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信茂が斬首された後、織田信忠はすぐに岩殿城へ兵を差し向け、小山田の残党への追跡が行われることになる。行村の館も調べられ、もぬけの殻であることがわかると織田の者達は行村とその一味を探しに東へと追う。
その頃、行村達は山を越えて道志川を渡り、相模国へ入ると津久井の青根に着く。
川を渡っていたことで姫の服はずぶ濡れで身体の体温は冷え切っていたが、翁と姥の肩を両手で組みながらゆっくりと進む。
「姫さま、大丈夫ですか……?」
姥は常に折花姫の事を心配し、何度も何度も声をかけていた。
「婆や、私は平気ですわ」
姫は弱音の一つも吐かずに返事して姥に少しの笑顔を見せていたのである。
相模国に入ると川は二つに別れていた。一つは行村達が歩いていた本流の道志川ともう一つは北丹沢から流れている支流、神之川である。合流した川はそのまま道志川となって津久井の方へと流れている。
「行村殿、ここは川の流れている方へ歩きましょう。そうすれば津久井へ向かい、小田原へ行けますぞ」
この翁は姫の世話人であるがかつては武士の身であり、過去には武田信玄による小田原攻めにも同行していた。その際に津久井へ行った経験がある為、この辺りの土地は詳しのである。
しかし、行村は翁の助言とは反対に別の川である神之川の方を選択した。
「いや、あの川の方へ行こう」
「しかし、あちらは逆方向でございますぞ」
「確かに爺やの言う通りではあるが、そろそろ日が暮れて危険じゃ。それにもし織田が北条と通じておれば我々は北条に捕らえられ、織田の所へ連れて行かれてしまうかもしれん。ここは少し離れた所に隠れて様子を見よう」
「行村殿がおっしゃるならそうしましょう」
四人は道志川から神之川沿いへと歩き、長者舎のところまで行くとそこにある廃小屋に入り身を潜めた。
長い移動で疲労した姫は一安心して床へ座り込み、翁と姥は火おこしの準備を始める。
「皆ご苦労であった。しばらくはここで滞在しよう」
行村はそう言うと身に付けていた甲冑を外し、体を横になって休んだ。
その夜、行村は折花姫を外へ呼ぶ。
「父上、どうかなさいましたか?」
「娘よ、お前にこれを授けよう」
行村が渡したのは護身用の懐剣であった。
「これは……」
「いつかそなたに渡そうと思っていたが、今それを渡す時が来た」
懐剣の持ち手である柄(つか)と鞘は竹で作られていたが、柄の真ん中に小さな椿の花が描かれている。
「この先何が起こるがわからない。——もし敵に襲われたならそれを使って守り、そして時が来たら命を絶ちなさい——」
「父上…………」
行村は折花姫に懐剣を渡してゆっくりと夜空を見上げた。姫は懐剣を帯に差し、はっきりとした声で返事をするのである。
「父上、私はいつでも覚悟しております!」
すると行村は小さく頷く。
「そっか。——じゃがこれだけは守ってほしい。最後まで生きるのを諦めないでくれ——」
それを聞いた姫は笑顔になって「はい」、と返事した。——
「見よ、星が綺麗じゃのうー」
「ええ」
長者舎の周りは真っ暗であったが、空に浮かぶ無数の星達は白く輝いていたのである。
その頃、行村達は山を越えて道志川を渡り、相模国へ入ると津久井の青根に着く。
川を渡っていたことで姫の服はずぶ濡れで身体の体温は冷え切っていたが、翁と姥の肩を両手で組みながらゆっくりと進む。
「姫さま、大丈夫ですか……?」
姥は常に折花姫の事を心配し、何度も何度も声をかけていた。
「婆や、私は平気ですわ」
姫は弱音の一つも吐かずに返事して姥に少しの笑顔を見せていたのである。
相模国に入ると川は二つに別れていた。一つは行村達が歩いていた本流の道志川ともう一つは北丹沢から流れている支流、神之川である。合流した川はそのまま道志川となって津久井の方へと流れている。
「行村殿、ここは川の流れている方へ歩きましょう。そうすれば津久井へ向かい、小田原へ行けますぞ」
この翁は姫の世話人であるがかつては武士の身であり、過去には武田信玄による小田原攻めにも同行していた。その際に津久井へ行った経験がある為、この辺りの土地は詳しのである。
しかし、行村は翁の助言とは反対に別の川である神之川の方を選択した。
「いや、あの川の方へ行こう」
「しかし、あちらは逆方向でございますぞ」
「確かに爺やの言う通りではあるが、そろそろ日が暮れて危険じゃ。それにもし織田が北条と通じておれば我々は北条に捕らえられ、織田の所へ連れて行かれてしまうかもしれん。ここは少し離れた所に隠れて様子を見よう」
「行村殿がおっしゃるならそうしましょう」
四人は道志川から神之川沿いへと歩き、長者舎のところまで行くとそこにある廃小屋に入り身を潜めた。
長い移動で疲労した姫は一安心して床へ座り込み、翁と姥は火おこしの準備を始める。
「皆ご苦労であった。しばらくはここで滞在しよう」
行村はそう言うと身に付けていた甲冑を外し、体を横になって休んだ。
その夜、行村は折花姫を外へ呼ぶ。
「父上、どうかなさいましたか?」
「娘よ、お前にこれを授けよう」
行村が渡したのは護身用の懐剣であった。
「これは……」
「いつかそなたに渡そうと思っていたが、今それを渡す時が来た」
懐剣の持ち手である柄(つか)と鞘は竹で作られていたが、柄の真ん中に小さな椿の花が描かれている。
「この先何が起こるがわからない。——もし敵に襲われたならそれを使って守り、そして時が来たら命を絶ちなさい——」
「父上…………」
行村は折花姫に懐剣を渡してゆっくりと夜空を見上げた。姫は懐剣を帯に差し、はっきりとした声で返事をするのである。
「父上、私はいつでも覚悟しております!」
すると行村は小さく頷く。
「そっか。——じゃがこれだけは守ってほしい。最後まで生きるのを諦めないでくれ——」
それを聞いた姫は笑顔になって「はい」、と返事した。——
「見よ、星が綺麗じゃのうー」
「ええ」
長者舎の周りは真っ暗であったが、空に浮かぶ無数の星達は白く輝いていたのである。
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