背教者

士鯨 海遊

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2 終

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 「あなた達こそ自分勝手ではないか?」

 女はため息を吐くかのようにして言う。
 「人間も身勝手だがあなた方の方がより酷い。都合の悪い事を触れず、その行為を綺麗事のように述べる」
 「我々は人間の悪い行いを正すように罰を下したのだ」
 「罰だと? ほう、では罰なら殺害も許されると言う訳だ。天にいる者達は加減というのを知らないようだ」
 「貴様! 冒涜だぞ!」
 裸の女は立ち上がり急に声を荒げる。
「ああそうさ、皮肉だよ」
 私は続けて言う。
「お前達は全知全能であるからと言ってそれ以外の生命を見下している。一方的に力と支配に抑えられたら不満を持つのは当然だ! 誰であれ批判をする権利がある! それがアダムとイヴでもだ!」
 そう言いながら私自身も立ち上がり、裸の女を強く睨んだ。それから数十秒間の沈黙が起こる。

 すると女は落ち着くように話す。
 「あの者達は禁断の果実を食べた。食べてはいけないという誓いを破ったのだ。それが罪の始まりだ——」
 「では何故エデンの園に禁断の果実を置いた? そもそも人間が知識を持つ事は悪であるか? ——アダムとイヴは蛇に唆されて禁断の果実を食べたのではない。人間という生命の進歩の為にその身を食べたのだ。それをあなた方は罪と大袈裟にして追放させたのだ」
 「大袈裟だと? 約束を破るという行為は罪なのだ。それだけではない、アダムとイヴと人間共は様々な罪を犯し始めたのだ。人間は生まれながらにして罪人である」
 「その罪を持つ人間を作ったのは誰だ⁉︎」
 「だからこそその罪人である人間を救う為に我らがいるのだ」
 「嘘だ! 嘘をつけ!」
 「嘘ではない。人間を作った我らだからこそ救う義務があるのだ。信じればよい。信じる者は救われる」
 「ならば全ての生命を救えば良いではないか!」
 「そのつもりである。幸福でないという者達はそれが試練であると気が付いていない。試練を乗り越えることで人間に取り憑く罪を浄化するのさ」
 「試練だと? 余計なお世話だ」
 「なんだと?」
 「不幸も病も失敗もそれが試練だと言うならば望んでない者達にとってそれは苦しみだ。——苦しみ、それを与えたのは神お前達ではないか!」
 「貴様、我々の行為を侮辱するつもりか?」
 「そうさ、これら全ての傲慢なる行いに苛立つから冒涜しているのだ!」
 「言葉を慎め」
 「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! お前達は始めから救う気など無い! お前達の行いは十字軍とピサロと同じ俗物だ! 恥を知れ、俗物!」
 「貴様! やはり人間は愚かであったか。その愚かな人間共を今ここで消し去ってくれるわ!」
 「ああそうかい! やれるものならやってみるがいい。それがお前達の答えであるならば!」

 私は大きな声を出して恨むように強く睨む。そして神である裸の女は怒り、右手を上げた。手のひらに稲妻のような光が少しずつ大きくなっていくのが見える。これで私の身体と人間達を消すのだなと感じた。
 ところがその女は急に右手を下げて光を消した。すると女は言った。

 「そなたは何故背教した?」
 怒り出していた神が急に冷静になったことに私は驚くのである。
 「何故って、さっき言った事が全てだ」
 「いいえ、あなたの者達はみな信仰を守っていた。あなた自身もかつてはそうだった」
 「その通りだ。でも私は背教者だ」
 「あなたの事は知っている。本当はあなた自身とあなたの大切な者が周りの信仰者に邪魔されたせいで幸福になれなかったからです。教えと信仰する人間達に幸福を奪われたことがあなたの心を変えてしまい神を憎んだのだろう——」

 私は黙ってしまった。神は私の事を見ていた。
  「我々はあなたを罰する為に現れたのではありません。あなたを救う為に来たのです」
 私は俯いて小さく返事した。
  「——そうかい……」
 裸の女は私を見つめた。まるで優しい母の目のように。

 「分かりました。では我は去ります。いずれここから目が覚めるでしょう」
 そう言うと裸の女は私の元を離れ出した。
 「最後に聞きたい、あなたは誰ですか?」
 裸の女は振り返り、そして答えた。

 「創造者、主である」
 
 終
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