雪の旅人

士鯨 海遊

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 「なるほど——」

 旅人は前を見て歩きながら魔物の話を聞いていた。話している魔物は昔の思い出をとても懐かしく感じ、何か楽しそうに語っているのである。
 「要するに恋という訳だ」
 「ええ、それが私にとって初めての恋でした」
 魔物は旅人に顔を向けてニッコリと笑う。
 「あの人は元々城下に住む庶民でありましたが王国の軍隊に入り、それから功績を挙げてナイトの称号を受けたそうです」
 「ナイト……、騎士の者か——」
 「はい」
 「ナイトと姫、まさにロマンチックな話だな」
 「あの時を思うと今でも胸がドキドキします。それぐらいとても楽しかった。あの方がお城から戦地に行くまでの三日間はまさに幸せな時間だったの——」

 それから姫は出逢った騎士の男のことが気になり出し、城内で会う度に様々な話を交わっていました。男の住む町の話、姫の城内での話、お互いが自分の事を話していくうちに徐々に二人は惹かれ合うのである。

 そして三日後の夜の事、二人は外に出て城内の広場に行きました。雪は止んでいたものの広場の地面は積もった雪によって一面が紙のように白くなっていましたが、二人は何も気にせずゆっくりと歩いて周る。すると騎士の男が突然止まりだして横にいる姫に言う。
 「踊りませんか?」 
 その言葉に姫は戸惑いもなくすぐに「はい」と答え、騎士の男の手を握りワルツを踊る。始めはお互いが手を取り合いながらゆっくりと回っていたが、次第に慣れていくうちに騎士の男の片手が姫の脇腹に手を添えて、姫はそれに合わせるように自分の片手を騎士の男の肩に置き、二人の体は段々と近づいていた。外の寒さも鉄の鎧部分が擦る男も忘れ、一面に積もる雪の広場に足跡をつけながらしばらく大きく回って踊り続けるのであった。

 やがて踊りが終わると騎士の男は姫の目を見つめがら話した。
 「姫様、私は明日の朝に戦地へ旅立ちます」
 姫はそれを聞いて悲しそうに騎士の男の目を見る。
 「やはり行ってしまうのですね……」
 「はい」
 「私とても悲しいですわ。だってあなたとこうして一緒に居たいですもの、離れたくない——」
 「私もです、姫様」
 「行かないでほしい、でないととても辛い——」
 姫の目に涙が流れる。踊りを終えても二人は手を離さず、お互いの距離はもうほぼ無いほど体同士が磁石のようにくっついていた。
 「本当は姫様とこうして一緒に居たい、ですが私はナイトの身です。この王国と故郷、そして姫様をお守りする為に戦いに行かなくてはなりません」
 騎士の男は優しい声で姫に伝えた。
 「そうですよね……」
 姫の目は騎士の男の顔から目線を下げて俯く。すると騎士の男が「姫様」と呼びかけ、姫の顔が上がるとこう言った。
 「もしこの戦争が終わり、生きて帰ってこれたら私と一緒になってくれませんか。私は姫様、いえあなたを愛しています。例え身分が違くても、王様の逆鱗に触れようとしても、あなたのそばにずっと永遠にいたい——」
 騎士の男は姫に求婚と愛を告白したのである。彼の言葉にはこの先の戦と命をも覚悟を決めて永遠の愛と幸福を誓う強い気持ちの言葉でありました。それを聞いた姫は騎士の男の顔をもう一度見ると、それは騎士道の精神を貫き、容姿を整え冷静な美しい王子様のような姿に見えていたのです。
 姫はまた涙を流し、顔を赤くして笑みを浮かべると「はい」、と喜んだ。同時に騎士の男も笑顔になると二人は抱き合い、口づけを交わした。その後に姫は小さく騎士の男に囁く。
 「あなたの名前、教えて」
 騎士の男は答えた。
 「オリン」
 「素敵な名ね」

 そして二人は長い接吻をした。——
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