅人は魔物に問いかけ、ゆっくりと雪道を歩き出すのである。
「うん……」と小さく頷き、歩く旅人の背中を追いかけるように歩く。
「私しつこいかな……」
魔物は不安そうに旅人の背中に問いかけると旅人は歩きながら顔を振り向き、「いや、話し相手がいて楽しいよ」と低い声で言い、顔を前へ戻して進み続けた。魔物は嬉しそうに旅人の後ろで軽くスキップしながら進むのである。
魔物はしつこく質問していた。峠の平原で出会った旅人を追いかけてついて行き、彼の横隣を一緒に歩きながら話しかけてくるのです。もはや魔物はこの変わった謎の旅人に夢中になっていたのである。
「どうしてと言われても……」
しつこく迫る質問に旅人は少し慌てそうにもなるが嫌がる事もなく普通に答えていた。
「私自身はこれを普通だと思うからさ。感情に動かされてしまえば何も見えなくなってしまうから——」
「難しい事言うね」
「そう思ったからさ——」
「ふーん……」
魔物は旅人の難しい答えにまた戸惑うのでした。雪を踏む音だけが小さく響いている。
「ねぇ、あなたはどこから来たの?」
魔物は質問を変えた。
「急だね」
「だって難しいのは飽きたんだもん」
「君がそう仰ったのに——」
「ううう……」
魔物は悔しくなった。
「いいじゃんそんなの! ねぇ教えてよ」
ちょっと怒るような表情を向ける。
「ここから南に離れた国から来た」
魔物はすぐに顔を変えた。
「随分と遠い所ね」
「北に向かって歩いたらこの国に来たのさ」
旅人の事を一つ知れた魔物はちょいと嬉しくなり、楽しそうに話しかけるのだった。
「あなたの国ではここと同じように雪が降るの?」
「降るよ、でもここまではないさ」
「そうなの?」
「うん」
「どうして?」
「夏が来るからさ」
「夏? あなたの国には夏があるの⁉︎」
「うん」
「いいなー、素敵ね」
「そうかな?」
「熱く燃えるあの日差しと青空が広がる楽園のように、そんな夏を見るのが夢なの——」
そう言うと前に飛び出して楽しそうに雪の上を裸足で自由にスキップした。最初に見たあの冷酷な美しさは少しずつ笑顔に変わり、湖にいる白鳥のように舞う。空は淡い雪が優しく降りて、旅人はそれを静かに見つめるのであった。
周りをスキップする魔物は旅人の目の前に止まり、顔を上げて微笑むと嬉しそうに話した。
「あなたの国はきっと素晴らしい所なんだね!」
ところが旅人はその言葉に対し、小さく首を振るのである。
「そんな事ないさ……」
否定するような予想外の返答に魔物は驚き、笑顔だった表情は一瞬にして消えていたのだった。
「——どうして?」
少し沈黙をすると旅人は答えた。
「確かに自然は素晴らしかった、海も山も川も野に咲く花も美しく見えた」
「ならとてもいい所じゃないの?」
「でも人間は変わってしまったんだ——、私も同じように……」
そう言い、旅人は白い空を見上げた。落ちる淡雪の結晶が顔につき、それが水と化し、肌の中に吸い込まれ消えてゆくのでした。
目の前にいる魔物はとても疑問に感じながらも、旅人のその無表情な顔が何か切なく見え、これ以上追求するのをやめたのである。
「ごめん……」
魔物はそう小さく謝ると、旅人はゆっくりと顔を下げて、「いえ、謝る事ない。むしろすまなかった——」と返事し、被っている帽子のツバを片手に持って位置を直した。
そして「そろそろ進みましょう」と旅人は魔物に問いかけ、ゆっくりと雪道を歩き出すのである。
「うん……」と小さく頷き、歩く旅人の背中を追いかけるように歩く。
「私しつこいかな……」
魔物は不安そうに旅人の背中に問いかけると旅人は歩きながら顔を振り向き、「いや、話し相手がいて楽しいよ」と低い声で言い、顔を前へ戻して進み続けた。魔物は嬉しそうに旅人の後ろで軽くスキップしながら進むのである。
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