機械の森

連鎖

文字の大きさ
72 / 86
暇つぶし

組織①

しおりを挟む
 店の奥へ向かうと、麗華は人の良さそうな男の声で挨拶をされる。

「れいちゃん。お帰り」

 しかし、周りに見えるのは明らかにSFと言ってしまいそうな場所で、
 麗華では、彼等が何をしているかわからないし、
 どこを見ていいのかもわからない。

 そんな場所で話しかけてきたのは、
 明らかに太り過ぎで、脂ぎった顔が気持ち悪い独得な臭いをさせた男。

「こんにちは。山本さん」

「いつも表情が硬いな~…れいちゃんが相手なら、
 りゅうくんでも。りゅうじ。やまちゃんでも、いいってぇえ」

「今回は、山本さんに、お手数をおかけして、大変申し訳、御座いません」

 子供用の浴衣を着た背の高く妖艶な女が、丁寧に頭を下げていく。

(サイアク…まさか、山本を、あえて寄越すなんて…はぁ~、いやっ!)

 麗華が山本に嫌悪感を抱いているのを知っていて、
 クロが選んでいると気付いているが、それでも組織上では上司なので、
 彼女では何も言えない。

 夜光機構の中でも、一番関わりたくない男――

 太りすぎた体に気持ち悪い汗を流し、いつものように薄ら笑いを浮かべ、
 上司の権力を笠に着る卑しいクズデブの変態中年。

 その目は舐めるように、麗華の身体を下から上へと往復する。

 いつもなら、すぐに検査だと言って服や下着を脱がせ、
 山本が嬉しそうに自分の身体を味わっているのだが、
 今回は“異形の粘液に犯された”と知っているのか、手を出してこない。

(本当にクズよね。別にコイツに触られたって、何も感じないけどさ…)

「大丈夫だよ…れいちゃんがいるなら、僕は、何処にだっていくよ」
「すみません。山本さん。ありがとうございます。」

「全て聞いているよぉお。ちょっと、異形に犯されたんだっけぇえ?」
「いや…」

(大声で叫ぶ必要ってある? 周りに聞かせる理由って何よ!)

 麗華でもさすがに怒鳴るのを抑えたが、表情に出てしまったらしく、

「ああ、悪かったな。舐め回されたんだっけな…サアァ、さっさと脱げ!」

 山本のいい上司という仮面を取り去るほどには、
 麗華の態度は、彼を不快にさせたらしい。

(そうでしょうよ…あんたは、そういうヤツだもんね~)

 山本は、さっきまでの労うような態度に気持ち悪い笑みまでもが消え、
 何処か汚れた物を見るような、軽蔑するような態度で麗華を見てくる。

 麗華は彼の本性を見た気がして、一段と嫌悪感が全身を駆け巡る。

 もちろん、上司の命令なので断る事は出来ないし、
 この全てを見て、クロが嬉しそうに笑っている気さえした。

 仕方なく、いや堂々と、帯を解き、浴衣を肩から滑らせて落とす。

「んっ………そこだ! さっさとはいれ」「ハイ!」

(本当にお子様よね~。そんなに焦った顔をして、ほんっとおに面白いわ)

 山本は、麗華の裸など見慣れているし、上司として身体の関係さえある。
 もちろん部下の彼女は、彼が求めれば断る事など出来ない。

 それなのに山本は、彼女の全裸を見た途端に目を見開いていた。

 麗華の身体に産毛などないし、シミやくすみさえも消えて、
 180cmの女という圧倒的な身体が周りを威圧し、
 巨大で美しい瓜核型の乳房が、持ち上がって主張している。

 上向いたお尻は胸から見れば小さく感じるが、
 有名なスポーツ選手と言われても納得してしまう程に引き締まり、
 くびれたウエストがセットになって美しく麗華を着飾っていた。

 しかも麗華は高身長なのもあって、長い脚が女豹のような魅力を高め、
 彼女の冷たく見える目も、相手を食い殺すような女には似合っていた。

(そんなに抱きたいの? あはは、そう? あの粗チンでさ…)

 そんな彼の姿を見て多少気が晴れた麗華は、
 全面ガラス張りの狭く立って入る日焼けマシーンのような、
 小さな個室に向かっていく。

 その部屋の扉を開けて中に入った途端、
 麗華の身体は、サウナのような熱気と白々しい照明に包まれた。

 最初からわかっていたが、スモークやカーテンなども無く、
 どこからでも覗ける作りが、意図的な羞恥心と興奮を演出してくる。

(はいはい…汚いですから…そうですよね…洗浄でしょ!)

 何度も入ったことのある麗華の身体は気付いていたが、
 入った瞬間に、息も止まりそうに冷たいシャワーが頭上から降り注いだ。

 シャワーの水流が頭から肌を打ち、背筋が震える。

 さらに壁や足元から伸びたノズルが生き物のように動き、
 隠れた場所まで潜り込んで、容赦なく洗おうとしてくる。

「脚だ!ちゃんと広げろ!何か、奥に残っていたら、どうするんだ!」
「ちゃんと洗ったわよ!そんなに心配?ちっさいくせに!」

 苛立ちを込めた声も、男には鼻で笑われるだけだった。

「ユルイ女がよく言う言葉だな。さっさと自分でも広げろ!終わらんぞ!」

 さっき脱いだ子供用の浴衣は、密閉容器にいれられ、
 白衣の助手が無言でそれを回収し、部屋の奥へと消えていった。

「浴衣は旅館の備品よ。ちょっと返して!」
「異形の何かに、汚染されたかわからないからな。全て処置しておく」

「はぁ~……汚染、ね…そう…汚染って…」


 組織①
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...