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「婆や……、すまない……」
折花姫は追手を別の場所に引き寄せて騙す為に自ら犠牲になって囮となった姥に涙を流しながら念仏を唱える。翁と折花姫の二人は神之川を渡って川岸へと向かうと渓谷沿いの岩場を登るようにして逃げていく。
「姫様、行村様と婆やの為にも必ず生きて北条の所へ行きましょう」
「はい、父上と婆やの為に」
神之川の渓谷を登り津久井を目指す。しかし神は二人を助けることをしなかった。
渓谷には追手達が捜索しており、逃亡する二人の姿を見つけてしまうのであります。
「いたぞ! あそこだ!」
追手達は弓矢を持ち、登る二人に向かって矢を放つ。射たれた矢は獲物を狙う鷹のように素早く二人を襲った。翁と折花姫はその矢に当たる前に岩々を急いで登ってゆき、もうすぐ渓谷から森へと抜けようとした。しかし放たれる無数の矢は獲物を逃さず、一本の矢が翁の背中に当たって刺さるのであった。
「グウッ!」
「爺や!」
翁は矢が刺さり激しい痛みを必死に耐えるが背中から出血し、もはや逃げれる状態ではなくなってしまう。もはやこれまでかと感じた翁は覚悟を決め、折花姫に伝えた。
「姫様、爺やはもうこれまででございます……」
「嫌です……、嫌です! 爺やまで死ぬなんて嫌よ。一緒逃げようよ……」
「姫様、誠に申し訳ございません。爺やはもう助からないでしょう……。ならば最後に奴を喰い止める覚悟でございます。ですから姫様だけでも、姫様だけでもどうか生きてください!」
翁の言葉に姫は涙をこぼし、唇を噛みしめながら小さく頷くと、立ち上がって一人森の奥へと走り去った。去ってゆく折花姫の後姿を見つめながら合掌をすると翁は痛みに耐えるように立ち上がり、刀を両手に持って渓谷へと戻る。渓谷へ着くと登っていく追手達に向かって大きく叫んだ。
「織田の野郎共、このワシが相手じゃ! この先へは一歩も通せぬぞー!」
そう言い、渓谷を走るように下りて追手達に突っ込む。翁は元武士の身、それであってか刀を上手く使い、一人二人と登ってくる追手を次々と斬る。
「オリャアァァァー!」
翁の掛け声は歳を取っていながらも凄まじく、渓谷にいる追手達を恐れさせた。
「ひ、怯むな! 相手はジジイ一人だ、人数をかけて討てぇ!」
追手達はさらに手勢を増やし、翁の方へと向かう。翁は迫って来る敵と交戦し、また一人と斬る。しかし敵は増えてゆくばかりで気がつくと翁の周りを追手達に囲まれてしまった。それでも翁は奮闘して戦うが耐え切れず、一人の追手の刀が翁の腹を突くと口から血を吐いてしまうのである。
「ウブッ……」
だが翁は息を止めることなく腹を突いた追手の首元を刀で斬ると、次の相手に向かって斬りかかろうとした。しかし後ろから一人の追手が背中を斬ると前にいた二人の追手が胸と脇を突き、さすがの翁も粘り切れずにそのままの状態で心臓が止まり力尽きるのであります。——
折花姫は追手を別の場所に引き寄せて騙す為に自ら犠牲になって囮となった姥に涙を流しながら念仏を唱える。翁と折花姫の二人は神之川を渡って川岸へと向かうと渓谷沿いの岩場を登るようにして逃げていく。
「姫様、行村様と婆やの為にも必ず生きて北条の所へ行きましょう」
「はい、父上と婆やの為に」
神之川の渓谷を登り津久井を目指す。しかし神は二人を助けることをしなかった。
渓谷には追手達が捜索しており、逃亡する二人の姿を見つけてしまうのであります。
「いたぞ! あそこだ!」
追手達は弓矢を持ち、登る二人に向かって矢を放つ。射たれた矢は獲物を狙う鷹のように素早く二人を襲った。翁と折花姫はその矢に当たる前に岩々を急いで登ってゆき、もうすぐ渓谷から森へと抜けようとした。しかし放たれる無数の矢は獲物を逃さず、一本の矢が翁の背中に当たって刺さるのであった。
「グウッ!」
「爺や!」
翁は矢が刺さり激しい痛みを必死に耐えるが背中から出血し、もはや逃げれる状態ではなくなってしまう。もはやこれまでかと感じた翁は覚悟を決め、折花姫に伝えた。
「姫様、爺やはもうこれまででございます……」
「嫌です……、嫌です! 爺やまで死ぬなんて嫌よ。一緒逃げようよ……」
「姫様、誠に申し訳ございません。爺やはもう助からないでしょう……。ならば最後に奴を喰い止める覚悟でございます。ですから姫様だけでも、姫様だけでもどうか生きてください!」
翁の言葉に姫は涙をこぼし、唇を噛みしめながら小さく頷くと、立ち上がって一人森の奥へと走り去った。去ってゆく折花姫の後姿を見つめながら合掌をすると翁は痛みに耐えるように立ち上がり、刀を両手に持って渓谷へと戻る。渓谷へ着くと登っていく追手達に向かって大きく叫んだ。
「織田の野郎共、このワシが相手じゃ! この先へは一歩も通せぬぞー!」
そう言い、渓谷を走るように下りて追手達に突っ込む。翁は元武士の身、それであってか刀を上手く使い、一人二人と登ってくる追手を次々と斬る。
「オリャアァァァー!」
翁の掛け声は歳を取っていながらも凄まじく、渓谷にいる追手達を恐れさせた。
「ひ、怯むな! 相手はジジイ一人だ、人数をかけて討てぇ!」
追手達はさらに手勢を増やし、翁の方へと向かう。翁は迫って来る敵と交戦し、また一人と斬る。しかし敵は増えてゆくばかりで気がつくと翁の周りを追手達に囲まれてしまった。それでも翁は奮闘して戦うが耐え切れず、一人の追手の刀が翁の腹を突くと口から血を吐いてしまうのである。
「ウブッ……」
だが翁は息を止めることなく腹を突いた追手の首元を刀で斬ると、次の相手に向かって斬りかかろうとした。しかし後ろから一人の追手が背中を斬ると前にいた二人の追手が胸と脇を突き、さすがの翁も粘り切れずにそのままの状態で心臓が止まり力尽きるのであります。——
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